三 いざ出陣
久しぶりに入る入浴はやはりいいものだった。この辺りは日本人に染まっている。
レイが入っている間に置いてくれた柔らかいタオルで体を拭くと、用意してくれた洋服を手に取り思わず口元を緩める。
昨日突き付けた条件の物を用意してくれたからだ。
“簡素な洋服で“
簡素なつくりのそれは、白いワンピースをだった。
ふわふわとするタイプではなく腰の部分で少し絞ってはいるがストント落ちる作りになっているそれは、体の線を強調するものではなくふわふわと風に漂う感じでもない。
町娘が少しおしゃれをしたという感じのものだ。
しかし、白というものはあまり好きではなかったが、用意してもらった手前文句は言えない。
来てみると意外とスカートの丈が長く踝が少し見えるくらいの物だった。
先ほどの侍女の服装を見ても女性が足を露出する服は浸透していないようである。
しっかり用意してあった簡素な靴をはいて脱衣所を後にした。
応接間に出るとそこにはシュアークだけでなく、数人の騎士が居た。
侍女のリニアが素早く歩み寄ってくると、今度は違う部屋へと案内された。
「軽くお化粧させていただきます」
化粧台の前に座らせていうリニアの言葉にゆっくりと頷いて答えた。
普段化粧などというものはしないので勝手が分からないからだ。
目の前に鏡があるが己の姿は決して映らない。
それは暗にお前はもう生きている物ではないと言われているように見るたびに思ってしまうことだった。
話を聞いていたか、リニアはレイが鏡に映っていないのに気づいても目を大きくしただけで、特に騒ぎもしなかった。
「それにしても、する必要がないですわねぇ……」
この言葉は決して嫌味で言ったわけではない。
語尾が感嘆とした風に消え去っていき、彼女の目元は蕩けるように下がっている。
まるで自分の世界に行ってしまったかのようだった。
「しかしながら、顔色があまり良くないので良く見えるように工夫させて頂きます」
さすがあの男が連れて来た人間だけあると思った。
大抵の人間はレイの美貌に陶酔して仕事を忘れ、己を取り戻すのに時間がかかるのだ。
準備の出来たレイの姿を確認するとシュアークは腰掛けていたソファーから立ちあがりレイの傍まで歩み寄ってくる。
「すまないが、決まりだから……」
そう言って鉄枷をレイの腕にはめた。
レイとしてはいつでも外そうと思えば外す事が出来るので特に気にも留めなかった。
軽く頷いたしぐさをすれば分かってくれたのかシュアークがその後ろにいる騎士たちに合図を送り部屋を後にした。
長い廊下を歩き、階段を上がり下がりしてようやく一つの豪華な装飾が施された扉の前に来ると、ようやく前を歩いているシュアークと周りの騎士たちが止まる。
先頭を行くシュアークが門番の騎士に話しかけているのを視界の片隅に見えた。
体力のない今の状態でこの距離は厳しいものだった。
しかし、顔色ひとつも変えないレイの内心の葛藤は誰も気づくことはなかった。
その事実にレイは少しばかり悲しみを感じているのに気付く。
時和なら気づくことが出来たのに――と。
そう思うのと同時に目の前の豪華に造られた扉が左右同時に開らかれる――――。
やはり早く更新できませんでした。
しかも今回短くなっております。重ね重ね申し訳ございません。
読んでいただいている奇特な方、ありがとうございます。
ようやく次回国王との対面となります。