Ⅲ 身分に囚われた者たち
誤字発見し、修正いたしました。12/19
(誤字というより、人物名の間違いになりますが・・・)
その後、レイはフォルテを連れて鍛錬場に移動した。
まだ昼過ぎのそこには多くの騎士達が訓練を行っていた。
見ず知らずの少女が鍛錬場に臆することなく入ってきたのを見た騎士達は不審者を見るかのように見てくるが、その堂々とした佇まいに声をかけるのを躊躇していた。
そんな中、意を決して歩み寄ってくる男が居た。
「お譲ちゃん、困るんだよねこんなところに来られても……!?」
レイの佇まいを見て、どこぞの令嬢と勘違いした男は迷惑だということを伝えてようやくレイの後ろについてきている第二王子フォルテの存在を見ると言葉を失った。
「誰だ、貴様」
そこは騎士。
根性を見せて驚愕したことが嘘のように払拭させ、警戒心をあらわにした。
そして素早く腰にさしてあった剣を抜くとレイに向かって突き付けた。
第二王子であるフォルテの傍にいる人間は限られているのがこの反応でよくわかった。
恐らく、押しの弱い第二王子を掌握しようと考えている者だと勘違いしたようだった。
「バルーゼ、レイは怪しい人ではありません。
国王の来客です」
すかさず守るかのようにレイの前に飛び込んできたフォルテはレイがどういった立場の者か説明した。
その事実に驚愕の表情を浮かべ固まった。
恐らくレイが国王の来客であるという事実だけでなく、フォルテが自ら身を呈して前に出て来たことも関係していると思った。
今までの彼ならば例え意見があるとしても弱弱しく意見を述べていただけだろう。
そんな王子がいきなり目の前に来て守るなどとは考えもしなかっただろう。
それでもすぐに冷静を取り戻した男――バルーゼは、レイを見据えると冷静に彼女を観察した。
「では、そこの女性は陛下が取引をしたという方ですか?」
その観察してくる瞳は怪しいと語っていた。
「そうです」
そんな瞳に気付くことなくフォルテは肯定した。
しかしそれは失敗に終わった。
先ほどまでのレイであれば圧倒的な存在感に納得しただろうが、今いるのは見る者を惹きつける容貌を持つ幼い少女でしかなったからである。
目の前にいる人物とその周りにいる人たちにどうすれば納得してもらえるだろうかと悩んでいたレイに助けの声が聞こえた。
「その方で間違いありませんよ」
優しく穏やかな音律でありながら人を従えることに慣れた声だと思った。
思わずその声の主を探し、顔を見て先ほどの謁見で王の背後にいた人物だったことに安堵する。
すべてを見ていた人物から言われれば、嘘でないことは明白である。
それに、彼が並みの地位ではないことはその物腰と周りの騎士たちの態度からして間違いではないようだ。
「クメール様、どういうことでしょうか。
聞いていた話と若干違いがありますが……それに、フォルテ様と一緒にいるというのはどういった理由で?」
その質問に対してクメールと呼ばれた男は肩をすくませただけだった。
聞いていた話というのは恐らく私の放つ威圧感の事だったのだろうと推察できた。
それにフォルテと一緒にいる云々は彼に聞いて分かることではない。
「レイ様でしたね。
はじめまして、リーベリア国、第一騎士団副隊長を務めています、クメール・ルージュと申します。
お見知りおきを。
ところで、シュアークと一緒にいるかと思っていましたが……?」
穏やかな頬笑みを浮かべるが良く見ればその瞳が笑っていないことが一目でわかった。
例え国王が許そうとも、まだこの国の多くの人たちはレイに対して警戒心を持つ者ばかりだった。
例え、第二王子であるフォルテの命を救ったものであろうと。
「食事をしましたから、力を抑えることもできるようになっただけです」
なるほど、それで……と小さく呟くカヌア。
それほど驚いているようには見えなかったのでおそらくシュアークが教えていたのだろう。
その先をクメールに視線で促され、隠す事ではないので答えてあげる。
「シュアークは私の部屋で寝ています。
少し貰いすぎてしまったみたいでね。
日々鍛錬している彼ならばもう少しすれば起き上がってくると思いますよ」
そうですかと納得して引き下がったクメールとは違い、先ほどからけんか腰の男が食いかかってくる。
「隊長に何をした!?
それに、フォルテ様を手中に修めて何をたくらんでいる?」
この男がうるさく言うので、挑発に乗ることにした。
自分のためにも、フォルテの為にもレイの実力がどの程度あるのか知らしめるにはもってこいだった。
冷やかな視線を浴びせ、抑え込んでいる威圧感を少しばかり緩め、傲慢に言い放つ。
「国王との取引だ。フォルテになにをするか?
身分ばかりにとらわれ、何もできないお前たちに指図されるいわれはない」
いきなり雰囲気の変わったレイに驚き、たじろぎながらも男は懸命に言葉を紡ぎだした。
「な……何を言っているっ…………別に身分に囚われてなどっ」
よほど驚いたのだろう言葉がとぎれとぎれとなり最終的には言葉がなくなった。
正確にいえば話している最中にクメールが遮ったからではあるが。
「さすがに身分に囚われている云々は聞き逃すわけにはまいりません」
「では、フォルテ相手に普通の騎士たち同様の稽古や訓練を行っているとでも?」
「そうですが、なにか?」
クメールは穏やかだが真剣な眼差しでレイと見つめあいながらと、言いたいところだがどちらかといえば睨みあいながら話し続ける。
「へぇ、それにしてはおかしいわね。
フォルテの手が綺麗すぎるのよね……彼は騎士になりたいと言った。
そして、現に騎士には属している。
けれども、ただそれだけのように感じて仕方がない。
騎士になると言って譲らないフォルテに甘んじて騎士になることは表面上許しただけでまともに訓練を受けさせていないでしょう?」
「そんなことはありません。
確かにフォルテ様は騎士になり訓練をうけていますが、王子としてのやるべきことがあるので、他の騎士の者に比べれば訓練する時間が短くなっても仕方がないのです」
違和感があった。
なぜ上官がまだ騎士見習いともいえる少年相手に敬称を使い、敬語で話しかけるのか。
王族という観点から見て言えば、守るべき対象である人だからだと言えばそうなのだが、フォルテは自らで騎士となるこの国を守るために剣を取ったのだから他の者と同じように接するべきではないだろうか。
それとも以前はそのように他のものと同じように接していたが、今となってはそうはいかなくなったのかいきなりこの地に入り込んだレイには判断しようがなかった。
「そんな中途半端だから、フォルテが悩んでいることにも気付かないだね」
「レイさんっ」
今の状況をみて思わず洩らしてしまった言葉にフォルテが焦ってレイの名を呼んだ。
小さく謝り、フォルテを落ち着かせる。
レイがフォルテに教えるということを伝えないといけないので、いつかはその理由を言わなければならないのだが、誰かに知られるのは嫌だったらしい。
まぁ、フォルテが悩みを打ち明けられないような相手なのだから知られたくないというのも納得できる。
本来ならば強くなりたいという悩みならば、騎士に属している目の前の男の様な上官に相談すればいいだけの事。特別稽古をつけてもらったりすればいいだけの事だ。それをすることが許されなかったのだ。
ただ一人出来そうな人物がいる。
この国の筆頭騎士シュアークだ。
だが、最近のあの男の様子を見るとフォルテの性格からして、忙しいのに自分の我がままでこれ以上重荷になってはいけないとでも考えたと思えば妥当だろう。
思わず隣にいる自分より若干背の低いフォルテの頭をなでていた。
当のフォルテはきょとんとしてされるがままであったが、目の前にいた騎士達は驚愕の表情で見ている。
いや、一人だけ驚いた表情を浮かべてはいるがこの状態にたいして危機感を抱くというより面白がっている人物は――クメールだった。
「フォルテからの要望により、私が彼を指南することになりました」
更新遅くなり申し訳ありません。
いざ書き始めようとしたら、騎士とはなにかと調べたところ堂々巡りに入り、最終的に開き直って書いています。
ここに出てくる騎士は歴史の騎士とは似ても似つかないものだと思って読んでくださると幸いです><
若干思いつきでどんどん書いてしまっているので後ほど修正をいれることがあるかもしれませんが、あしからずご了承願います。
いつも読んで下さる方、お気に入り登録して下さったかた、たまたま行き着いた方、駄文に付き合って頂き平に感謝いたします。
こっそり、お気に入り登録やアクセスを見てほくそ笑んでいる作者でございますが、これからもよろしくお願いします。(土下座)