第一話 すべての始まり
この作品を選んでいただき、ありがとうございます。
初めての作品になります。至らない点もあるかと思いますが、どうぞよろしくお願いします。
更新は毎週火・金予定です。
最初の五話までは毎日更新予定です。
どうぞ、最後までお楽しみください!
森の巡回結果を書き終え、パソコンの電源を落とす。
今日もいつも通り、平和な一日だった。
「ふぅ……よし、みんな帰るぞ!」
「了解です、班長。お疲れ様でした」
「お疲れさまでしたぁ」
「おつかれっすー! 班長、今日もゲームしますよね?」
「ああ。その予定だ。いつもの時間にな」
部下たちはそれぞれ返事をして、事務所を後にしていった。
真面目な菅野。
おっとりした二ノ宮。
軽口ばかりの小島。
この三人の班長になって、もう三年になる。
今年で三十二歳。
若手とは呼ばれなくなったが、班をまとめる役としては、どうにかやれていると思う。
後は部屋に戻って、ゲームをするだけ……なんだけど、大事な用事がもう一つある。
俺は帰宅前に、いつものように訓練所へ向かう。
そう、あの子を迎えに行くために。
「にゃあ!」
扉を開けた瞬間、白い塊が勢いよく胸に飛び込んできた。
顔をぐいぐい押しつけてくる。
「おっと……ただいま、ましろ」
腕の中で、満足そうに喉を鳴らしている。
白猫のましろ。
俺の相棒であり、娘のような存在だ。
見た目は普通の猫……なんだけど、その身に魔力を宿す彼女は、分類上は魔物として扱われる。
魔物は人にとって生存を脅かす存在なんだけど、ましろのように人に寄り添い、助けとなってくれる例外もいる。
今日も俺たちの巡回を手伝ってくれた頼もしい子だ。
「今日も頑張ったな」
「にゃっ」
短く鳴いて、しっぽを揺らしている。
この鳴き方は肯定の合図。ちゃんと意思疎通もできる賢い子でもある。
「よし。帰ったら、今日もゲームをしよう」
「にゃ!」
嬉しそうに返事をして、ましろが俺の背中に移動する。
このおんぶの体制が、すっかり定位置になっている。
ましろと一緒に仕事して、家に帰ってゲームをする。
俺はこんな何気ない毎日が大好きだ。
仕事終わりに、ただ一緒に家に帰るこの時間すら愛おしい。
ましろがいるからこそ、俺は頑張れるんだと思う。
************
宿舎の食堂で夕食を済ませ、そのまま部屋へと戻った。
部下たちも、いつもの時間に自然と集まってきた。
「班長の部屋、いつも綺麗ですよね」
「ましろちゃん、今日もよろしくね〜」
「今日は新作っすよ、新作!」
「はいはい。順番にな」
ゲーム機の電源を入れる。
ましろはすかさず俺の足元に座り、画面をじっと見つめていた。
何故か、その姿を見て……あの日のことを思い出した。
ましろに初めてコントローラーを渡した日のことを。
冗談半分で渡したつもりなのに、まさか、ゲームができてしまったんだからな。
めちゃくちゃ驚いたけど、それよりも嬉しさが勝った。
だって、俺の好きなものを、一緒に楽しんでくれるんだぜ?
嬉しいに決まっている。
画面が切り替わった瞬間、ましろが身を乗り出して、前足をコントローラーに置く。
いつものゲームスタイル。やる気満々である。
しかし――
今日のましろは苦戦していた。
それもそのはず、このゲーム、操作が複雑すぎた。
左スティックを動かしながら、複数のボタンを押す。
流石に猫の手では難しい。
「……あ、惜しい」
「にゃ……」
キャラクターがコースを大きくズレる。
ましろは画面を見つめ、自分の前足を見下ろした。
それでも、諦めない。
何度も挑戦している。
しかし、なかなかうまくできない……。
「にゃーーーー!」
「今の、コーナー、もうちょっとで曲がれるんだけどな……」
ましろは上手くできず、拗ねて俺の足で丸まってしまった。
俺はそんなましろを撫でながら、つい、口に出してしまった。
このままでも十分だと、そう思っていたはずなのに。
でも、もっといろんなゲームを一緒に楽しめたらと、そんな欲が生まれてしまった。
「……なあ、ましろ」
本当に、何気なく。
「もし……ましろが人間だったら……もっと一緒にいろんなゲームができたのかもな」
一瞬。
ましろの体が、ぴくりと震えた。
俺の方を見て、首輪に前足をかける。
カリカリと、引っかく。
「え……外してほしいのか?」
「にゃっ!」
迷いのない返事だった。
これまで、ましろが首輪を外して欲しいなんて言ったことなかったのに。
少し疑問に思いながらも、俺はそのまま外してしまった。
――その瞬間。
眩い光が、部屋を満たした。
「ま、ましろ!?」
「な、なんすかこれ!?」
「ましろちゃん……!」
部下たちが声を上げる。
光の中で、形が崩れ、包まれていく。
やがて、光が収まった。
そこにあったのは――繭。
「……繭?」
誰も動けなかった。
何が起きたのか、全くわからない。
テレビからは、さっきまでのゲーム音が、虚しく流れ続けている。
「と、とにかく医者だ! 医者に連絡しないと!」
俺は震える手でスマホを取り出す。
「ましろ……大丈夫か……?」
返事はない。
ただ、静かに、そこにあるだけ。
俺が変なことを言ってしまったせいで……。
あの一言が、ましろの何かを決定的に変えてしまったのだけはわかる。
そんな予感だけが、胸に残っていた。
繭の前で立ち尽くしながら、
俺は自分の軽率さを、何度も何度も後悔していた。
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