予感
王城で騒ぎがあったらしい、と知ったのはセドリックが帰ってこなくなってから三日経った頃だった。
「王城で毒物騒ぎがあり、セドリック様はその対応に追われているようです」
リゼの代わりにセドリックの様子を見に行ったシドから報告を受けた。
本当はリゼ自身が王城にいるセドリックに会いに行く予定だったのだが、使用人と護衛全員に止められてしまった。
セドリックが事前にリゼを屋敷から出さないように指示を出しているらしい。
「王城で毒物騒ぎでこんなに帰って来られないことあるの?」
「陛下の件もあり王城は敏感なんです。陛下が倒れてからは特に規制を厳しくしていたものですから。その状況下で王族を狙って毒が用意されたので調査に忙しいようです」
「王族が狙われた……?」
「ロイド様です」
「それはまた……」
「おそらくエレイン様側の仕業なのですが、都合よくエレイン様はそのタイミングで外遊していまして、話を聞くことすらできず」
「まあ……」
「実行犯と見られる使用人は牢の中で死んでおり入手経路なども不明です。もしもこれが本当にエレイン様側の仕業であれば、ロイド様と同じくリゼ様が狙われるはずです。ですのでくれぐれも屋敷の外には出ないようにお願いします。セドリック様も心配していました」
「セドリックは無事?元気だった?」
「リゼ様に会いたがっていました。預かっていた品々をお渡しすると感動していました。セドリック様から守護の魔法のかかったものを預かっているので後ほどお渡しします」
「ありがとう」
そんなものより本人に会いたいのだけど。
とは流石に言えないほどにシドとレインの空気は緊迫していた。リゼは言葉を口には出さず飲み込んだ。
シドはセドリックから預かったものをテーブルに広げた。
守護の魔法がかかった装飾タイプの魔道具だ。悪意のあるものが触れると対象を弾き飛ばすらしい。なんなら結構な威力の攻撃魔法が込められたものもある。当たると普通の人は瀕死になってしまうんじゃないだろうか。
魔術は使えるけど、そういえばこういったあからさまな防衛用の魔術を付与したものは作っていなかった。今までは平民で、装飾品をたくさんつけているのも変だったから、隠れる足首に魔道具を付けているだけだったけど。
今は公爵の番なわけで、上質な服も着させてもらっているし、身につけるものに魔術を付与して魔道具にするのもありだなあ、なんて気づいた。
とはいえセドリックに強力なものを貰ったので、しばらくは自分で用意する必要はなさそうだけれども。
「リゼ様が心配で仕方ないんですねえ」
大量の装飾品を見てピネはうんうんと頷いた。
「この家にいても心配なんだね」
「不安だと思いますよ。本当ならセドリック様はリゼ様の隣にいて守っていたいはずですから」
「そうなの?」
「私も、もし自分の番が危ないってなったら仕事なんて行かずに片時も離れないと思います。でもセドリック様は仕事を休めない立場ですし、王城に連れて行く方が危険ですからね。とても落ち着かないと思います」
「そうなんだ。そういえばピネの相手も運命の番なんだよね?」
「はい、私の番は犬の獣人なんです!公爵家の騎士団の医者をやってるんですよ。もともとは獣人の国で医者だったんですが、私が連れてきちゃったので、えへへ。異性ですし騎士団の医者なのでリゼ様と会う機会はなかなかないと思うんですが、もしチャンスがあれば紹介させてくださいね!とっても素敵なんですから」
ピネは誇らしそうに笑う。番のことを考えているのか、その笑顔は柔らかくて幸せそうだ。
いいなあ、
リゼは羨ましく思う。
最近は番を番と認識できることが羨ましいと思ってしまう。
確かにセドリックからはいい匂いがするし、触られても平気、一緒にいると落ち着くし、こうして何日も会えないと物足りなくて、不満で、少しだけ不安だ。
でもきっとセドリックが抱えている気持ちには足りない。
自分が番を感じ取る器官が弱いから。
もし自分がセドリックやピネのように番を認識できたなら、今与えられている愛情と同じくらい、それ以上に返せるのにな、と思う。
「ピネに相談があるのだけど」
「……!はい!なんでも相談してください!」
リゼが珍しく相談などというものだからピネは目を輝かせる。
「セドリックにお返しがしたいのだけど、何を私たら喜ぶと思う?ピネは番に何を貰うと嬉しい?」
「うーん、そうですね。基本的にはなんでも嬉しいです。誰でもとびきり喜ぶのは手作りのものだと思いますよ。身につけられるものでもいいですし、食べられるものでもいいです。自分のために時間をかけて用意してくれたというものが特別に嬉しいです」
「なるほど」
なるほど。ここで刺繍の一つくらいぱぱっとできる器用さがあればよかったのだが、生憎リゼは刺繍が苦手である。
「それって、たとえば既製品に私が魔術を施して渡す、とかでも大丈夫なのかな。あまり手先が器用じゃないから、刺繍とか手芸とか、そう言ったことは人に渡せるほどできないんだけど」
「きっと一時も手放さないくらい喜ばれると思いますよ!セドリック様はリゼ様がどんな魔術を勉強しているのか気になっている様子でしたから」
そうなんだ。
今まで魔術について質問されたことがあまりなかったので意外だった。もしかしたら気を遣って聞かないでいてくれたのかもしれない。
「何がいいかな、身につけられるものの方がいいよねえ」
「セドリック様が普段から使っているものに魔術を施してお渡しするのはいかがですか?」
「勝手に私物を借りてそんなことして大丈夫かな」
「絶対に大丈夫だと思います!!!」
絶対、絶対なの?
一応その場にいたシドとレインの顔を見ると、二人とも無言で何度も頷いた。
***
ピネやシドに相談して、セドリックの執務室から懐中時計とピアスを拝借した。普段よく持ち歩いているものらしい。リゼは早速作業部屋に篭った。
懐中時計には守護と耐毒。
ピアスには耐毒、解毒、守護、緊急時の即時全回復を付与した。
一つのものに対して複数の魔術を重ねれば重ねるほど難易度が上がる。今回ピアスに対して4つの効果をつけた。じっくり鑑定しなければバレない程度にピアス自体に隠匿もつけてあるので正確には5つ。売ればちょっとした貴族の家くらいは買える価値がついたのだがリゼは気づいていない。
ちょっと効果盛りすぎたかな、とは思っている。
が、毒殺未遂が起きるぐらい危険な場所に番がいるのだ。結構心配なのだ。
これくらいの効果で『魔族の血』を防ぎ切れるかはわからないけど、ちょっとした麻痺毒や睡眠薬くらいなら確実に跳ね返すだろう。
「シド、これをセドリックに届けてくれない?」
「はい、何か言伝はありますか?」
「体に気をつけて、無理はしないでと伝えて」
「わかりました」
シドは品物を受け取り、王城へ行くために部屋を出ていった。
ーーあ、ロイド様にも耐毒と解毒を付与したものを渡した方がよかったかな……。
エレイン派に狙われているらしい、金髪の王子様のことを思い出してすぐに首を降った。
ーーロイド様にそんなもの渡したらセドリックが怒るよね
最終的には許してくれるかもしれない。でも今回「セドリックのためだけに」用意したのだ。その特別さをしばらくは大事にしたかった。
まあ、王太子だしそれなりのものを既に持ってるでしょ!




