表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
14/27

幕間①:欠けた月が、緋く満ちる刻~かけたつきが、あかくみちるとき

トライアングルを書くのも少し飽きてきたので

作者的に原典でイチ推しだった、

ありちゃんを少し書かせてください(ごめんなさい)

彼女は、赤く染まる空を見上げた。


―――ラスティア(こきょう)の空も赤いだろうか。


ふと、胸に郷愁がよぎった。


しかし次の瞬間にそんな想いは何処かに消え失せ、彼女は真っ直ぐ前を向いて歩き出した。


祖国をほぼ出奔するかたちで飛び出したアリサだったが、もしラスティアに残っていたら今でも何不自由ない生活を送っていたに違いない。


しかし、神聖ラスティア帝国第二皇女としてこの世に生を受けた彼女の心は、生まれてから一度も満たされた事がなかった。


胸に、ぽっかりと、穴が()いている。


それも、何を持ってしても埋まらない、埋められない大きな大きな穴が。


いったい何が足りないのか。

いったい自分が何を求めているのか。


幼いながらもアリサは懸命に考えた。


しかしながら、思いつくありとあらゆるものでも、彼女の心の穴が満たされる事は一度も無かった。


元々生まれ持った類まれなる美貌を更に更に磨きあげても。

優雅で気品に満ちた淑女の所作(しょさ)を極めても。

算術・語学・建築学・歴史学・政治学などあらゆる帝王学を身に付けても。


それらに没頭してのめり込めば込むほど、胸の穴は大きくなっていく。


―――私には、何かが欠けている。

―――今の私には、何かが足りていない。


その喪失感は次第に焦燥感へと変わり、アリサはそれから逃げるように自らを追い込み続けていた。


(よわい)10を過ぎた頃には、まだその年齢にも(かか)わらず帝国全土に響き渡る程の美貌と才覚を備えていた彼女が最後に選んだのは、剣の道だった。




『―――これは。』




無心に剣を振る時だけは、満ち足りない焦燥感から少しだけ解放された気がした。


まるで、生まれる前から、剣の道を歩んでいたような、そんな感覚。


確かめる(すべ)はないが、あるとすればきっと前世から剣の道に身を置いていた。そうに違いない。


それからアリサは剣を振り続けた。

朝も昼も夜も。

晴れた日も雨の日も風の日も雪の日も。

黙々と。愚直に。一心不乱に。


彼女は剣を振り続けることで、その大きな心の穴を埋めようとしていた。


11の頃には同世代では誰も彼女に勝てなくなった。

12の頃には帝国騎士団長ですら勝てなくなった。

13の頃には彼女の師範だった元剣聖でさえ勝てなくなった。


まだ、職業:皇女(みせいねん)でしかないアリサは、14を迎える頃には剣術の腕は帝国随一となっていた。


それもそのはずだった。


村娘(むらむすめ)に過ぎなかったアイが【神聖術】を取得していたように、アリサはまだどの冒険者職にも就いていないにも拘わらず【剣術マスタリー】のスキルを取得していたのだ。


もともとあらゆる分野においても才能の塊だったアリサではあったが、殊更剣術においては、そのスキルの恩恵でまさに当代随一と呼んでも差し支えがない才覚だったのだ。


もう、帝国内に彼女の相手が務まる剣士も居らず、皇女という立場からダンジョン等で魔物相手に腕を奮うのも許されず、アリサの胸の穴は再び大きな口を開け始めた。


かつての、剣の道を歩む前の、何倍もの焦燥感と渇望感に襲われる日々。




―――剣でこの穴が埋められないのならば、

埋められる()()()を探しに

世界を巡るしかない………………。




アリサは15を迎えたその日に、鑑定の水晶で自分の力を測った。


そして職業(カスネル)神殿にて【聖騎士(パラディン)】の職業(クラス)を授かったアリサは、その日のうちに姿を消した。


まだ見ぬ、

自分の心の穴を埋めてくれる何かを求めて―――――




* * *




気付けば日は暮れ落ちて、夜空には赤く三日月が浮かんでいた。


「………………。」


何故なのか自分でも解らないが、昔から三日月を見上げるたびに、何とも形容しがたい懐かしさが込み上げて来た。


生まれる前から知っているような。


しかしながらいくら考えても答えは出ないので、アリサはいつものように考えることをやめて、野営の準備を始めた。


今夜の寝床に定めたこの古城は、かつて栄華を極めたセフィラント王国の廃城だった。


祖国ラスティアとの戦争によって滅ぼされた、数多くの亡国のひとつにしか過ぎない国の元王城であった。


「今日の寝床は悪くないな。」


皇女という立場上、それ相応の暮らしをしていたアリサだったが、安宿や野宿などの粗末だったり劣悪だったりする環境も一切気にすることがなかった。


その胸に大きく空いた穴に比べれば、些末(さまつ)な事に過ぎなかったからだ。


確かに、旅の始めは戸惑うことも多かったが、この半年で十二分に順応していた。


この旅の間、悪名を響かせた盗賊団を壊滅させたこともあれば、脅威度(モンスタークラス)Cレベルの魔物を独りで(ほふ)ることもあった。


しかし旅を続ければ続けるほど、心の穴は大きくなり、焦燥感と喪失感がアリサを(むしば)んでいった。




「もう、いい頃合いかもしれないな―――」




アリサはひとり自嘲気味に呟くと、最後のひとかけらの干し肉を口に運んだ。




「―――――。」




そしてまた無言で夜空を見上げる。


どうせ満たされない。


何をしても、何をやっても満ち足りない。


アリサは、もうそんな人生に失望していたのかもしれない。


それならば、もう自分が生きている意味なんかないのだろう。


そう思いながら、城壁の上にのぼり、真っ直ぐどこか彼方を見つめた。


「……………………。」


高さはおよそ30mはあるだろうか。




―――もう、終わりにしよう。




彼女は自分の人生に幕を引く決意を固め始めていた。




「……父上、母上、先立つ不幸をお赦し下さい。」




そして、アリサは眼を閉じた。




その時のことだった。




「―――――月が、、、」




「!!??」




突然背後からの声に、思わずアリサは振り向いた。




―――いや、上からか。




視線を上にすべらせる。


そこには、尖塔のへりに腰掛けた青年が夜空を見上げていた。




―――いつの間に……?




アリサほどの達人にも気配を感じさせず背後を取るような存在……。


只者ではない。


彼女の額に冷や汗が浮かび始めた。


そっと愛剣(ソウルオブナイト)に手をかけた。




しかし青年は穏やかな物腰を崩さずに言葉を続けた。




「月が、綺麗ですね。」




そして、ふわり、とアリサの前に舞い降りると、晴れ渡った夜空のような笑顔を彼女に向けてきた。




―――カラン




彼女の手を離れたソウルオブナイトが床に転がった。


穏やかな瞳に見つめられたアリサの頬から涙が伝わった。




「もう、死んでも、いい…………。」




考えるより先に、口から出ていた。




「……ははっ」




青年は少し困ったように微笑むと、床に落ちた聖剣(ソウルオブナイト)を拾い上げた。




「亜里紗が死んだら、俺も死ぬから。」




そう言いながら彼は聖剣を彼女の手に返した。


彼女は、アリサは確信していた。


何よりも、魂で理解していた。




()()()()()()

()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()




理屈じゃない。

心が、精神が、そして魂が、

みるみるうちに、満たされていく。


彼の笑顔が、透き通る声が、何より彼の魂が、

欠けていたアリサの穴をを満たしていく。




アリサは、彼女の胸にすっと降りてきた感情を嘘偽りなく言葉にしていた。




「私は、貴方に逢うために生まれてきた……。」




「えっちょっ、

相変わらずオーバーだな亜里紗ってばw」


「……えっ?」




見上げたアリサの瞳に飛び込んできたのは、


()()()()()()()()世知の笑顔だった。




「……せ、世知(せしる)…………?」




「うん。ひさしぶり。亜里紗。

てか、やっと逢えたね。」




変わらない笑顔。

変わらない眼差し。

変わらない声。


紛れもなく、前世で(かつて)亜里紗が愛した世知だった。




記憶が残っている訳ではない。

前世を覚えている訳ではない。


それでも、彼女が間違うはずがなかった。


亜里紗が、世知を思い出せない訳がなかった。




「私も! 逢いたかっ……た!!」




気付けば彼を思い切り抱き締めていた。




「……ちょっ、ギブ、ギブっ!!」


「へ?」


苦しそうな世知の言葉に、亜里紗は腕の力を緩めた。


「相変わらず体力おばけなんだからw」


「だっ、誰がゴリラだ「言ってないでしょww」


そして2人で笑い声をあげる。


呼吸を整えた世知が口を開いた。


「良かった。亜里紗に逢えて。

でもまだ前世を思い出せてないのに、

よく俺がわかったね。」


流れと勢いで世知と会話していた亜里紗だったが、改めて頭で考えて、いくつもの疑問に襲われ始めていた。


「…………え?前世? え? 誰?

世知? って誰? と言うより、

どうして私の事を知っている?」


そんな彼女の言葉を彼は嬉しそうに聞いていた。


「なんにも思い出せてないのに

ここまで俺に反応してくれたの

まじで嬉しすぎなんだけど。

でもまぁ、説明するよりこっちのほうが

話が早いかも…………。

【深淵】……!」


世知の恩恵(ギフテッド)スキル【深淵】の発動で、相互の意識と記憶が共有される。


そしてみるみるうちに、亜里紗の脳内に前世の記憶がよみがえってきた。


「……せっ、世知っ! 世知だっ!!

私の、私の世知だっ!!!!」


「ははっ。亜里紗、俺も会いたかったよ。」


そして再会の抱擁を交わし合うふたり。


唇が重なる。


彼女の頬をふたたび涙が伝う。


それを彼は無言でぬぐう。


お互いがお互いを確かめ合う。


ふたりに暫く、言葉は要らなかった。




* * *




どれほどの時間が経っただろう。


ふたりは並んで肩を寄せ合い、星空を眺めていた。




「なんかさ、

俺たち異世界転生しちゃったっぽいんだけどさ、

この世界も悪くないけどやっぱり俺、

元の世界に帰りたいからさ、

俺と一緒に帰ろ? 元いた世界に。」




そう言いながら、立ち上がった世知は亜里紗と向き合い、手を差し伸べる。


彼の手を亜里紗は見つめる。


この手を取らない選択肢はない。

いや、迷うという選択肢さえ、

彼女にはなかった。


欠けていた心。

埋まらなかった穴。


それをすべて満たしてくれる存在。


この手を取らない選択肢など、

あるはずがなかった。


前世から常にいつも、彼女は彼と共にあり、いつでもひとつだったのだ。


欠けていたピースが心にはまる。


この世に生まれて初めて味わう充足感。


彼女は、アリサは生まれて初めて満ち足りた満足感を感じていた。




「―――もちろん。

私は、世知となら、貴方となら

何処でも何処までも。」




彼の手を取った彼女の顔には、満月のような笑顔が浮かんでいた。

すみません。

なんか長くなりました。

そして、2章いらないんじゃね?ってくらいじっくり描写してしまいました……。


おまけに原典「セカスイ」の世知と亜里紗を知らないと、ガチのマジでわけわかんない内容だと思います本当にごめんなさい。


でも、原典「セカスイ」での世知と亜里紗も

こんな感じでしたよね?

もしまだ未読の方いらしたら、絶対読んで欲しいんですよ~

作者理想の「いちゃラブ」を妥協することなく詰め込んだバカップルですんでww


まぁ、気まぐれで幕間を更新しましたが、

また年明けから「せいあいゆみ」トライアングルを再開しようかなって思ってますんで、

もし読んでもいいよって方がいらしたら

のんびりとお待ち頂けたら嬉しいです。


(2025/12/28)

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ