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時過ぎても、想いは変わらず  作者: 美緒
第三章 第二王子の葛藤と悩み、そして決意
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Ⅵ 回想と再認識

今回はタイトル通り回想がほとんどです。



 その後、懐かしさに浸っていたレイは周りの騎士達が動き出していることにシュアークに肩を叩かれるまで気がつかなかった。

 幸いにもと言うべきか、シュアークとフォルテだけでなくクメールと数名の謁見室にて護衛をしていた者たちはレイの正体を国王によって知らされていた為、すんなりとレイを受け入れていた。

 そのすぐに受け入れることのできた彼らに表情には出ることはなかったがレイの内心は驚きに満ちていた。

 ここまですんなりと自分を受け入れる人たちを数え切れない歳月を生きているレイでも見たことがなかったからだ。

 この世界にはバンパイアといわれるモノが存在しないばかりか、想像の産物にもないから余計にかもしれないが、それでももう少し警戒心や不信感を露わにされても仕方がないように感じた。


 シュアークに付いて来いと言われ、鍛錬場からほど近いところにある建物の中に入り二階にある部屋に入った。

 本棚や机の上に書類があることから誰かの執務室らしい。

 無断で入ったところを見ると騎士団隊長であるシュアークの執務室だと推察した。

 執務室の前に陣取っている来客用の椅子と机があり、その一つの椅子に座るようレイに勧めた。

 勧めるというより、命令されたようなものだった。

 シュアークの表情は無表情で何を考えているのか分からなかったが、醸し出す雰囲気が怒りが込められていることにレイが気付かないはずはなかった。

 何が悪かったのか思わず子供が悪戯をした後に叱られるのを待つのを恐れる様に、自分がした事を思い出していた。

 シュアークが警告した部屋から出るなという警告を無視しで城内を散策したことなのか、第二王子であるフォルテの指南役になったことか、騎士の鍛錬場にいたことか、バルーゼという騎士を追い立てて決闘に持ち込んだことか、さてどれだろうか……。

 神妙に考えていると脳裏に昔の事が浮かんでしまった。



 ――――まだ時和が生きている時の事。


 時和に拾われたすぐによくこのように怒られることがあった。

 世間について疎かった彼女はしていいことと駄目なことが分からなかった。

 興味本位でしたことによく叱られ、そして困らせた。

 あの時の時和も今のようにすぐに怒ることはせずにレイを自分の目の前に座らせ、しばらくの間無表情で何か考え込むようにしてレイを見ている。

 最初は居心地が悪くて逃げ出したくなっていたレイだが、自分自身を見て叱ってくれる時和に対し次第に素直に彼の前に座り、静かに説教を受けていた。

 それは、例えレイが悪くても頭ごなしに叱ることはなかったし、なにがいけないのか世間知らずのレイに丁寧に教え聞かせてくれた。

 彼の事をここまで思う要因の一番は、自分に対し無償の愛情を見せてくれたからだと思う。

 実の親にさえ愛情を与えてもらえなかった。

 それを見ず知らずのしかも人間ですらなくなったレイに対し、ただ優しく手を差し伸べてくれた時和を徐々に受け入れていった。


 人を信じることが出来なかった彼女。


 そんな彼女が、人を信じ守るようになった一種の誓いは、


 たった一人の人間の男の優しさと人柄から彼女に無償の愛情を与えたことだった。


 しかも、それはただの序章に過ぎない。




「――レイ」

 はっと、遠くに飛んでいた意識が現実に戻る。

 以前とは違うイントネーションで己を呼んだ人物を見返すと、先ほどと何ら変わりのない表情のない顔だった。

 自分が意識を飛ばしていたのはほんの数分だと思い、思わずホッとする。

 だがほっとした瞬間、レイが何も話を聞いていなかったことに気付いたシュアークが小さくため息をついた。

「聞いていなかったのか……」

 自分が悪いのは承知していた為、思わす視線をそらして下を向いた。

 どうもシュアークに対しては強く出ることが出来なかった。

「部屋を出るなと行ったのは少々強引だった。

 だが、騎士と決闘していいと言ってはいない。

 陛下が我が国に加勢してもらいたいと言われたからには、騎士達と面識がないのは困ると思って、後日対面させようとしていたのだが……」

 いろいろと計画していたことが、レイの勝手な行動によって水の泡になってしまったらしい。

 深々とため息をついて椅子に沈み込んでいくシュアークを見ると血を吸われたのも含めてみても疲労感が大きいように見えた。

「フォルテの事が気になったから探していたらこうなった。別に最初から騎士と決闘するつもりはなかったのだが、舐めてみられないように知らしめるにはちょうどいいと思ったのは否定しない。それに、悪いことをしたつもりは毛頭ない」

 暗に今回の事で謝るつもりはない事を意志表明すると、シュアークは片手を振った。

 別に誤ってもらいたかったわけではないらしい。

 では、身勝手な行動を慎めと言いたいのか……なかなか難しい相談だと、レイは内心で口をこぼした。

「俺も、貴女の腕前を知りたいとは思っていたので今回の事は深く咎めたいわけではないが、あまり身勝手な行動をとると反感を買う恐れがある。

 まだ、貴女の事を信用している人物は限りなく少ない。

 はっきり言えば、いないに等しい事も念頭に入れて行動してくれ」

 レイの事を心配してくれているような物言いに、他人がどう思っているのかよりも気になる彼の自分に対しての認識が知りたかった。

「あなたは、私の事をどう思っているのですか?」

 遠回しになど聞きたくなかったからそのまま直球に聞いた。

 この世界に来て出会ってほんの数日という日数でしかもあったのはその日にちよりも少ないのにどう思っているのかと問うのも酷なように思ったが、これだけは知らずにはいられない。


 信用してくれとまでは言わない。


 だが、ここにいることを否定してほしくはない。


 なんの為にこの世界に来たのかは自分でも分からない。


 でも、彼のいる――時和の生まれ変わりであるシュアークに出会えただけで来たかいがあったとさえ思える。


 敵と思われていないのならば、それでいい。


 シュアークはレイが放った問いに深く考えずに答えた。

「貴方がなぜこの国の為に力を貸してくれるのか分からないが、貴女ほどの力のある人が手を貸してくれるというのは今のこの国にとって幸運でしかない。

 例え、誰かを守りたいという理由でも」

 気付いて貰えてない事にショックを受けなかったと思いたかったが、残念ながら否定しなければならない。

 すでに動かなくなった胸のあたりがツキリと痛んだように感じた。

 その痛みをごまかすように、誰かを守りたいなどという不純な――あやふやな理由を信じてもらえているのが不思議で思わず問いかけていた。

「そんな理由を本当に信じて?」

 疑う姿勢を見せれば、シュアークは意外だとでもいうように呆けた顔でレイを見返してきた。

「あの時の貴方の声は、優しさと力強さがあった。

 うわべだけの理由であればなおさらだと俺は思うよ。

 これでも一国の騎士をしていて多くの部下も見てきている。

 上部だけでこの国を守りますと言う者と、心の底からそういう者とは態度や表情も違えば、声質がかなり異なるものだ。

 本当に守りたい者がいなければあんな声では言えない」

「そう……」


 信じてもらえたことに喜びを感じるが、やはり次の瞬間にはその守りたい者が自分であることに気付いていないことにショックを受けていた。


なんとか年内に更新はできました。^^;

ここまで読んで下さった方本当にありがとうございます。

後一日ありますが、更新できるかは定かではないので、ここで心からお礼申し上げます。


よろしければ来年もどうぞよろしくお願いします。

それでは良いお年を。

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