Ⅱ レイの提案
簡単な質問だ。
だが、この質問にどれだけの人が即答できるだろうか。
自分が何をして、何を周りに影響をもたらせるかなど考えてから行動する人などそうそういない。
ましてや、彼はまだ14歳の少年でしかない。
この世界でいえばもうすぐ成人になるかもしれないが、この小さな背中に背負いこむにしては背負うものが大きすぎるように感じた。
それにフォルテは第二王子という立場上からか帝王学を学んでいないように見受けられた。
それなのにも関わらず今進んでいる事柄は負担でしかないだろう。
「君がこの国の第二王子だという肩書きを考慮せずに考えたら何になりたい?」
「ぼ……く、は…………騎士になりたい」
「そう。
ではなぜ騎士になりたいと思ったの?」
あくまでも優しく、母になったような気持ちで聞き返した。
「この国を守るため、そして兄上を支える為」
そう言いきった声には無意識にしては張りがあった。
しかし次の瞬間にはでもと弱弱しい声に切り替わってしまう。
「――弱すぎるんだ。守りたくても守れない。逆に守られてばっかりだ……」
「それで?
君はなんの努力をした?
手に血豆が出来て破れるほどになるまで努力をした?
人は何の努力もなしに力を入れることは出来ない。
今この国を支える剣豪と呼ばれる人たちでも何らかの努力をしている。
だれしも、何らかの努力をして生きている。
稀に何もしないで手に入れている人はいるけれどもそれは限りなく特殊な人だから気にする必要はない。
そんな人でも何らかの心の葛藤はあったはずだ。
周りとは違う己の力に対して」
思わず前世の自分の生きざまがフラッシュバック思想になった。
それを無理やり隣にいる少年を意識することで抑え込んだ。
「でもフォルテ、君は違う。
周りの人と同じごく普通の少年。
それに付属としてリーベリア国の第二王子という肩書きがあるだけ」
そう言ってフォルテの肩に手を添えた。
「でも、周りはそうは見てくれない。
第二王子あってのぼくなんだ!」
なぜか昔の自分を見ているような錯覚が起った。
なんの力もない幼い少女が目の前にいるかのように見えた。
ならば伝えてあげればいい。
どうするべきなのか。
彼が崩壊する前に。
フォルテが自分と同じようになる必要はない。
止めることのできる人が居れば悩みを聞き解決するために力を貸してやればいい。
本来ならば、親か親しい年長の者が気付き諭してあげるべきなのだが、フォルテ自身が隠していることと、フォルテに対して対等に接してあげることのできる人物が少なかったことがいけなかったのだろう。
「なら、見てもらえるようになればいい。
今の君は周りに対して壁を作りすぎている。
一番に、フォルテ自身が王子という肩書きに対して気を取られすぎている。
そんなもの騎士などという軍力という力の中では必要のないもの。
ましてや、周りの人に対して溝が出来るしかないそんなものは捨ててしまいなさい」
今まで気にしていたことを簡単に捨ててしまえというのを聞いたフォルテは驚くしかなかった。
驚く自分をよそに、レイはにっこりとほほ笑みを浮かべると勝手に話を進める。
「必要だというのなら力を貸してあげる」
そう言って立ち上がり立ち去ろうとするレイを見て思わずフォルテは待ってと呼びとめた。
「私に力を」
そう言って見つめてくる瞳はもう迷っている少年の瞳ではなかった。
それに満足したレイは妖麗に微笑む。
「覚悟することね」
それを見たフォルテが少し早まったと後悔の念に駆られてしまったのは無理もないだろう。
「それと、王子だとかそう言ったことを気にするなって言ったけれども。
それは、君がそのままでもリーベルア国の王子だと思ったから言ったのよ」
「えっ」
予想外の言葉にびっくりして反射的に声が出る。
「さっき私の質問に答えた時、君は何も考えてから答えたわけじゃないでしょう?
君自身の言葉として、国を守りたい、兄を助けたいというのなら、あなたはそのままでも王子だということよ」
気にすることなく答えろと言われて出て来たまぎれもなくフォルテの本心だった。
レイの言葉に心の中にあった何かが取れたかのように感じた。