表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

6/8

第五話 新天地へ

この作品を選んでいただき、ありがとうございます。

初めての作品になります。至らない点もあるかと思いますが、どうぞよろしくお願いします。


更新は毎週火・金予定です。

俺たちの泣き声と、笑い声の中に、トントン、と控えめなノックの音が混ざった。


……どうやら、ここまでらしい。


宿舎を出ると、外には黒い車が待っていた。


「君たちは、ここまでだ」


三人が足を止める。

大佐は助手席へ。


ましろは車の前で振り返った。

三人は笑って手を振る。


小さくうなずいてから、後部座席へと乗り込んだ。その胸にゲーム機をぎゅっと抱きしめながら。


小嶋が俺をまっすぐに見てくる。


「班長。俺たちのこと、次の部隊でちゃんと推薦しといてくださいよ」

「……お前、こんな時に……。ああ、任せろ」


続いて、菅野が一歩前に出た。


「班長、今まで本当にありがとうございました」

「こちらこそだ。お前たちが部下で、本当に良かった」


すると、小嶋が鼻で笑う。


「何言ってんすか。俺たちの上司は、ましろでしょ」


二ノ宮もそれに続く。


「そうです、そうです。班長は――おまけですよ〜」


……まったく、こいつらは、最後まで変わらないな。


だけど、次の瞬間、三人はふっと表情を引き締めた。


「班長。ましろを頼みます」

「当たり前だ。任せろ」


三人が、小さくうなずいた。


俺も、車に乗り込む。


助手席の大佐が、ルームミラー越しにこちらを見る。


「お別れはできたかな?」


「はい、ありがとうございました」

「また今度いっしょにゲームするの! ぜったいなの!」


ましろの言葉に、大佐は少しだけ目を細める。


「……それは、良い約束だ」


車は、静かに動き出した。


************


車は、数分もかからないうちに、軍の飛竜港に着いた。

その名の通り、竜が離着陸するための場所だ。


車を降り、大佐の後について歩き出す。

向かっている先には、巨大な銀青色の“塊”。


……いや、まさか。

さすがに、あれが竜ってことはないよな。


そう思いたいのに、距離が縮まるにつれて、形がはっきりしてくる。


「うわー、とっても大っきい!」


ましろはぴょんぴょん跳ねながら、全身で喜びを表している。


俺は、思わず口を大きく開けたまま、立ち尽くした。


竜といえば象ほどの大きさを想像していた。

しかし目の前のそれは、胴体だけで二階建ての建物ほどもある。

あまりにも大きすぎる……。


背中に、ぞわりと寒気が走った。


「私の管轄は、ここまでだ」


大佐はそこで足を止め、振り返る。


「ここから先は、彼――巌斗(がんと)特尉の管轄だ」


大佐は一歩引き、そして、付け足すように言う。


「――ちなみに彼は、魔人だよ」


上ばかりを見ていて、気が付かなかった。


竜の足元に、軍服を身に纏い、大きなマスクをした、茶髪の男性がいた。

長身で、服の上からでも隠しきれないほど、がっしりとした体つき。鍛え上げられた兵士のようだ。


彼は、大佐に礼をすると、ゆっくりとマスクを外した。

そして、にかっと人懐っこい笑みを見せる。


「初めまして。巌斗と申します。湊原曹長と、ましろちゃんですね。お迎えに上がりました」


声は穏やかで、口調も丁寧だ。

見た目の印象に反して、落ち着いた空気すら感じる。


――なのに。


俺の視線は、唇の奥に覗く鋭い牙から、どうしても離れなかった。


その瞬間、“魔人”という言葉と一緒に、忘れたはずの恐怖が蘇ってきた。


軍は、魔人に助けられている。

頭では、ちゃんとわかっている。


それでも――。


目の前に立つこの男に身体が勝手に強張る。


「……湊原、です。わざわざ、ありがとうございます」


必死に声を整え、なんとか挨拶は返したが、顔が上げられない。

自分でもわかるほど指先が小さく震えていた。


その時だ。


「がんと! よろしくねっ!」


横から弾むような声が飛んできた。

もちろん、ましろだ。


「こちらこそ、よろしくね。君たちには期待しているよ」


特尉の声は、先ほどと変わらず穏やかだった。


……何を、俺は怖がっているんだ。


ましろも同じ魔人だ。

俺は“魔人”というだけで怖がる人間とは――違う。


そう、自分に言い聞かせて、顔を上げる。


そこにあったのは、ただまっすぐに笑う、優しい表情だった。


そのとき、大佐がくすりと笑みをこぼした。


「大丈夫なようだね。では私はこれで失礼するとしよう。――湊原君、ましろ君、また会おう」


大佐は軽く手を振り、そのまま車の方に戻っていった。


俺はその背中が遠ざかるまで礼をし続けた。


「それでは、俺たちも、そろそろ行きましょうか」


「……これで、移動するんですよね?」


「ええ、もちろん。この竜なら二十人ぐらいなら問題なく運べますよ」


「すごーーい! ましろ、はやくのりたい!」


ましろははしゃいでいるが、改めて竜を見る。

思わず、唾を飲み込む。


「ご安心を。この子は賢く穏やかです。輸送も慣れていますので」


特尉がそう言った瞬間、竜がこちらをちらりと見て、ふう……と長い鼻息を漏らした。


……今のため息か?

ビビってるの、バレてるんじゃないだろうな。


特尉が竜に上り、足場を出してくれた。

それを使い、俺たちも竜の背に登る。


そこからの景色は、当たり前だけどかなり高い……。


特尉は、竜の鞍に備え付けられた箱を開け、リュックを二つ取り出した。


「念のため、これを背負ってください。万が一の安全装備です」


「……万が一、というのは?」


思わず聞き返すと、特尉はからっと笑った。


「規則です。今まで落ちた人は……ほとんどいません」


……ほとんど、か。

それはつまり、ゼロではないということだろう。


じわりと、背中に嫌な汗がにじむ。


「ま、ましろ、大丈夫か?」

「うん! だいじょーぶ!」


元気よく返事をするましろとは対照的に、

俺は必死に平静を装いながら、リュックの肩紐を強く握った。


「では、出発します」


特尉の合図とともに、竜の巨大な翼が、ゆっくりと持ち上がる。


――っ!?


空気が一気に押し出され、身体がぐっと浮いた。

悲鳴は、たぶん……喉の奥で止まった、はずだ。


これは親としての威厳だ。

ましろの前で、取り乱すわけにはいかない。


「ソーマ、たのしいねー!!」


無邪気な声が聞こえる。


「お、おう……。た、楽しいな。風が……すごく気持ちいい……」


声が裏返らなかっただけ、自分を褒めてやりたい。


ふと横を見ると、ましろは小嶋たちにもらったゲーム機を取り出そうとしていた。


「ましろ、今はやめとけ! 物理的に落ちちゃうから!」


「えー、 わかった……」


こうして俺たちは、新たな舞台へと向けて、空の旅が始まった。

最後まで読んでいただき、ありがとうございます!

もし気に入っていただけたら、ブックマークや感想ももらえると嬉しいです。

湊原ましろチャンネルをよろしくお願いします!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ