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人間と偽って暮らすトラウマ持ちの魔女、番の竜人に拐われましたがそれなりに幸せです  作者: 立花 みどり
第一章

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この人は私の番


「何か僕にお願いしたいことはある?なんでも叶えるよ」


 なんでも、なんてものは普段は軽々しく口にすることじゃないけれど、セドリックは本当にリゼの願いはなんでも叶えるつもりだろう。

 竜人で王弟なのだ。叶えられないことの方が少ないかもしれない。


 自分の事情を、番にどこまで話すべきだろうか。リゼは悩む。


 番と離れることはできない。セドリックの様子からも、自分の感覚からも離れることはできないんだろうな、と思う。だとすれば、ジョエルのこともある程度話しておく必要がある気がする。


 彼はまだ自分を探しているから。


 となると引き続き身を隠して生活しなければいけない。けど、どう伝えればいいだろう。せっかく目の前に現れた番が、従兄弟に過去に拷問まがいの仕打ちを受け、今もまだ追いかけ回されていると知れば気が触れるかも知れない。

 ましてや王弟となれば戦争でも起こしそうだ。


 ーー今はまだ、話さない方がいいんだろうなあ。


 というわけで事情は話さず要望だけ伝えることにした。


「えと、個人的な事情で身を隠してたいかも、なんだけど、いいかな。事情も今は言えないんだけど」


 喋り出したものの、自分でもびっくりするくらい下手くそなお願いにびっくりする。

 ひやひやしながらセドリックを見つめる。


「いいよ。ただし僕のそばで、というのが条件だけど。多分だけど離れ離れになると気が狂う。というか、もしも離れようとすれば監禁すると思う」


 願いはあっさり通った。

 というより離れることを最も恐れているが故に、事情については深掘りされなかった。


「だ、大丈夫。隠れられるならどこでもいいから」

「隠れていたい理由について、……今じゃなくても良いから、いつかは話してくれる?」

「いつか、なら、大丈夫」

「わかった。信じる。……他には?あ、一応確認だけど犯罪者として追われているわけではないよね?」

「それは、ちがう」

「じゃあよかった。もし犯罪者だとしたら隠し方を工夫しないといけないから」


 もし犯罪者だとしても手放す気はないらしい。隠してくれるらしい。それはそれで頼もしいことである。


「とは言っても、僕は王弟だから王族にはさすがに紹介しないといけないんだけど、それは大丈夫?」

「それは大丈夫」

「他に僕にお願いしたいことはある?」


 すでに結構わがままを言ってると思うんだけど大丈夫だろうか。リゼがそう迷っていると、セドリックは「番に頼られるのは嬉しいんだ」と言った。


 であれば、もう一つ大事なお願いをしておかなければいけない。


「他人に触られるのがダメだから、他人に触られない生活がしたい、かも」

「もちろん触らせるつもりはないけど」

「その、女の人も無理なの……。貴族の人って使用人に着替えとかお風呂手伝ってもらうよね?でも私は自分でさせて欲しい。ちょっと変わった体質で、人に触られると気持ち悪くなって熱が出るの」

「えっと、僕はさっき触れたけど大丈夫?」

「セドリックは大丈夫みたい。番だからかな?家族以外で触っても大丈夫なの、初めてだから」


 セドリックは驚いたように目を見開いて、それからとても嬉しそうに微笑んだ。

 再び手を伸ばしてリゼの手を優しく握る。


「どう?」

「平気」

「じゃあ、これは?」

 

 そのまま手を持ち上げて、手の甲にキスをする。

 青い瞳は真剣にリゼを見つめていた。


「へ、平気です……」


 とんでもない色気にリゼは顔を真っ赤にする。


「この国で、触れても平気なのは僕だけってこと?」

「そう、だと思う。というか世界中で家族以外だとセドリックだけかも……。」

「そう。……それってすごくいいね。最高だ」


 セドリックは満足そうだ。


「リゼは僕が守ってあげる。お世話も任せてほしい」

「ちなみに、セドリックは強い?」

「うん、とても」

「どれくらい?」

「うーん、難しいな。この国では上から数えた方が早いくらい?」

「それは、最高かも」


 竜人は女神様の加護を受けた種族とも言われている。

 魔女と同じくらい魔法が得意で、エルフと同じくらい精霊と言葉を交わすことができて、魔族と同じくらいに力が強い。それが竜人。


 その竜人の国の中でも強いとなれば、実家に籠っていた頃よりも、一人で転々としていた頃よりも安心かもしれない。

 と、ごく自然に初対面のセドリックと過ごすことを受け入れていることを改めて自覚する。

 

 ーーやっぱりこの人は私の番なんだ。


 魔女は番を感じ取る器官がとても弱い。人によっては番がずっとそばにいたのに、何年も気づかないということもある。気づかないまま生涯を終えるということもあるくらい。

 そんな種族であるリゼが、他人に触れられるのも嫌いで、信じることも苦手なリゼが、目の前の男と暮らすことを考えている。

 

 ーーほんとに、番ってそういうものなんだ。


 自分の感覚に新鮮さを覚えながら、リゼはにこにこと自分の手を握る男に、すでに少しの愛しさを感じ始めていた。



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