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時過ぎても、想いは変わらず  作者: 美緒
第三章 第二王子の葛藤と悩み、そして決意
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 うとうととまどろみの中にいた。


 身体が重い。


 こんなに疲れたのは久々だった。


 いったい何をしてこんなに疲れたのか、靄のかかっている頭で思い出しているうちにレイの存在を思い出し飛び起きた。

 本調子とはいえない身体で無茶したためか身体がグラリと傾いたが、何かをつかんで落ちるのを防いだ。

 顔を上げ、周りを見渡せばここがレイにあてられた応接間だということに気がついた。

 自分が横になっていたのはそこにある長椅子だった。

 そして、レイに取引の条件である血を与えたところで記憶がなくなっていることに辿りつく。

 重い体に叱咤をかけて動かし椅子に腰かけ、前のテーブルに何かの飲み物が用意されていた。

 メイドがレイのために用意した物なのか分からなかったが、ひどく喉が渇いていたのでそれを一気飲みした。

 その隣に用意されていた果物をそのままかぶりついた。

 栄養価のあるメリーと言われる甘酸っぱい果物だった。

 さらに用意されていたナイフを使わず、用意されていた果物三つを平らげると少し身体が楽になったように感じた。

 自分から血を飲んだレイがどこにいるのか気になり、彼女にあてられた部屋内を探すが見当たらなかった。

「くそっ」

 思わず悪態が口からこぼれたが、その言葉を聞くものは誰ひとりいなかったのが幸いだった。

 今までこちらの言い分に順従だったレイに気を許し過ぎていた。

 城内を出歩くなと忠告した時に嫌だとは言わなかったが、明らかに不服があった。

 まだ城内について何も知らない彼女がどこにいるのか予測できなかった。

 取りあえず人手を集め探した方が早いと考えたシュアークはふらつく頭と思い身体を引きずってレイの部屋を後にした。


  * * * *


「何をしているっ!」


 思わず敬礼をしてしまいそうな威厳のある声が鍛錬場に響き渡った。

 鍛錬場にいたすべての騎士達がその声の主を知っており、姿勢を正してその人物の方へと向き直った。レイはゆっくりとその人物を視界にとらえた。

「あら、意外と早かったのね。

 でも、まだ横になっていた方がいいと思うけれど」

 背筋を伸ばし毅然とした風格を漂わせていたシュアークが、貧血のためかフラフラと歩いてきた。

 心なしか顔が青白く見えないこともない。


「何をしていると聞いている! 質問に答えろっ」

 その外観に比べ言い放つ言葉は鋭く、威厳がこもっていた。

 先ほどまで偉そうに突っかかってきていたバルーゼの顔の色がなくなっているように見えた。

 シュアークの怒りの剣幕に怯えているかと思ったが、その考えはすぐに捨てた。

 仮にも騎士に属している目の前の様な男が怒られることに怯えるわけがない。

 どちらかといえば、慕っている人物に見られたくない場面を見られてしまったといったところだろうか。

 ふふっと思わず笑いを漏らしたらシュアークにすごい眼差しで睨みつけられた。

 別にフラフラしているシュアークを見て笑ったわけではなかったのだが、この現状事態も気に入らないのだからどちらの事に対して怒っているのか分からなかったが(恐らく両方だろうが)、何食わぬ顔で笑って相手にしないことにした。

 すると彼は意味がないことにすぐに気付いて行き場のない怒りをその場に吐き出していた。

 くそなどど到底普段では聞けないような暴言を言いたい放題言って取りあえずは腹の虫が治まったのか、再度この場にいる者たちに説明を促した。

 それでも話すのを渋っている騎士達、あまりの気まずさに視線を外し身の置き場に困っている者たちにため息をついた。


「仕方がありません。私がご説明しましょう」

 私のせいでなったわけではありませんと言っているように聞こえるこの言葉に、多くの騎士が非難がましい目で見て来たので、妖艶に微笑んでおいた。

 微笑むだけで大抵の人間は私から視線を外してくれるから便利だ。

 もっとも私の微笑みが通用しない挙句、血が少なくなって機嫌の悪いこの男は低い声音で返事をした。


「ああ」


「簡単に要約して言いますと……、

 フォルテが気になって探し出し、話を聞くと騎士になりたいと言った。

 力をつける為に指南役を頼まれたが、身分に囚われているこの人たちにこの細腕で剣が使えるのかと言われたので、手っ取り早く私の実力を分かってもらえるように、彼と決闘をすることになった」

 その語尾にただそれだけと続きそうなほど簡潔な説明だった。

 しかも、明らかにレイ視点の話の内容だった。

 あまりにも要約しすぎている内容にクメール以外の今までのやり取りを見ていた騎士達がげんなりとした表情になっていた。

 当のシュアークはあまりにも要約されて話されている内容と、周りにいる騎士達の表情の悪さに判断が出来かねているようだった。


「クメール、どういうことだ?」

 ここにいる中で一番信頼している副官を呼んだ。

 呼ばれた副官は短く返事をすると、シュアークの傍に歩み寄ってきた。

 しかし、彼だけは渋い顔つきではなかったのにシュアークは気付いた。

「貴女のおっしゃっている内容はあながちな違いではありません。

 ですが、補足いたしますと――フォルテ様に対し、正式な騎士としての訓練を行っていなかった事は分かっておりました。

 その点に関してはアーク、あなたもご存じかとは思いますが……」

 苦い顔で頷き、先を促す。

「しかし、フォルテ様はその待遇に満足していなく、本当の騎士になりたかったので、レイ様に指南をお願いしたのではないかと思います。

 そこで、バルーゼがレイ様の腕がどれほどのものかわからなかったので、突っかかったところ決闘ということになりました。

 この事については私も疑問がありましたので特に止めることはしませんでした」


 そう話すクメールは自分のした事実を隠すことなく話した。

 本来ならば副官という立場がある彼は止めなければいけなかったのだ。

 しかし、レイの実力を何も知らないままではこれから国の為に力を貸してもらえる契約を国王と取り交わしていたとしても、どう力になってもらえるのかは何段出来なかったのだ。

 もし、多大に評価しすぎていたとしたら、その損害は計り知れない。

 最悪、この国がエルバイヤ国に乗っ取られてしまったという事態にもなりかねないのだ。


 クメールはあの謁見の場にもいたので、まったくレイの腕前がないとは思っていない。

 あの場を支配する威圧感が嘘だとは思えなかったが、正直どれだけの実力があるのか知りたかった。

 それは、目の前にいる上官であるシュアークも同じことだろうと思った。

 そして、この国の剣豪にも数えられるバルーゼの無茶な暴走を止めようともしなかったのだ。

 大体の経緯は分かったのでシュアークは頷いた。

 確かに、国王に許可が下りたからと言って国を守る騎士達は実力も分からない、しかも身分のある淑女と見間違う女を信用していいのか、力があるのかと疑うのは無理もない。

 シュアーク自身もレイの実力がどれほどのものか分からないのだ。

 レイといて圧倒されるほどの威圧感を感じていたので、疑いはしても全く戦闘力にならないとは思っていない。

 己の身を守れる護身程度なのか、それとも謁見でフォルテを守ったように他者を守れるのか、国きっての剣豪と呼ばれる人物と対等になるほどの力があるのか全く分からないのは誰も同じだ。

 例え、レイ自らが力があると豪語したとしても実際にこの目で見ないことには真に信用することはできない。さらに言えば、陛下が命を下しても彼女にすべてを任せるわけにはいかないことにもつながってくる。


 実を言えば、近々レイの実力を見る為に手合わせを願おうとシュアークは思っていた。

 しかし、先ほどレイに血を飲まれてからあまり体調がいいとは言えない状態だった。

 出来ることならば今すぐにでも意識を手放したいくらいだ。

 いたしかたないが、ここは腹をくくることにするべきだろう。

 残念なことに周りにいる部下たちはやる気満々だ。

 それにバルーゼもリーベルア国内でも実力のある騎士のひとりである。

 その人物に勝るかどうかでも十分力量は分かるはずだ。


「分かった。許可しよう」



遅くなってしまい申し訳ありません。


取り急ぎ更新するので、タイトルが決まらず数字だけとなっています。

それとしっくりくる言葉が浮かばずに剣豪の一人となったバルーゼ・・・語彙の少なさに悩む作者で申し訳ない。。。(泣


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