表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

PR
2/38

第一話 すべての始まり

本編は、プロローグの十年前から始まります。

森の巡回結果を書き終え、パソコンの電源を落とす。

今日もいつも通り、平和な一日だった。


「ふぅ……よし、みんな帰るぞ!」


「了解です、班長。お疲れ様でした」

「お疲れさまでしたぁ」

「おつかれっすー! 班長、今日もゲームしますよね?」


「ああ。その予定だ。いつもの時間にな」


部下たちはそれぞれ返事をして、事務所を後にしていった。


真面目な菅野(すがの)

おっとりした二ノ宮。

軽口ばかりの小島。


この三人の班長になって、もう三年になる。

今年で三十二歳。

若手とは呼ばれなくなったが、班をまとめる役としては、どうにかやれていると思う。


後は部屋に戻って、ゲームをするだけ……なんだけど、大事な用事がもう一つある。


俺は帰宅前に、いつものように訓練所へ向かう。

そう、あの子を迎えに行くために。


「にゃあ!」


扉を開けた瞬間、白い塊が勢いよく胸に飛び込んできた。

顔をぐいぐい押しつけてくる。


「おっと……ただいま、ましろ」


腕の中で、満足そうに喉を鳴らしている。


白猫のましろ。

俺の相棒であり、娘のような存在だ。


見た目は普通の猫……なんだけど、その身に魔力を宿す彼女は、分類上は魔物として扱われる。

魔物は人にとって生存を脅かす存在なんだけど、ましろのように人に寄り添い、助けとなってくれる例外もいる。

今日も俺たちの巡回を手伝ってくれた頼もしい子だ。


「今日も頑張ったな」


「にゃっ」


短く鳴いて、しっぽを揺らしている。

この鳴き方は肯定の合図。ちゃんと意思疎通もできる賢い子でもある。


「よし。帰ったら、今日もゲームをしよう」


「にゃ!」


嬉しそうに返事をして、ましろが俺の背中に移動する。

このおんぶの体制が、すっかり定位置になっている。


ましろと一緒に仕事して、家に帰ってゲームをする。

俺はこんな何気ない毎日が大好きだ。

仕事終わりに、ただ一緒に家に帰るこの時間すら愛おしい。


ましろがいるからこそ、俺は頑張れるんだと思う。


************


宿舎の食堂で夕食を済ませ、そのまま部屋へと戻った。

部下たちも、いつもの時間に自然と集まってきた。


「班長の部屋、いつも綺麗ですよね」

「ましろちゃん、今日もよろしくね〜」

「今日は新作っすよ、新作!」


「はいはい。順番にな」


ゲーム機の電源を入れる。

ましろはすかさず俺の足元に座り、画面をじっと見つめていた。


何故か、その姿を見て……あの日のことを思い出した。

ましろに初めてコントローラーを渡した日のことを。


冗談半分で渡したつもりなのに、まさか、ゲームができてしまったんだからな。

めちゃくちゃ驚いたけど、それよりも嬉しさが勝った。


だって、俺の好きなものを、一緒に楽しんでくれるんだぜ?

嬉しいに決まっている。


画面が切り替わった瞬間、ましろが身を乗り出して、前足をコントローラーに置く。

いつものゲームスタイル。やる気満々である。


しかし――


今日のましろは苦戦していた。

それもそのはず、このゲーム、操作が複雑すぎた。


左スティックを動かしながら、複数のボタンを押す。

流石に猫の手では難しい。


「……あ、惜しい」


「にゃ……」


キャラクターがコースを大きくズレる。

ましろは画面を見つめ、自分の前足を見下ろした。


それでも、諦めない。

何度も挑戦している。


しかし、なかなかうまくできない……。


「にゃーーーー!」


「今の、コーナー、もうちょっとで曲がれるんだけどな……」


ましろは上手くできず、拗ねて俺の足で丸まってしまった。


俺はそんなましろを撫でながら、つい、口に出してしまった。


このままでも十分だと、そう思っていたはずなのに。

でも、もっといろんなゲームを一緒に楽しめたらと、そんな欲が生まれてしまった。


「……なあ、ましろ」


本当に、何気なく。


「もし……ましろが人間だったら……もっと一緒にいろんなゲームができたのかもな」


一瞬。


ましろの体が、ぴくりと震えた。


俺の方を見て、首輪に前足をかける。

カリカリと、引っかく。


「え……外してほしいのか?」


「にゃっ!」


迷いのない返事だった。

これまで、ましろが首輪を外して欲しいなんて言ったことなかったのに。

少し疑問に思いながらも、俺はそのまま外してしまった。


――その瞬間。


眩い光が、部屋を満たした。


「ま、ましろ!?」


「な、なんすかこれ!?」

「ましろちゃん……!」


部下たちが声を上げる。

光の中で、形が崩れ、包まれていく。


やがて、光が収まった。


そこにあったのは――繭。


「……繭?」


誰も動けなかった。

何が起きたのか、全くわからない。


テレビからは、さっきまでのゲーム音が、虚しく流れ続けている。


「と、とにかく医者だ! 医者に連絡しないと!」


俺は震える手でスマホを取り出す。


「ましろ……大丈夫か……?」


返事はない。

ただ、静かに、そこにあるだけ。


俺が変なことを言ってしまったせいで……。

あの一言が、ましろの何かを決定的に変えてしまったのだけはわかる。

そんな予感だけが、胸に残っていた。


繭の前で立ち尽くしながら、

俺は自分の軽率さを、何度も何度も後悔していた。

最後まで読んでいただき、ありがとうございます!

もし気に入っていただけたら、ブックマークや感想ももらえると嬉しいです。

湊原ましろチャンネルをよろしくお願いします!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ