第一章 一
暗闇に微睡んでいると、遠くから声が聞こえる。
「まったく、変なものは拾ってくるなと言ってるだろうに……」
呆れたとばかりに声がつぼまっていく。
まどろむ意識の中で聞いたその声は、懐かしい彼によく似ている。でも、彼に似ているのにも関わらず、優しさよりも強さを感じる声音だと感じた。
そこに、唸るように抗議をするうめき声が響くのと同時に、先程とは違い優しさを含んだ彼に似た声がそう答えるのが聞こえた。
「せっかくですが、この方は亡くなっていますね……」
あなたは知ってるはずなのになんで気付いてくれないのだろうと、彼女は悲しさを感じる。
意識を取り戻しはしたが、岩のように重いこの体を動かしたくはなかったが、彼に気付いて欲しい一心で指先を動かし瞼を上げた。
そこには見たことのない男が3人いるだけで、待ち焦がれていた彼――時和の姿を見つけることが出来ず落胆する。
しかし、彼女はそれを表に出すことはしなかった。
驚いている目の前にいる男達に思わずクスッと笑ってしまう。
それに納得がいかなかったらしく、それぞれ面白い反応を示した。
一番年若く見える一人は、青ざめて口をわなわなと震わせ、鋭利な目をした体格の良い男は静かに眉間に皺を寄せ、最後の物静かそうな青年が声を震わせて言葉を紡ぎだした。
「あ……あな…あたなは、しっ……っしんでいる……っ……なっ、なぜっ」
言葉になっているとは思えないが、意味は分かる。私にあった人間は大抵がこういった反応を示すからだ。
彼女は冷静に彼らが知りたがっているであろう事実を教えてあげることにした。
いつもならば聞こえなかった振りをして話そうとはしないのに、どういった風の吹きまわしなのかと あの厄介な人物はいうであろう。それに理由をつけるとしたら、目の前にいる人物と懐かしい幻聴ともいえるあの声を聞くことがまた出来たことによる嬉しさからなのかもしれない。
「ええ、あなたは間違ってない。私は死んでいる。
そう……生きる屍だからね」
にこりと多くの人間が魅了する麗しい微笑みを浮かべた。だが、今回に限って彼らにその微笑みの効果はなかった。
彼女の突き付けた内容のほうが現実離れしていて言葉を失っていたからだ。
いつもと同じ反応を示す人間たち。
しかし、私は気づいてしまった。
たとえ、姿形や纏う雰囲気が変わっていたとしても私はあなたを違えることはない。
とっくに忘れたと思っていた声もあなたへの想いも忘れることなく覚えていた。
覚えていたというのはご幣かもしれない。
だけども、例え記憶として忘れたと思っていても、私の魂が身体が、心が……私というすべてがそうだと進言してくる。
それほどまでにあなたを思う気持ちは強い、私の冷静さを振り払い恋焦がれるほどに。
転生したあなたに私を思い出してとは言わない。
あの悲しい悲劇を思い出しては欲しくないから。
ただ、これだけは教えてほしい。
ねぇ時和、あなたは今幸せ……?