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時過ぎても、想いは変わらず  作者: 美緒
第二章 謁見と取引
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Ⅵ 刺客

 手枷をしたまま冷静に刺客を感じながら、周りを観察する。

 この国の者たちは恐れている。

 なにに――?

 たかがと言っては失礼だが、まだ幼い第二王子を失うことに対して。

 では、第一王位継承者の王太子はどうなっているのだろうか?

 答えは簡単だ。

 現状をすぐに理解した近衛たちは即座に動いていた。

 いつの間にか移動していた女が第二王子を庇っているという劣悪な場面を見てすぐに腰にある己の剣に手を伸ばし、早い者はすでに抜刀していた。

 突然現れた刺客に驚きながらも良くも動けたものだ。

 実際いつもならば彼らはこの存在に気づいていただろう。

 特に筆頭騎士であるシュアークと王と数名の騎士達は――。


 今回気付かなかったのはほかでもない、私のせいである。

 ただでさえ他者を圧倒させ、見る者を惹きつけるバンパイア。

 それに合わせて闇の王ともなれば魅力は他のバンパイア達とは比べ物にもならない。

 その魅力は闇の住人になればなるほど強く感じ、彼女の気配を感じるだけで頭を垂れ従う。

 レイは目が覚めるほどの美貌があるというわけではない。

 一つ一つのパーツが整ってはいるがただそれだけである。

 どこもかしこも秀でているわけではない容貌なのだ。

 それなのに他者がレイに目を奪われるのはその存在感が一番大きい。

 他者を圧倒させる威厳、凛とした存在感がうまく調和され魅了される。

 万全の様な時でさえそうなのだから、食事をしていないせいで力を制御しきれていない状態の今は、すべての者たちがその力に圧倒され正気を失わせていた。


「動けば、殺す」

 危うい光を帯びた紅い瞳が刺客に突き刺さった。

 刺客は剣を片手で構えたまま微動だにしなかった。

 どこから出したのか短剣で首の頸動脈に突き付けられていた。

 刺客は後ろに身を引きたくても身体は頑としてゆうことを聞こうとしなかった。

 まるで自分の身体が自分の意志で動いていないような状態だった。

 その事実に徐々に顔から色がなくなっていった。

 まわりにいる人たちもその状態に少なからず疑問に思う人もいた。

 任務に失敗した刺客はさっさとその場を去るか潔く自害するのが大抵だからだ。

 そして、今自国の王子を狙ったのは推測でしかないがエルバイヤ国の者に違いない。

 その命を与えたのは恐らく国でも階級の高い権力の握っているものだと考えるのが妥当だ。

 

「答えろ」

 レイはフォルテが近衛騎士達に保護されたのを確認して短く命令した。

「貴様はどこの手の者だ?」

 周りに居た者たちはそう簡単に質問に答えるとは微塵も思っていなかった。

 かの者は敵国の刺客しかもどこぞの位のあるものの手の内の者だろうと確認していたからだ。

 自分の主を売り渡すような真似は決してしない。

 それをするくらいならば、自分が死んだ方がましだと考えるほど忠義に厚いものを送り込んでくるのだ。


 大抵の場合は。


 もちろん、例外はある。

 それは相手が捨て駒を使い、狙っていると警告してくる場合。

 だが、今回はそんな甘い考えをしている場合でないのは両国の者が知っていた。

 そんな状態なのにも関わらず、目の前に居る少女は手にかけている敵国の刺客が答えないがないと確信めいて質問しているのに疑問を抱くしかなかった。

 刺客は、この部屋に居るすべての者たちに監視されながら口を開いた。

 近くに居た騎士達は自害を図ると思い止めようと動こうとしたが、その場から足が動かず、少しばかり慌てた。

 そんな危惧も発せられた声で忘れることになった。


「………………エ……エル、バ…ィ…ヤ……」


 少しの躊躇いの後、弱弱しくガチガチと歯を鳴らせながら懸命に紡ぎだされた言葉に、その場に居た者たちすべて――いや、正しくはレイを省くすべての者たちは驚きに顔を染めていた。

 静かな部屋の中でカランッ――という音がやけに大きく響いた。

 その音に気付いた者はレイしかいなかった。

 それもそう、周りに居た人たちは動くことが出来るのを忘れ人形のように身動ぎ一つせず、わずかな者は息をするのを忘れ、刺客と少女の動きを傍観することしかなかった。

 レイは刺客に突き付けていた短剣を外し解き放った。

 その反動で刺客はよろよろと後ろに後退し、座り込んでしまうのを懸命に堪えていた。

 そこにレイが話しかけると、ハッとして目の前にいるレイを怯えを含んだ瞳で見つめた。


「行け。

 そして伝えろ、エルバイヤ王に」


 そして、妖艶に口元を持ち上げ微笑と畏怖を湛えた瞳で見つめながらそろそろと後退し、ある程度距離をとると即座にその場を去った。

 何を?と問うことなどしなかった。

 正確に言えばしなかったというより出来なかったのであろう。

 それに、しなくても何を伝えなければならないのかは何となく分かっているだろう。


 自分と対峙した大抵の人間は。


 恐怖を感じた者を自分の守るべき者に伝えるのは当たり前ともいえる行動だからだ。

 過去の出来事を断片的にも思い出し、思わず自傷の笑みがこぼれた。



次回、刺客の人がなぜそこまで順従になったのか分かります。

更新がいつになるか分からないので気長にお待ち頂けると幸いです。


最後になりましたが、ここまで読んでいただきありがとうございます。

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