昔の話
『リゼったら、すっかり他人を信じられなくなっちゃったわねぇ。イアンとアレンはリゼを独占できるから喜んじゃっているけど』
セレナはやれやれというポーズを取る。
ーーああ、これは夢だ。私が助け出されて少し経った頃の夢。
家族以外を本当に信じられなくて、塞ぎ込んで閉じこもっていた時期だ。放っておけば自室に篭りきりの私を気遣って、母は毎日庭でのティータイムへ誘ってくれていた。
『他人に触れらるのはつらい?』
母は問う。
夢の中のリゼは頷く。
『もしかしたら一生このままかもしれないわね』
それでも良いかな、と思う。
『ねえリゼ。私とアスターは番同士でしょう?』
セレナは頬杖をついてリゼを見つめる。リゼもまた、見つめ返して続きを待つ。
『番っていうのはね、本当にお互いが全てなの。私は全てにおいてアスターが一番だし、アスターもまた私が全てなの。これはね、リゼやイアンとアレンを愛していないって意味じゃないのよ。あなたたちのことはもちろん愛してる。でもね、番っていうのは我が子を愛するとはもっと別の、それ以上の、いわば呪いみたいなものなのよ』
遠くで父とイアン、アレンの鍛錬の音がする。
『どう頑張っても、私はアスター以外を愛することはできない。そして裏切ることもできない。彼が全てにおいて一番優先されるべきことだから。番ってそういうものなの。わかる?』
『たぶん』
言っていることは理解できる。
『まあ、何が言いたいかっていうとね。もしリゼに番が現れたとしたら、番だけは信じてあげなさいな。どんなに番本人が頑張ったところで、リゼを害することも裏切ることもできないんだから』
私に番なんて現れるかな。もしもジョエルが番だったら?どうすればいい?
『魔女は番を感じ取る器官があんまり発達してないことが多いからねえ。他の種族みたいに生まれながらにして番の存在を感じられるわけじゃないから何とも言えないけど。
でも、ジョエルはリゼと番になろうとして、なれなかったんでしょう?半年かかっても番になれなかった。それはつまり、そういうことなのよ。
ママはね、リゼの前に運命の番が現れて欲しいと思うの。だってそうすればリゼは絶対的な味方を手に入れるってことだから。別に今のまま、家族とずうっと一緒にいても構わないけれど。それじゃあリゼのためにはならないからね。まあ、もしも番が現れたらあの子達は大暴れすると思うけど』
番が現れたらわかるの?
『わかるわよ。番なんていい匂いがするし、なんだかとっても美味しそうなのよ』
美味しそうなんだ。番にあったらどうすればいい?
『その時は、笑って抱きしめてあげなさい。口付けでもしたらいいわ。自分の番に許されるのが一番幸せなんだから』
わかった。できるかな。番の前で吐いちゃったらどうしよう。
『大丈夫よ。もしそうなってもリゼの番はリゼのことを一生大事にして、安全なカゴに閉じ込めてくれるわ』
監禁されるの?
『あなたが望むならね。望まなければ自由を許してくれるわ。いずれにせよ、リゼにとって辛いことは絶対にしない。ママが約束してあげる。魔女にとって約束がどれだけ重いか知ってるでしょう?』
無言で頷く。
『いい子ね。ママが言った通りにできそう?』
頑張ってみる。
そういうと、セレネは満足そうに笑ってリゼの頭を撫でた。




