第32話◆もし明日に残ってもアタシが【リフレッシュ】したげるからねっ
タイトルにルビが振れなくて残念ですが、
ステータス異常を治す神聖術の
【快癒】のことです。
テーブルの上に置かれた白い人形……。
カンタンな作りで人のかたちをしているだけの布をぐるぐる巻きにしたぬいぐるみみたいなもので、「人形」と呼んでいいのかってレベルなんだけど、これはれっきとした魔法のアイテムだ。
アタシも実家が教会だし、いま神職に就いてるからわかるし知ってる。
自分に向けられた呪いやそういう呪術を持ち主の代わりに受け持って防ぐ、魔法防御系のアイテムだ。
その『形代』は、お腹に大きな穴があいていて、そのふちが黒くぐずぐずに溶けている……。
これは、少し見ただけでもわかる。
とても強力な呪いを肩代わりした傷跡だ…………。
「クエスト依頼の本題に入る前に、
まずこの形代なのですが…………、、、
……これで、31個目になります……。」
「ええええ!!??」
ボルさんの言葉に思わず声が出ちゃった。
「元々恨まれやすい地位の家というのもありまして
クーフィン家の者はみなそれぞれ、
2体ほど前から常備していたのですが、
ある日突然、朝起きたら坊っちゃまの形代が、
1体、首が落ちてまして……。」
「ふむ。綺麗に首を落とすとは、無駄のない
相当高度な呪式魔術のようだな。」
クリストフさんが無表情でグラスを置いた。
「……はい。それまではたまに形代が少し
汚れたりほつれたりすることはあったのですが、
その日以来、ほぼ毎日のように形代が
破壊されることが増えまして、、、
真っ二つに裂けていたり、黒く燃え尽きていたり…。
都度買い直していたのですが、多い日は
3体同時に壊されることもありました…………。」
さ、さすがにそれはやりすぎってレベルじゃないよね……。
アタシは、ノネミアさまに仕える身としては、神聖なるものと相反する「呪い」という存在に嫌悪感を感じる。
なんだろう。
なんとも言えない、やるせない怒り、みたいなものに近いのかもしれない。
「……そんなの、アタシ許せない。」
思わず口に出てしまった。
そこにユミィが手を上げた。
「んと。ボルさん。話はわかったんだけど、
それを助ける?というか、なんとかするのって、
わ、わたしたちにできるのかな……?」
「……。確かにユミィの言う通りだな……。
オレたちは冒険者であって呪術師でもねぇし、、、
レイトやナーシュはどうだ?
なんかいい手とかあったりするか?」
セイヤがエルフ2人組に話を振った。
「私は、ほら、魔力のない剣士だし……。
村にいた頃なら他のエルフがもしかしたら
なにか良い手を打てるかもしれないけれど……。」
「うーん。僕も精霊は呼べるけど、呪いから
護ったりとかそういうのは、僕にも精霊にも
ちょっと荷が重いかな…………。
……アイさんの神聖術はどうですか?」
アタシにもお鉢が回ってきた。
「……そうだね、、、アタシの神聖術でも、
魔法防護くらいはできるけど、、、
呪いに効くかはわかんないし、その都度
かけ直さなきゃいけないし、、、」
アタシも腕組みしてうなることくらいしかできなかった。
あ、そうだ。
「もっと高等な術だったら、その呪いをもしかしたら
跳ね返せて、術者を返り討ちとかできるかもだけど、
アタシまだそこまでレベルが……。」
もしかしたらボルさんはそれ目的で、神聖術が使えるアタシ目的でクエスト依頼してきたのかな?
でもアタシまだこんな小娘だし、そこまで強力な神聖術なんて使えるようには見えないと思うんだけどなぁ。
「…………それです。」
決意のこもった目で、ボルさんが顔を上げた。
「は、跳ね返す、ってやつ??」
思わず確認してしまう。
「はい。C級ダンジョン、【サルアーフ王宮跡】の
ボスが落とすドロップ品に
【呪い返しの護符】というアイテムがあるそうです。
皆さまにはそれを持ち帰って来て欲しいのです。
当然、秘密裏に……。
口惜しいことに、私はまだシルバークラスですので
ダンジョンに入る資格がありません……。
ですので、皆さまが頼りなのです!」
呪いを跳ね返す? そんなアイテムがあるの?
「ふむ。悪くない手だな。」
子爵さまも納得している。
「別にオレらが取りに行くのはかまわねーけど、
確か結構な値段すっけど、魔具屋とかで
買うのはダメなんか?
エルミンのダンジョンのボスドロップだったら
この街でも流通してるんじゃねえか?」
セイヤはうちらのリーダーだけあって、いつも通り慎重だ。
C級ダンジョンと言えばそこそこ危険があるし、安請け合いしてアタシたちがやられちゃ身もふたもないもんね。
でも、ボルさんの返答のほうがもっと慎重だった。
「……いえ。購入した時点でこちらの思惑が
相手にばれる可能性があります。反射を警戒されて、
手段が呪詛からまた別のものになってしまえば、
他の手段、未知の危険に主が晒されます。
その様な理由で、ギルドでの公開クエスト募集も
出来ない状況です。」
「うーん。そっかー……。なるほどねぇ。」
思わずうなずいてしまった。
「ですので改めてみなさんにクエスト依頼のお願いです。
【サルアーフ王宮跡】のボスを打倒して、
そのドロップ品の【呪い返しの護符】を
手に入れて頂きたいのです!
報酬はしっかりとご用意させて頂きます。」
そこまで言い切って、ボルさんは頭を下げた。
アタシはセイヤを見た。
返答はリーダー次第だけど、アタシはやってもいいって思ってる。
見るとユミィもかなり前向きな感じが伝わってくる。
「……アイ、ユミィ、オレはこのクエスト
受けようかって思ってるが、お前たち何か
言いたいことや気になることあるか?」
セイヤがアタシとユミィに意見を求めてきた。
「アタシはやっていいって思ってるよ。
神職に就くものとしては、呪いとか許せないし!」
「んと、わたしもやってみたい。
C級ダンジョンのクエストってことは、
このクエストもC級だもんね。
ゴールドクラスに昇格して一発目のクエストとしては
ぴったりなんじゃないかな。」
言うまでもなく、アタシもユミィも賛成した。
「よし。ボルさん、そのクエスト、
【黒曜の剣】が引き受けた。」
「待ちなさいよ!! 私たち【明光の夜】も
同行させてもらうわ!!」
セイヤの返答に慌ててレイトが食いついてきた。
「……当たり前だろう。。。
いくらC級っつっても、まだまだオレらの力じゃ
荷が重てぇって。お前らの力も当てにさせて
もらっての返答だっつーの。」
「ふ、ふん! わかってればいいのよ!!
報酬は山分けだからねっ!!!」
相変わらずのエルフらしくないレイトの物欲に思わず笑ってしまった。
「ありがとうございます。
みなさんどうかよろしくお願いします。
なんとか2日後までくらいにご用意頂ければ……。
では、この場は私が持ちますので、今夜は皆さん
大いに飲んで食べてください!」
え! 嬉しい!!
さすが領主の家の執事さんだ!
ふとっぱら!!
「やった! アタシ、グリルボア追加してもいい?」
「いや待て待て! 2皿な! 2皿なっ!!」
「んと、わたしカシスオレンジもう1杯!」
「アンタたち本当に食い意地張ってるわね……。」
「そういうレイトだってメニュー見てるでしょ。
ラージターキーの串焼き食べたいんでしょ?」
「フハハ……! 私もお零れに預かるとしよう!
主人! ありったけの牝馬の血を持ってこい!!」
「おいちょっとアンタ!!
なんでアンタまで飲んでんだよっ!!!」
「ハハハハッ!! 私も同行するのだ!
堅いこと言うでないっ!!!!」
「み、みなさん、どうかお手柔らかに…………。」
なんかめっちゃ盛り上がってきた!
明日からまた新しいダンジョンだ。
今夜はたっぷり英気を養わないとねっ!!!
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クエスト:やばい呪いを跳ね返せ!
依頼者:クーフィン家執事ボル
達成条件:呪い返しの護符の入手
報酬:金貨30枚(現実世界換算30万円)
やばい。
ほんとレイトとナーシュに愛着わいてきた……。
(2026/02/08)




