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引っ越しを決意
「リゼ、またあの人来てるわよ」
同僚からのそんな密告を聞いて、『この町もそろそろ潮時だな』と思った。
リゼの視線の先には数日前から付き纏ってくる男がいた。職場で受付を担当したのがきっかけだった。特別なことはしていなかったはずだけど、どういうわけか彼はリゼに好感を持ち、周りをうろちょろしていた。
遠くからじっと見てくるところから始まり、偶然を装っては出先に現れ、職場で帰りを待ち伏せするようになり、ついには受付の待合室で一日中仕事している様子を見てくるようになってしまった。一応上司に相談はしたものの、「リゼちゃんも良い歳だし独身で家族もいないんでしょう?少しは向き合ってあげたら?」なんて言われてしまった。
なんということだろう。悲劇だ。
明日にはこの町を離れよう。二年経ったし、もういいよね。
次はもっと人気のない静かな森でも探そう。
男の姿を視界の端に入れながら、リゼは密かに決意した。
 




