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俺は現役騎士の幼馴染がかわいい。  作者: ぽぽぽぽーぽ
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-7章-

「海!ビーチ!快晴!貸し切り!こんなに最高な言葉他にある!?夏サイコー!!!」


私たちは南支部長の心遣いに甘えてビーチに来ていた。

まず元気にビーチに飛び出したのはチェカだ。

赤地に白い水玉模様のビキニが健康的な肌に映える。

ショコラ色の髪は高い位置にくくり、ビキニと同じ色と柄のリボンをウサギの耳のようにつけている。

左右の腰、胸元についた双葉のようなリボンが髪と一緒にピョコっと揺れてかわいらしい。


「ちょっと、チェカ!砂浜は歩きずらいんだから気を付けてくださいね!」


ユールがチェカに続いて砂浜に降りる。

透けるような白い肌に白いビキニ。

腰に大きめのフリルがあしらわれてスカートのようになったかわいらしいデザイン。

稲穂のように輝く金髪は緩くウェーブして片側にまとめて前に垂らしている。

つばが広くレースのように外周が編まれた白い帽子を被っている様は、いかにもお嬢様といういで立ちで綺麗だ。


2人の登場に先に着替えて来ていた男性陣から感嘆の声がする。

皆それぞれニュアンスは違うようだが。


「いいねぇ華やかだねぇ」


ゼアが2人を褒める。少し胸のあたりがチクリとした。


「ほらほら男子~言うことあるだろう?」


「ぅえ!?」


ゼアに話を振られたマナトは分かりやすく動揺している。


「あ、えと……2人とも、可愛いと思い、ます……」


赤くなって俯いている。初々しくて微笑ましい。


「はいはいかわいいかわいい」


ロビは興味無さそうに褒めている。


「2人とも、良く似合っている」


私が声をかけると2人は顔を見合わせて「えへへ」と照れたように笑う。本当にかわいい。


「水着選ぶの手伝ってくれてありがと~シルト!めっちゃ気に入った!」


「私も気に入りました!シルトさんありがとうございます!」


2人にせがまれて水着選びを手伝ったが、気に入ってもらえて良かった。


「で、シルトは本当に水着着ないの?」


チェカが問うてくる。


「ああ、私はここで見ているから、クラゲに気を付けて楽しんでくると良い」


今私はいつもよりは軽装だがワイシャツとズボンのシンプルな格好だ。

海には似つかわしくないかもしれないが、一応男装している身としてはこのままパラソルの下で皆を眺めていようと思っていた。


「よし!じゃあ行ってくる!ロビも行くんだよ!」


「え、濡れたくない……」


「マナトも行こう!海本当に綺麗ですよ!」


「えっ!あっ、」


それぞれ女子に手を引かれて海に向かう。

手で水をかけたり、用意されてた水鉄砲を使ったり、遊泳したりと満喫し始めた4人を青春だなぁとパラソルの下で微笑ましく眺める。

ちょっと羨ましく思っていると水着に薄い上着を羽織ったゼアが隣へ腰かけてきた。


「あっち~。はいこれ」


冷たい果実水を手渡される。

その拍子に鍛えられた胸元と腹筋が目に入って頬に熱が集まる。


「あ、ああ、ありがとう」


赤い顔を誤魔化すように一口飲むと柑橘系の爽やかさと甘みが染みわたる。


「いつまで男装続けんの?」


思わずむせそうになった。


「……いつまでというか、まあ男らしくしている方が何かと都合が良いだろう。特にやめるつもりはない」


「ふーん」


自分から話を振っといて当の本人は興味無さそうに果実水を飲む。


「若いっていいねぇ。眩しいわ。」


「老いるにはまだ早いだろう」


「いやいや、炎天下に水の掛け合いっこでキャッキャウフフできるほど無邪気じゃないって」


「……まあ、同感だが」


確かにあのくらいの年齢の時の私たちには無縁のものだった。

とにかく騎士団で無我夢中に修練を積んでいたころに、あんな風に手放しで遊べたことは何度あっただろう。

今更あの解放感を得るには、確かに歳をとってしまったのかもしれない。

少し、寂しさと羨ましさで喉の奥がキュッとした。


「水着、かわいいねぇ。シルティは2人をよく見て似合うものを選ぶのが上手いわ」


畳みかけるようなゼアの声。

まただ。また胸が痛む。

だけど、それをいつも通りに見て見ぬ振りでやり過ごす。


「ああ、本当に。かわいいよな。2人とも、小さくて、ふわふわしていて」


私とは違って


「……」


「……」


手元の果実水を飲む。

この卑しい僻みも一緒に飲み下せたらいいのに。

昼にさしかかり、ジリジリと更に日が照ってくる中、ビーチではマナトたちがビーチバレーを始めているのが見える。

チェカとロビ、マナトとユールで対決するようだ。


「シルティさぁ」


海からの風が砂の焼ける匂いを運んでくる。

ユールが尻もちをついてマナトが駆け寄るのが見えた。


「男装やめたら?」


「……まあ、確かに、男装してようがしていまいがその辺の男より男らしい自覚はある。だが」


「そうじゃなくて」


思ったよりも強めの制止にゼアを横目で見ると、真剣な顔でこちらを見ていて心臓が跳ねた。


「お前が男だろうが女だろうが、あいつらにとってのお前が『頼れる隊長』ってのはどうせ変わらない。特にお前が気にしているマナトはそうだ。そう簡単にあの憧憬が崩れることはない。お前がお前らしく馬鹿真面目である限り、だ。」


目頭が熱くなって思わず俯く。


「そもそもなぁ、胸を潰すのは悪手だ。騎士時代の訓練ならいいが生死をかけた戦地で呼吸を圧迫するなんて自殺行為だろ。窮地は大抵突然やってくるのにそんな中でサラシを脱いでる時間なんてない。緊急時にそんなもんで本来のパフォーマンスが落ちるなんて笑い話にもなりゃしねーよ」


怒涛の正論説教に今度は違うタイプの心の打撃を受ける。

た、確かにそうだが、私にも色々考えがあってだな!

と言い返そうとした時、ふと思い当たった。

隣を伺い見るとゼアが頬杖をついてムッとした顔でビーチの方を見ていた。



「……他人に気ぃ使いすぎなんだよ」



ああ、そうだ。



心配してくれてるんだ。



「ふ、ふふ」



思わず笑うとゼアがムッとした顔のまま視線だけ寄越す。

私も大概だが、この幼馴染も相当不器用で、分かりずらいのだ。


「ああ、そうだな。なんだか馬鹿らしくなってきた。確かに常にベストな状態を維持しておくべきだった。私は彼らの盾なのだから。」


心が少し軽くなった気がする。




「シルトー!ゼアー!バーベキューしよー!」


チェカがビーチから大きく手を振ってこちらに呼びかけてきた。


「ああ!準備しよう」


チェカたちにそう返して立ち上がる。


「ゼア、手伝え」


「……はいはい、よろこんで~」


手を差し出すと、ゼアはやれやれといった顔でその手を取って立ち上がった。





そしてあっという間にバカンスは終わりを迎えた。

南支部長に相談して次の目的地はカミールから西に進んだところにある、ヒシュテルという町にした。

ヒシュテルは聖国領で保守的だが、古い町と歴史を保存してきた中立的なスタンスを維持している町だ。

勇者や瘴気、魔王について、何かしら資料やヒントがあるのではないかということで目的地に定めた。





その出発の早朝、ゼアから「ちょっと話あるからビーチに来てくんね?」と言われた。

まだ空の白み始めの時間帯に皆が寝静まっている中をこっそり抜ける。

何か瘴気や浄化についての話だろうか。

他に聞かれたくないという意図は読めるが内容の予想はつかなかった。


既にビーチにゼアはいて、海を眺めている。


「ゼア、なんだこんな時間に」


世界が綺麗に青一色の静かな時間帯。

聞こえるのは自分が砂を踏みしめる音と波の穏やかな音だ。


「ちょっと頼みがあって」


なんだろうと疑問に思っていると「来て」と言って手を掴まれて更衣室の方まで連れていかれる。


「これ着てきて。今。すぐ。」


唐突に包みを渡される。


「え?なんだこれは」


「いいから早く」


更衣室に押し込まれてドアを閉められた。






「お、おい、ゼア、本当になんなんだこれは」


馬鹿真面目に着替えて恐る恐るドアを開けると前とは違って上着を着ていない水着姿のゼアが立っていた。


「何って水着でしょ」


「そうじゃなくて!」



確かに水着だった。しかもチェカとユールの水着選びの時にいいなぁって思ったやつだった。

白地に水色の花柄のパレオ。

上は釣りのワイヤーがなく二の腕にヒラヒラとした袖が背中に回り込んで固定している。

下はふくらはぎまであるスカートに足の付け根まで深くスリットになっている。



ゼアは私のポニーテールを解くと髪に指を通して手櫛で整えて、パレオと同じ柄のリボンがついた麦わら帽子を被せてきた。



「よし、これで完璧。綺麗だ。」



心臓がバクバクと鼓動する。


私の身体は、特に腹や腕、足には生々しい傷跡があって、お世辞にも綺麗とは言い難い。

筋肉だってついていて、華奢とは程遠い。

だがゼアは満足そうに笑って私の手を取ると波打ち際まで誘導していく。


顔も手も全身が熱くなって、赤くなってる自覚がある。

猛烈に逃げ出したい気持ちと、憧れの水着を着れた嬉しさと、掴まれた手の温度で感情が忙しい。





少し空が明るくなって、世界が白んできた。

ゼアは私を連れたまま足首が浸かる辺りまで海に足を踏み入れて、そのまましばらく歩く。

白い世界で目の前にはゼアだけがいる。


なんだか、凄く泣きたい気持ちになった。



「水、冷たくて気持ちいいな。もっと早くに入っとくんだった」



振り返ったゼアが穏やかな笑みで話かけてくる。



「……ああ、そう、だな。」



まともに顔を見れなくて海の方へ視線を落とす。

解かれた髪がさらりと前に垂れてくる。



「水着、やっぱ似合うな。シルティに似合うと思ったけど正解だ。」



お世辞でもそういうことを言うのはやめて欲しい。

とうの昔に封印した気持ちが堰を切って溢れてしまいそうになるから。



「……こんな傷だらけで、ガタイもいい私が着たところで、なぁ。こういうのはユールが着た方がかわいいだろ。」



気恥ずかしさと嫉妬でつい妬みっぽいことを言ってしまう。





「シルティはかわいいよ」





「は!?!?!」





びっくりして顔を上げると垂れた髪を耳に掛けられる。



「ま、今日くらいお姫様気分になっときなって」



そう言ってゼアは私を軽々と横抱きにしてその場でクルリと一回転した。

帽子が落ちそうになってとっさに抑える。



「ま、待てゼア!おっ、おろしてっ!」



「嫌でぇ~~~す」



いい笑顔で楽しそうに海の方へ歩いていく。

ゼアの胸板や腹、腕に直接肌が触れてずっと心臓がバクバクしている。


徐々に海面が近くなって腰と脚が半分ほど浸かったところでゼアが止まった。

もうすぐ日が昇る。

海面がキラキラして、空はどこまでも穏やかだ。


ゼアが息を吸う気配がした。



「お前はさ、もっと素直になっていい。全部抱えようとするな。……まあ、フラフラしてる俺を頼りづらいだろうけどさ、シルティに呼ばれるなら駆けつけてやるよ。」



帽子のせいで顔は分からないが、きっと照れ隠しの苦い顔をしているんだろう。

手に取るようにその優しさが分かって嬉しくなる。



「ふふっ、なんだ、いつもみたいに『厄介ごとは勘弁』だの『自由でいたい』だのはいいのか?」



頭上でゼアが息をついてバツが悪そうにしている。



「まあたまには?元騎士らしくお姫様を守る剣になってやろうかなって。得物は槍だけど。」



「ふ、あはは!本当に気まぐれだな。是非この旅が終わるまで、その気まぐれが続くことを祈ってるよ。」



そうして緊張も解けて気持ちが軽くなった私は、これくらいなら許されるだろうとゼアに少し体を預けるように寄せた。





「……お前はいつだって、俺のお姫様だよ」





ゼアのその呟きは聞かなかったことにした。


本気にしてしまったら、全てが壊れてしまう、そんな気がしたから。






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