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第三話 天風大佐

この作品を選んでいただき、ありがとうございます。

初めての作品になります。至らない点もあるかと思いますが、どうぞよろしくお願いします。


更新は毎週火・金予定です。

最初の五話までは毎日更新予定です。

ましろとゲームをしていたから、気づかなかったわけではない。

誰かが来ることはわかっていた。


魔人となった以上、軍が動かないわけがない。


だからこそ、魔力を広げ、最大限に警戒していたはずだった。

――少なくとも、普通の相手なら。


それなのに、それは、本当に突然だった。


「――少し、失礼するよ」


背後からかけられた声に、背筋が凍る。

俺は咄嗟にましろを背中に庇いつつ、後ろを振り向く。


そこには……軍服を纏い、穏やかな表情をした男性が一人。


「……っ」


その人物を見て、絶望した。


天風(あまかぜ)大佐。

この国に数人しかいない特級魔術士。

風を自在に操り、人類最強候補の一人とまで言われる存在……。


「このおじさん、誰?」


場違いなほど、無邪気な声が響いた。


喉が渇く。心臓の音が、やけにうるさい。


なぜ、こんな大物がここに?

まさか、ましろを討伐しに……?


ダメだ。

不味いことばかり頭に浮かぶ。


……落ち着け、冷静になれ。


こちらは争うつもりなんてない。

説明すればいい。


「大佐――」


そう口を開いた、その瞬間。


「ねえ、おじさん!」


背後から、声が飛んできた。


「いっしょにゲームしよっ!」


その瞬間、世界が止まった。


大佐はましろをじっと見つめている。

何かを探るような、静かな視線。


それから――ほんのわずか、口元を緩めた。


「……いいのかい?」


「うん!」


ましろは即答だった。


「今ね、ソーマとやってたの!」


……この状況で、それを言うか。


「はは……」


大佐は小さく笑い、今度は視線を俺に向けた。


「そう緊張しなくてもいい。別に、取って食おうとしてるわけじゃない」


その声は穏やかに聞こえる。

しかし、目的がわからない。油断はできそうにない。


「魔物が進化すると聞いてね。念のため、私が派遣された。それだけさ」


念のため……。

それは何かあれば、ましろを討伐するということではないのか?


だけど、そんな疑念とは裏腹に、大佐は当たり前のようにコントローラーへ手を伸ばした。


************


しばらく、無言でゲームをした。


正直、こんなに楽しくないゲームは初めてだ。

大佐のことが気になりすぎて、ゲームに集中できるわけがない。


それなのに、


「おじさん、とってもうまい!」


「そうかな? 久しぶりだったけど、意外と覚えているものだね」


二人は、普通に楽しそうだった。


……俺だけ、気を張りすぎなのか?


「さてと……そろそろ時間かな」


大佐はコントローラーを置き、俺の方に目を向ける。


思わず、唾を飲み込む。

呼吸を整え、静かに重心を落とした。


「それにしても……まさか、魔人に進化するとはね。国としては、厄介な事態になってしまった」


俺を見る、その目は真剣だった。


「そろそろ、緊張を解いて欲しいのだが……。

安心して欲しい。私は君たちに害を加えに来たわけじゃない」


そう言って、大佐は両手を軽く上げて見せた。


それでも、体の力は抜けない。


その様子に気づいたのか、大佐は小さく息を吐く。


「……私は、彼らを――魔人を怒らせたくないのさ」


そして、声を落として続けた。


「これは、表には出せない情報なんだがね――」


「我々軍は、彼ら、“魔人”に助けてもらっている」


「……えっ!?」


理解が、追いつかなかった。


魔人は災害のはず。

近づいてはならない存在なのではないのか?

それが、助けられている?


「……どういう、意味ですか?」


思わず、そう聞き返していた。


「ここから先は“言えない“とだけ言っておこう」


そして、一拍置いてから、はっきりと言われた。


「さて、これは命令だ、湊原曹長。

明日、君たちには“とある部隊”に合流してもらう。

――そこは“魔人”が所属する、特別な部隊だ」


本来なら、すぐに“了解“と言わなければならない。

それが軍人というものだ。

だけど、答えることができなかった。


これは、ましろのための異動だ。

恐らく、国は、ましろを魔人たちに任せたいのだろう。


理屈はわかる。

でも――本当にその部隊は安全なのか?


「どういうこと?」


ましろの声で、我に返る。

ましろはきょとんとした顔で、首を左右交互に傾げている。


「えっとな……明日、別の部隊に移らないといけなくなった。

その……ましろと似たような“仲間”がいるところに」


「なかま!」


ましろは一瞬ぱっと顔を輝かせ――

すぐに、はっとしたように俺を見る。


「……でも、コジマたちは?」


大佐が静かに首を振った。


「彼らとは、しばらく会えなくなる」


ましろは、言葉の意味を考えているのだろう。

少しだけ黙り込んだ。


そして、


「えーーーっ! やだっ!」


ぎゅっと、俺の服を掴んだ。


「まだゲームで遊んでない! 今ならぜったい勝てるもんっ!」


胸が締め付けられた。


俺だって、同じ気持ちだ。

あいつらと、ましろが笑っている時間は、俺にとっても大切なもの。


「ましろ、ごめんな……」


俺は、しゃがみ込んで目線を合わせた。


「嫌だよな。急すぎるよな」


ましろの手は、まだ俺の服を掴んだままだ。

ましろは少し考える素振りをして、下を向きながらぽつりと呟いた。


「……もしかして、ましろのせい? ましろが変わっちゃったから……」


「違う」


俺は迷わず答えた。


「ましろのせいなんかじゃない」


それだけは、絶対に違う。


ましろの肩に手を置き、しっかりと目を合わす。


「ましろが変わったのは、悪いことじゃない」


そうだ。悪いわけがない。


「俺は今のましろが大好きなんだからな」


俺の思いをしっかり伝えなくては。


「俺たちのために、変わってくれて、俺はめちゃくちゃ嬉しいんだからな!」


そうだ。ましろが悪いわけがない。


「だけどな……世界の方が、まだ追いついてないんだ」


ましろが、ぽかんと俺を見る。


「だからな、ましろを守る場所に、移るだけだ」


「……ましろが、悪いんじゃない?」


「ああ」


俺は笑って、言ってやった。


「むしろ――ましろが大事すぎて、周りのみんなが慌ててるんだ」


それでも、ましろは不満そうに唇を尖らせたままだ。


「それでも、コジマたちと遊びたかった……」


「ああ。俺もだ」


即答だった。


「だから……ちゃんと、お別れしよう。勝手にいなくなるんじゃなくて、ちゃんとだ」


ましろは、少しだけ考えてから、俺を見る。


「……ちゃんと?」


「ああ。ちゃんと」


俺は大佐の方を向き、頭を下げる。


「……大佐、お願いします。せめて、別れる時間をください。それが異動の条件です」


大佐は小さく息を吐き、優しそうな声で答えてくれた。


「……わかった。それなら、異動の前に、少し時間を作ろう」


ましろが、ぱっと顔を上げた。


「ほんと!?」


「ああ、命にかけても約束しよう」


************


部下たちとの面会は、明日の十時に決まった。

すぐに会えると思っていたが、手続きや確認が必要だと言われた。


というのも、現在、ましろが魔人になったことは軍事機密。

情報規制が敷かれ、俺たちが住んでいるこの宿舎も、立入禁止になっているらしい。


ましろが繭になった時点で、全員、別の宿舎へ移っていたと、後からそう聞かされて、ようやく状況を理解した。

ましろのことで頭がいっぱいで、周りを見る余裕なんて、まるでなかったのだ。


その後、大佐の立ち会いのもと、ましろの健康診断と確認が行われた。

食事も、着替えも、そして、部屋の片付けも、すべてが慌ただしく進んでいく。


その間、大佐は部屋の隅に陣取り、ずっと俺たちを監視していた。

寝る時でさえ、それは変わらなかった。


――明日は、あいつらと別れる日だ。

本当は、もっと一緒に仕事が出来ると思っていた。

最後まで読んでいただき、ありがとうございます!

もし気に入っていただけたら、ブックマークや感想ももらえると嬉しいです。

湊原ましろチャンネルをよろしくお願いします!

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