第六話 初顔合わせ
この作品を選んでいただき、ありがとうございます。
初めての作品になります。至らない点もあるかと思いますが、どうぞよろしくお願いします。
更新は毎週火・金予定です。
「そろそろ、着陸します」
竜での移動は一時間弱。
恐怖の空旅はなんとか気力で耐え切った。
ましろは早々に爆睡していたので、肩を軽く揺らして起こす。
「ましろ、そろそろ着くぞ」
「……んみゅ……」
猫みたいに顔をこすりながら目を開けたかと思うと、次の瞬間、にぱっと表情が明るくなる。
「にゃー! 竜さん、いっぱいいる!」
その言葉通り、空には何体もの竜が飛び交っていた。
ここは、“天竜山”の中腹あたり。都市部から離れた緑の豊かな場所だ。
目的地は聞いていなかった……けど、この光景を見れば誰でも察せるだろう。
これだけの竜が確認できる場所なんて、この山しかない。
だから、ここの麓にある“天竜基地”に行くものとばかり思っていたんだけど……それにしては、距離が離れすぎている。
視線の先に見えるのは研究施設のような建物だけ。どう見ても基地には見えない。
――っ!?
竜が急降下を始めた。
高度が一気に落ちる。
悲鳴を上げそうになる。
だけど、視界の端にましろが目に入った。ここはグッと我慢する。
叫ぶわけにはいかない。
ましろの前で、情けない姿は見せたくない。
……当の本人は、キャッキャと楽しそうにはしゃいでいるけど。
ありがたいことに竜は見事な着地を決めてくれた。地面に降りる際も衝撃を一切感じさせないほどに。
俺たちは順番に背から降り、ようやく地面に足をつけた。
思わず、深く息を吐いた。
知らないうちに、全身に力が入っていたらしい。
竜はそんな俺を一瞥すると、ふぅ、と鼻息をひとつ。
……まるで呆れたとばかりに。
そのまま、山の奥へと飛び去っていく。
「ありがとー!」
ましろは姿が見えなくなるまで手を振り続けている。
俺も並んで手を振った。
……乗せてくれて、ありがとな。今回は俺の負けでいいさ。
さて、もうすぐ新しい部隊に合流できるのだろう。
ここからが本番。気合を入れねば……。
************
と思っていたのだが。
特尉に案内されたのは、先ほどの研究施設――竜生態研究所と書かれた建物だった。
拍子抜けするほど、どこにでもありそうな研究所に見えた。
入口には受付があり、白衣姿の職員が行き交っている。
巌斗特尉の後ろについて歩きながら、軽く周囲を確認する。
そこで、違和感に気づいた。
すれ違う人は多いのに、誰一人として、ましろのことを気にしていなかった。
猫耳は見えているはずなのに、誰も驚いたりしていない。
ここの人たちは魔人を見慣れているのだろうか。
そんなことを思いつつも、特尉の後ろをついて行く。
そしてエレベーターに乗り込む。
そこに表示されている階数は、一階から三階。
しかし、特尉は階数のボタンをすぐに押さずに、何かしらの操作を行った。
すると、エレベーターは動き出したのだが……。
階数の表記が地下にどんどん進んでいく。
ふと、子供の頃に見た“秘密基地”という言葉が頭をよぎる。
だけど、その高揚は長くは続かなかった。
ここは現実。
行き先も告げられないまま、地下へ連れていかれる。
無意識に唾を飲み込んでいた。
「湊原曹長はこういうの嫌いですか?」
「……いえ、アニメの世界のようで、格好良いと思います」
「それはよかったです。これ、隊長の趣味なんですよ」
特尉は微笑みを浮かべながら、そう答えた。
おそらく俺の緊張を察して話しかけてくれたのだろう。良い人なのだと思う。
……しかし、そこで気づく。
ましろが静かだ。
腕の中で、今日もらったゲーム機をぎゅっと抱えている。
視線は、ずっとそっちに行ったまま。
これから新しい部隊との顔合わせだというのに。大丈夫だろうか……。
まあ、気持ちはわかるんだけど。
やがて、エレベーターは停止した。
通路の先に、重厚な扉が一つ。
特尉がキーを操作すると、低い駆動音を立てて扉が開く。
視界が一気に開けた。
天井は高く、空間は想像以上に広い。
正面の壁一面には巨大なモニターが並び、中央には立体的に投影された世界地図。
各所で、オペレーターたちが無言で端末を操作している。
キーボードを叩く音と、機械の低い駆動音だけが響いている。
――しかし、それよりも目を引くのは、中央に立っている二名。
そのうちの金髪の男性が、こちらに歩み寄り、明るい声を掛けてくる。
「やあ! よく来たね!
ここは“魔衛独立戦術部隊”の作戦室。
そして、君たちの新しい配属先さ」
年齢は十代後半ぐらいに見える。
柔らかな笑顔で、こちらに敵意のようなものは全く感じない。
「僕は凪。この部隊の隊長をしている」
……この人が、隊長なのか。
俺には、どう見ても普通の青年にしか見えなかった。
それこそ、どこかの大学生だと言われた方が、まだ納得できるくらいには。
むしろ、隣に立つ黒髪の女性の方が――。
そう思った瞬間、その女性が静かに一歩、前へ出た。
「我は久遠。副隊長をしとる」
低く、落ち着いた声。
整った顔立ち……だけど、それよりも目を引くのは、漆黒の鱗に覆われた太い尾と、頭部から伸びる角。
この人は魔人だ。
「……それで、君がましろちゃんかな?」
久遠副隊長に意識を取られていると、凪隊長がましろに声を掛けていた。
しかし、ましろはまったく反応しない。
ゲーム機をぎゅっと抱き締め、ソワソワしている。
や、やばい。完全に心ここに在らずだ。
「ほ、ほら、ましろ。挨拶、挨拶」
「……あ、うん。ましろです」
……あ、ダメだ。
しかも、ましろが泣きそうな顔で、こちらを見上げてくる。
ゲーム機を、さらにぎゅっと抱え直しながら。
「ソーマ、まだおしごと終わらないの?」
……来てしまった。
まあ、わからないこともない。むしろここまでよく我慢できたものだ。
しかし、俺は怖くて二人の顔が見れない。
初対面なのに、仕事よりゲームを優先する子供だと思われたのではないかと……。
そんな不安とは裏腹に、久遠副隊長がましろの前に来てしゃがみ込んだ。
「それは、玩具かえ?」
「うん……。今日もらったの。……だからはやく遊びたい……」
ましろはゲーム機をぎゅっと抱きしめた。
「ふむ……。ずっと我慢しておったのか。偉いの」
そう言って、久遠副隊長はましろの頭を撫でた。
思わず胸を撫で下ろす。
――久遠副隊長は、最初から怒る気などなかったのだろう。
「二人は疲れとるようじゃし、今日はもう終わりでいいじゃろ」
「いいのっ!? クオンありがとう!」
「ああ。その代わり、今度、我にその玩具の遊び方を教えてくれるか? やったことがなくての」
「うん! ましろ、教えてあげる!」
「じゃあ、約束じゃ」
そう言って、二人は指切りをしていた。
「……久遠。まだ部隊の説明とか出来てないんだけど」
「そんなものは次でよかろう。
……それに、ちょっと気になることがあっての。凪よ、後で話がある」
「はぁ……わかったよ」
凪隊長が俺に視線を向ける。
「えっと、それで、君はなんて言うんだったかな」
「は、はい。ましろの保護者で湊原蒼真と申します」
「ああ、そうだった。それじゃあ、巌斗に部屋まで案内させよう。
明日はここに十時ごろに来てくれればいいよ」
「はっ! 了解いたしました!」
――まあ、俺の立場なんて、そんなものか。
************
俺たちの部屋は司令室のさらに下の階にあった。
部屋自体は洋風で部屋数も二人暮らしにしては広い。
「ソーマ! はやくはやく!」
……その声に、思わず苦笑する。
今日は色々ありすぎた。
部隊のことも、あの二人のことも、まだ何も分かっていない。
でも――。
少なくとも、敵ではなさそうだ。
「……ましろ。“働かざるものゲームできず“だぞ。
明日からはちゃんと仕事も手伝ってくれよ」
ましろは少し不満そうだったが、それでも何とか頷いてくれた。
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