ブラコン悪役令嬢は弟をいじめる輩を許しません!
ガレリア魔法学園には生徒からとてつもなく恐れられている公爵令嬢がいる。彼女の名前はローズ、周りからは悪役令嬢として忌み嫌われていた…。
だが、ローズはそんなことなど気にせずとあることに熱中していた。そう、それは命を懸けて弟のリアムの生活を守ることである。公爵令嬢のローズがそんなことをする意味なんてこれっぽっちもない。ならば、なぜ彼女はこんなことをしているのか。答えは簡単、彼女がブラコンだからだ。
「今日もリアムは楽しそうに学園生活を送れているみたいね」
茂みに潜みながら彼女はそう呟く。今日は朝から学園内に不審物がないか調査をしていた。そして、日課であるランニング。ローズは妹を守る為にあらゆる手を尽くしているのだ。
「ローズ、おはよう。……こんなところで何をしているんだい?」
不審な行動をしているローズに話しかける人物がいた。ローズの婚約者であり、ガレリア王国の第一王子であるアランだ。
「アラン殿下、おはようございます。私は今弟のリアムの様子を確認していたところです」
「こんなところから…?」
「はい、弟の邪魔にならないように」
「…そうか」
ローズはリアムのいる方向から目線を外さずにアランと話していた。普通なら無礼となってしまうところだが、ローズはいつもこのような調子なので注意もされなくなってしまっている。
普通、婚約者がこんな調子ならばアランは怒るだろうが、むしろ暖かい目線で彼女のことを見つめている。アランはそんな弟の為に熱心になれるローズのことが好きなのだ。だから、ローズのことを起こったことは今まで一切ない。とても心の広い人物である。
「ではまた会おう、ローズ」
そう告げるとアランはその場から去っていった。
放課後、ローズは学園内を走り回っていた。放課後になってからリアムの姿が見当たらない。ローズのことを見る視線がとても痛いが今はそんなことを気にしている場合じゃない。リアムは一体どこに…。ローズが途方に暮れていると、アランがこちらに駆け寄ってきてこう言った。
「大変だ!ローズ、リアムが…リアムが意識不明の状態で見つかった…!」
ローズがアランに連れられて保健室に行くとベッドにリアムが横たわっていた。
「リアム…!」
ローズは思わずリアムのところに駆け寄り脈を測った。どうやら脈は正常のようだ。ローズはホッと息をつく。安心しているローズを横目にアランが話し始めた。
「リアムは今は使われていない空き教室の中で倒れていたらしい」
そう言うと、アランはリアムに近づきの銀色の前髪をめくった。リアムの額にあったのはやけどだった。
「ひどい傷…!」
「この傷は事故で付くようなものじゃない。これは僕の憶測でしかないけれど、誰かがリアムにこの傷を負わせたのだと思う」
ローズは自分の無力さに悲しくなった。いつもリアムのことをあんなに見守っていたのに、いざというときに護ってあげることができないなんて…!悔しくてそうに顔を歪めるローズは、自分の頬をパンッと叩いた。
「私、リアムをこんな目に合わせた方を見つけてみせますわ!」
「ローズ…」
今すぐ保健室を飛び出しそうなローズにアランは慌てて声を掛けた。
「何か困ったことがあったら言ってくれ!僕はローズの力になるよ」
「お気遣いありがとうございます、殿下。」
そう言うと、ローズは保健室を飛び出した。リアムにやけどを負わせた犯人を何としてでも見つけなければならない…!ローズはその一心だった。
まずは、リアムの今日の行動を振り返ってみる。
午前五時に起床。
朝食、身支度を終え、七時に公爵家を出発。
七時三十分、学校に到着。ローズがリアムの様子を茂みに隠れながら見ていたのはこの時間だ。
八時から八時三十分まで図書館で学友のユードリアと勉強。
九時から十二時まで授業を受けている。
お昼休みはユードリアや他の学友と講堂で食事を摂っている。
ここまでに特に不審な点はない。ならば、リアムの身に何か起こったのは午後の出来事だろう。ローズはそい確信した。
午後は十三時から十六時まで授業を受けているはずだ。
ローズがリアムのことを探していたのは十五時台、もしかしたら午後の授業の間に何かあったのかもしれない。
ローズは今日一日中リアムと共に行動したユードリアに話を聞くことにした。ユードリアは寮で暮らしているのでまだ学校にいるはずだ。
ローズは図書館に向けて歩き出した。リアムとユードリアはよく図書館で勉強している。ならば、今も図書館にいるはずだ。
ローズは図書館に着き、迷いなくいつもリアムとユードリアが使っている二階の勉強スペースまで急いだ。そこには、ユードリアが一人で読書をしていた。
「こんにちは、ユードリア様。リアムの姉のローズよ。少しよろしい?」
「ロ、ローズ様!?ど、どうぞ!もしかして、リアムのことでどうかされたのですか?」
「ええ、リアムが額にやけどを負った状態で発見されたの」
そう告げるとユードリアは驚いたあと、酷く悔しそうな表情を浮かべた。
「リアムが…!?ああ、僕がリアムから目を離したせいだ…!」
動揺するユードリアに声を掛ける。
「貴方のせいじゃないわ。どう考えても、リアムにやけどを負わせた犯人が悪いのよ。どうか落ち着いて頂戴」
「取り乱しました…すみません」
落ち着いた様子のユードリアはこう話し始めた。
「僕は午後の授業の途中で伯爵令嬢に呼び出されて、リアムと別れたのです。しかし、呼び出した令嬢の姿は見つからず…。そこから、リアムの姿を見かけていません」
「そう、わかったわ。よければ、貴方を呼び出した令嬢の名を教えてくださる…?」
「もちろんです!確か…令嬢の名はメルシアといったと思います」
「貴重な情報提供ありがとう。ああそう、この話は誰にも言わないでね。よければ、リアムのお見舞いに行ってあげて。あの子も喜ぶと思うから」
「はい、この後行かせていただきます。ローズ様もどうかお気をつけて!」
ユードリアから貴重な情報を得ることができた。これで、事件の犯人のきとが少しでもわかるといいが…。
その日の夜、ローズは自室で魔法学園の生徒の名簿を見た。ユードリアを呼び出したという、メルシアという令嬢はどうにも怪しい。最近、メルシアという名は世間に疎い私でも耳に入ってくる。噂では、アランの大ファンで、私のことを大層嫌っているとか。以前、私の教科書を燃やした犯人は彼女らしい。だが、決めつけるにはまだ早い。しっかりと調べなければ。ローズはその日朝になるまで調べものを進めた。
翌朝、ローズはいつもよりも少し遅く公爵家を出た。リアムはまだ昨日から目を覚ましていない。それゆえに今日は学校を休む。だからローズも不審物の捜索をする必要はないのだ。
学園に登校すると、アランが校門の前にいた。私が校門に近づくと、アランはこちらに近寄ってきた。
「ローズ、おはよう。…昨日はちゃんと休めたかい?少し顔色が悪いのではないか?」
「いえ、大丈夫です。昨日はしっかりと眠れましたよ」
思わずアランに嘘をついてしまった。アランも忙しいのに私の心配をしてくれる。昨日のこともあるし、これ以上迷惑はかけられない。
「そう、ならいいんだけど…」
「それよりも、殿下が校門にいるのは珍しいですね。何か御用でもおありですか?」
「そう、実は昨日のことなのだが…。調べてみたところ、リアムのやけどは火炎魔法でつけられたものみたいだ。」
「それは、リアムにやけどを負わせた犯人は火炎魔法の使い手であるということですか?」
「ああ、まだ断言はできないけれどその可能性は高いと思う」
「殿下、それなら協力してほしいことがあります」
ローズはアランにメルシアのことを話した。
「そう、この二つの情報を組み合わせると大分彼女が怪しく見えるね。なら僕が一芝居打ってみせるよ」
そう言うと、アランはぱちりとウインクをした。
その日の放課後、アランは空き教室にメルシアを呼び出した。
「メルシア伯爵令嬢、突然呼び出してごめんね。実は君に話したいことがあってね」
「はい!何のお話でしょうか!」
メルシアは興奮気味にアランと話している。どうやら、アランと話せることが相当嬉しいようだ。
「実は昨日ここで、男子生徒が意識不明で倒れている事件がおきたんだ」
「まあ、それはとても恐ろしいですね…!」
「それでね、男子生徒はいまだに目覚めていないんだ。僕は彼と知り合いでね。彼のきとがとても心配なんだ」
「そうなんですね…!ご友人のリアム様の身が危ないんですもの!殿下が心配なさるなんて、リアム様もきっとすぐに目を覚まされるでしょう…!」
「僕は一言も男子成長がリアムだって言っていないよ。どうしてわかったんだい?」
アランがそう告げた瞬間、その場の空気が凍った。そして、メルシア焦ったように話し出した。
「か、風の噂で…」
「僕は極小数の人間にしかこのことを伝えていないよ。口止めもしてあるし。だから、何処からかこの話が漏れることはない。で、どうやってこのことを知ったんだい?」
アランがそう聞くとメルシアは黙ってしまった。アランは、だんまりなメルシアから興味なさそうに目を外すと入り口の扉に目を向ける。
「ローズ、今の会話聞こえていたかい?入ってきていいよ」
アランがそう言うと、空き教室の扉が開いた。そこにいたのはローズだった。
ローズを見ると、メルシアは怯えるようにカタカタと震え出す。どうやら、ローズのことを相当恐れているらしい。
「公爵家の跡継ぎに手を出すとは、どうなるかわかっているわよね?少なくとも、貴女はこの学園を退学、伯爵家も取り潰しかしらね」
「ロ、ローズ様!それだけは…!それだけは…!どうか!」
「伯爵令嬢風情が私の名を軽々しく呼ばないで頂戴。貴女は伯爵令嬢で私は公爵令嬢。しっかりと身分の差を弁えることね」
「メルシア伯爵令嬢、その発言自分が犯人だと言う告白と捉えてもいいかな?」
アランはそう言うと、パチンと指を鳴らした。すると廊下から、数人の兵士たちが教室に入ってきた。
「連れて行け」
アランが冷たく静かにメルシアに対してそう告げた。
「お待ちくださいアラン殿下!私はただ…貴方のことが好きで、その女を消そうとしただけですの!そんな嫌われ者の女、この国の第一王子である貴方に相応しくないわ!!」
「それで、リアムにやけどを負わせたのかしら?」
「そうよ!!あの男、アンタが大変だと告げたらすぐ着いてきて来てくれたわ!ああ言う男は騙されやすくて助かるわ!」
意味のわからないメルシアの発言にローズは怒りの気持ちが収まらなかった。しかしこの気持ちをグッと抑えてこう告げる。
「もういいわ。殿下が連れて行けと言ったでしょう?早く連れて行きなさい。その穢らわしい口を押さえてね」
数人の兵士たちはメルシアを取り押さえ、そのまま何処かへ連れていった。
「色々とありがとうございました、殿下」
「いいや、お礼をいわれるようなことはしていないさ。それよりも、メルシア伯爵令嬢が言っていた言葉を間に受けないでくれ。君はとても素敵な女性だと僕は思っているよ。僕は、弟の為に熱心になれる君のことが好きだよ」
少し恥ずかしそうにローズは笑った。
「この後、公爵家に寄ってから帰りませんか?」
「いいね、リアムへのお見舞いに何か買っていこう」
そう話しながら二人は空き教室を後にした。
その日の夕方、無事にリアムは目を覚ました。幸いにも発見が早かったおかげで、治癒魔法で額のやけどはきれいさっぱり消えるらしい。
ちなみにメルシア伯爵令嬢は魔法学園を退学になり、伯爵家の取り潰しはリアムが止めたらしい。ローズは取り潰しを行う気満々だったが、当事者であるリアムが止めるのであればそうするしかないだろう。
今日も今日とていつも通りにローズはリアムの生活を守っていた。最近は、リアムのことが心配なのかアランのリアムの様子を見にくることが多いという。




