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人間と偽って暮らすトラウマ持ちの魔女、番の竜人に拐われましたがそれなりに幸せです  作者: 立花 みどり
第一章

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新しい日常


 セドリックの屋敷に住み始めてさらに一ヶ月が経った。リゼにとって住み始めてよかったことは使用人たちが自分に好意的だったこと。それからご飯も美味しいし、庭も広くて散歩しがいがあるし、図書室もとんでもなく広くて読んだことのない本がたくさんあったことだ。


 そして唯一不満に思っていることは、以前よりもセドリックと一緒に過ごす時間が減ってしまったこと。なんで。こっちが家なのに。


 家族以外の他人に対して、そう思える自分に驚いた。

 

 公爵邸に帰ってきたセドリックは、溜まった業務の処理に追われていた。朝早くから遅くまで執務室に籠っている。たまに出てきたかと思えば王城に行ったり、鍛錬をしたり。鍛錬中、本当はそばにいたいけど、鍛錬場には男性が多いからセドリックはリゼが来ることを嫌がった。嫌がられてまで行きたくはない。


 ごく稀に来客のない日は、リゼも一緒に執務室で本を読むなどして時間を共に過ごしているが、それが精一杯である。


 寝室に戻ってくるのも大抵はリゼが寝てしまった後で、起きるといない。一度、どうしてもセドリックに甘やかされたくなって、セドリックが戻ってくるまで起きていたことがあった。その時のセドリックはもう少しで空が明るくなるくらいのタイミングで帰ってきた。リゼが起きていることに大層驚いていた。

 少しだけ言葉を交わして、抱きしめ合って眠った。でもそのとき眠そうな目をしながらも10

回くらい、自分を待つために無理して夜更かしをしないで欲しいと言っていた。


 あまりにもしつこく無理をするな、寝て欲しいというものだから、リゼはうっかり自分は死なないから心配するなと言ってしまいそうだった。頑張って言葉を飲み込んで、隙間がないくらいに抱きしめてもらった。少しだけ溜飲が下がった。でもやっぱりちょっと物足りなかった。



 対してセドリックにとって、公爵邸に引っ越してきてからはいいことづくめだった。確かに仕事は増えたが、もともと公爵としてすべき仕事だから気にはならなかった。

 何よりも、自分のテリトリーにリゼがいる。それだけでこの上なく幸せだった。今までは番を探しに行くことすらできなかった。番を探し始めてからもなかなかリゼを見つけられなかった。見えるところにいる、触れられるところにいる、ましてや自分を「好きだ」と返してくれる。それだけで嬉しくて幸せだった。


 早く王城の事情を片付けてリゼとゆっくり過ごしたい。人間の寿命は短いから。早く片付けなければ。


 目下の目標はそれだった。だから忙しく執務に追われていた。公爵としての仕事、王族としての仕事、それから反王政派を牽制する仕事。全てこなすとなかなかリゼとは会えなかった。でもとにかく早く終わらせたかった。


 会えない代わりに使用人たちからリゼの様子を毎日細かく報告させた。


 屋敷に移動してもリゼの生活は変わらなかった。毎日使用人や護衛、それから時間が合えば本人から一日の過ごし方を聞いたけれど、王城の離宮にいる時と変わらなかった。


 食べて、本を読み、魔術を研究して散歩して食べて本を読み眠る。それを毎日繰り返した。少し変わったことといえば自分の執務室にたまに訪れるようになってくれたこと。来客の予定がない日を伝えれば、差し入れを持って執務室に来てくれるようになった。

 仕事をしている自分に気を遣って、あまり多くの会話をすることはないが、食事を持参してくれたり、疲れの取れるポーションを作ってくれたりした。それだけで本当に幸せで胸がいっぱいになった。


 仕事を終えて寝室に戻れはリゼがいた。眠っているリゼを抱きしめて少しだけ眠る。竜族はタフだから睡眠時間をいくらか削ったところで大したダメージはない。


 自分の巣にリゼがいる。

 リゼに触れる。リゼの匂いを嗅げる。寝ている間にキスもできる。

 それだけでセドリックは幸せでどんなことも頑張れそうだった。


 ……このあとリゼに会えないほど忙殺されそうになることも知らず。


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