公爵邸
まってまってまって、想像していたよりも大きすぎる。
ええ?王城じゃないのに?こんなに大きいの???
リゼは驚愕した。
距離があるから抱っこしようね、なんていうセドリックに抱えられながら。とんでもない大きさの公爵邸を見上げて唖然としていた。
「大きすぎない?」
「そうかな?」
鼻歌を歌いながらセドリックは歩いて行く。
そうかな?そうだよ!
セドリックが言うには、元々はもっと小さい邸だったらしい。
が、リゼを迎えるにあたって増改築をしたそうな。
なんでも、番を持たない異性と会わせたくないらしく、使用人の配置、動線、宿舎などを全体的に見直したらしい。その結果大きくなったと。
リゼが居住および移動していいのは目の前に見えるメインの本館。
後ろに高く聳える別館には、番を持たない使用人たちが活動しているので立ち寄ってほしくはないとのこと。
広すぎるし、道を覚えられる気もしないので本館のみでいいのは助かるけど、使用人的はそれでも構わないのだろうか。
不安そうな顔をしてみれば、番を持つ貴族の竜族はみんなこんなものだと笑われてしまった。
えっ そうなの?
リゼの両親も運命の番同士だった。父は母に執着していたし、離れ離れになるとおかしくなるほどだったけど、ここまでではなかった気がする。
「はい、ここがリゼと僕の寝室。作りは離宮と似てるよ。ある程度ここで生活が完結できるようになってるから安心してね。あとは明日案内するけど、リゼの作業部屋も用意してある。魔術が好きってだから、作業部屋を用意してみたんだ。図書室の近くに作っておいたよ。本当は僕の執務室の隣に作りたかったんだけど、僕の部屋は人の出入りが多いからね。あんまりいろんな人に会わせたくないし…」
「来客多いの?」
「うーん、今だけかな。兄上……陛下の業務を一部肩代わりしてる関係で、たまに城に勤めてる人がくるんだよ。急ぎの確認とかだと。ロイドもロイドで忙しくて王城にいないこともあるし、僕も僕で公爵の仕事もあるから」
「そっか。……陛下が目が覚めれば大変じゃなくなる?」
「そうだねえ」
リゼを抱えたまま寝室のソファに座る。もちろんリゼは膝の上だ。リゼはもうこの程度では何も思わなくなってしまった。
近頃は自分の慣れの速さに引いている。
「兄上のことだけど、『デアの霊薬』を探させてるんだ。あ、『デアの霊薬』ってわかるかな?」
「……聞いたことあるよ」
「流石は魔術に詳しいだけあるね。
魔族の血が世界中で悪用されるようになった頃に一瞬だけ出回った、魔族の血に対する特効薬なんだ。流通元も材料も流通量も不明だけど、今でも裏社会のオークションで稀に取引されるって聞いてね、信用できるものを使って探させてる。けど何しろ希少なものだから時間がかかってる」
「陛下は大丈夫なの?」
「厳重に結界を張って、あとは魔法使いと神官にお願いして命を繋いでもらっているよ。たくさん術をかけてね」
相当高度な術をかけているはずだ。
魔族の血は明確に人を害するために作られた毒だ。即効性と致死性に重きを置いて開発された。その製造方法は公式には明かされていない。
ある時から急に流通し出した。
魔族の血が流通し出してしばらく経った頃に、デアの霊薬が急に現れた。魔族の血と同じく、流通元は不明。世界中の貴族たちが霊薬を求めて、かなり高値で取引された。
今ではどちらもほとんど流通していない。
でも当時魔族の血を手にした誰かの手によって、毒殺事件を起こすということは未だにある。魔族の血を世界中の魔法使いや魔術師たちが研究して、進行を遅らせるところまではできるようになった。
でも完全な解毒はデアの霊薬でしかできない。
高度な治癒魔法でようやく進行を止められる。そこまでなのだ。
ぶるり、とリゼは身震いをする。
無意識の身震いに、自分に鳥肌がたち冷や汗を書いていることに気づく。
またこれか。
自分でも反応に呆れて、内心ため息をつく。
「……リゼ?」
「なんでもない、疲れちゃったのかも」
「ああ、ごめんね、疲れているのに怖い話をしてしまったね」
「大丈夫。話してくれてありがとう」
「ううん、リゼ、魔道具を使って毒の検査をしているけど、それでも食べるものには本当に注意して」
「わかった」
「もしリゼに何かあったら、この国が滅ぶと思ってね」
顔色が悪いのに随分物騒な脅しをかけられて、リゼはふは、と笑ってしまった。
その顔を見てセドリックは笑ってリゼの額に口付けた。
「愛してるよ、リゼ」
「ありがとう。わたしも、セドリックのことは好きだよ」
まだセドリックの向けてくれる愛情には到底満たないけれど、ここ数日過ごしてみて今まで異性に対して感じたことのない好感を抱いていることは確かだった。
最近はリゼもこうして好意を言葉で伝えるようにしている。伝えるとセドリックはこの上なく幸せそうな顔をしてくれるから。
もっと好きになれるといいなと思っている。




