-6章-
森の入口で迎えを待って4日目。
とりあえず大きく事件はなかったが、勇者たちの元へ何度か魔物が現れた。
やはりどうにも魔物の凶暴性は上がっているようだ。
瘴気の影響......と早々に決めつけるのはどうかと思うが、周囲を調べ回ってみてもそれ以外に原因になりそうなものがない。むしろ勇者一行から離れるほど穏やかで奇妙だった。
もしかしたら勇者と瘴気の方に何か因果関係があるのかもしれないが、それは追追探って行くしかない。
そんで予定通りなら今日あたり迎えの馬車が砂地に見えるはずだ。
少しでも自分たちの方から馬車へ向かった方がいいだろうと判断したシルトたちは朝早く馬車が来ている方向に歩き出した。
俺は合流しやすいように先行して安全確認やら進路調整とナビゲーターやらをしていた。
疲れた。
その甲斐あって勇者一行は予定よりも早く馬車と合流できたのでいいとしよう。
どうにもマナトは疲労の他にも寝不足らしく、馬車の中では大人しく寝ていた。
そりゃそうでしょ。
あーんな綺麗なもん見ちゃったら眠れないよねぇ。
ちなみに普段シルトは特段性別を隠してる訳じゃない。
おそらく王宮魔法使いの2人は知ってるだろうけど、わざわざ性別に言及したりしない。
元々シルトは男所帯の中に混ざっていたから言葉遣いは男っぽい。だけど騎士の鎧を外して冒険者らしく軽装の今は胸を潰し喉元を隠し、女である事を隠していた。
どうせあのクソ真面目のことだから「女より男の隊長の方が親近感も安心感も持てるだろう」とか思ってるんだろうなぁ。
そういうことで昨日の覗きでその涙ぐましい気遣いが無駄になったわけだ。
さっさと男のフリなんて辞めればいいのに。
まあ面白いからもうちょっと様子見るけど。
ただ、シルトの裸体を見ちゃうのはいただけないなぁ。
マナトは遠目で見えたか分からないが、シルトの身体はいくつもの傷が刻まれている。
騎士なんて生傷が絶えないからね。
それがより一層扇情的でいいんだけどさ。
あ、変態じゃないです。
マナトが覗いてたのを察知してわざと俺がいることをシルトに勘付かせたけど、一応牽制もできたかな?
シルト、怒るとこっわいからね。
一線越えた覗きは命に関わるんだ。
ロマンを取るなら止めないけどさ。
俺からの初回サービスってことで。
いのち、だいじ。
「やっと着いた〜!」
チェカが馬車から降りて大きく伸びをする。
「なんだか、活気があって良い町ですね」
白魔法使いちゃんが物珍しげに商人や観光客の行き来と眩しい街並みを見回す。
「あつ......」
黒魔法使いくんは暑いのが苦手らしく手で顔を扇いでる。
「なんとか......着いたんだ......」
マナトは道中の大変さからの感慨の方がデカいようだ。
「よし、まずは宿屋へ向かおう。」
シルトが迷いなく仕切る。
俺の方は到着と同時に南支部長から着信。
「おうゼア、無事仕事をこなしたようだな。その足でギルドに来い。」
人使い荒いんだよおっさん......
「たこ焼き食いに行くからパス」
「だからお前っ」
支部長が何かギャーギャー言ってるのを無視して通信を切ろうとしたらシルトが手を掴んできた。
「待て、支部長の所へ行くなら私も同行する。」
「いや行かないって」
「なんだもしかして例の幼馴染か!?あんた、こいつを引っ張って来てくれ!」
「ああ???何勝手なこと言って」
「承知した。行くぞゼア。」
その手は相変わらずガッチリと握られている。
「逃げようとは思わないことだ」
「......ウン」
そんないい笑顔で言われたらついて行っちゃうって......
勇者一行は宿屋へ、俺とシルトは支部長の待つギルドの応接室に。
勘弁してくれよ。
「お初にお目にかかります。ニヴ王国近衛騎士隊長のシルトです。此度はご高配いただき感謝の言葉もありません。」
シルトが綺麗に騎士の礼をする。
「南支部長のジェイスだ、覚えんくてもいい。あと堅苦しいのはよしてくれ。ギルドの人間なんぞそんなんが苦手な奴ばっかなんでな。オレも含めて。」
「分かった。ではそのように。」
支部長は相変わらずハンカチで顔を拭いている。
今回はシルトの分まで飲み物が用意されてる。扱いの差がある気がするなぁ?
「近衛隊長も来てくれたのは丁度いい。単刀直入に言う。瘴気は勇者を狙い始めた。」
隣に座るシルトの顔が険しくなったのを空気で感じる。
「正確には瘴気に汚染された生物が、浄化の力に向かって攻撃性を持つと言ったところだ。」
「ふーん、それに至る確証は?」
「サンプル不足で裏付けが少々弱いが、リクシェにある浄化の力の研究をしてる機関からの情報だ。信用度は高く見ていい。」
リクシェは大陸の北西にあったな。
確か勇者をカナリアのように投入して魔王の孤島を開拓しようとしたモヴィク帝国の研究機関か。
えげつない分研究成果の信用度は確かに高いが......
さて、胸糞悪いもんじゃないと良いねぇ。
「なるほど、そう言われると私の方にも心当たりがある。」
シルトが思い出すように手を膝の上で組む。
「そもそもラザメの森の動物たちは比較的温厚な方だったと記憶しているが、現在も変わりはないという認識で良いだろうか。」
「ああ、基本的にそうだな。荷馬車や旅人の被害が増加しているなどの報告は上がっていない。」
「そうか、だが我々は幾度か少なくない回数で魔物と遭遇し、交戦することになった。思い返せば単独での偵察や食料調達などの時に魔物に襲われた仲間はいない。」
「なるほど、そゆことね~」
シルトが俺をちらりと見やる
「俺は単独で周囲を偵察してたんだけど、不気味なくらい穏やかだったよ。つまり、”勇者の周りだけが危険”って状態だったな」
支部長は面倒ごとに疲れたようにソファに背中を埋もれさせる。
「そうなると、本当にリクシェの研究が眉唾じゃなくなるな……」
「モヴィク帝国に力を持たれるのもダリィなぁ~研究所潰すか。」
「んな簡単に言うな」
俺と支部長のやり取りを聞いていたシルトが口を開く
「すまない、現状を整理させてくれ。まず魔王の孤島に近い土地から瘴気が濃くなり始めている。瘴気は適性のある個体に吸い寄せられ、体を増強させたり凶暴性を増幅させたりする。ここまでは合っているだろうか」
「ああ、合っている。」
「そして瘴気を纏った強個体は勇者を狙う」
「今の話ではそうだ。」
「そうか、少し気になるのだが、適性が全くない個体が存在するのかは分からないが、適性の低い個体も凶暴化は着実にしているように感じる。勇者が近くにいて彼らの察知範囲に踏み入れた瞬間にスイッチが入るという可能性も考えられる。」
「そうねぇ、俺の方の感覚でもスイッチは明確にあると思う。全体的な凶暴化も可能性としてかなり高く見てる。それとここから変異体が出てくる可能性もかなり高いと見てる。」
「変異体だぁ?」
「シルトはわかるっしょ。あのボア、確実に異常だったし?」
「そうだな、今はまだ体が大きくなったり表皮が硬くなったり、力が強くなったりの段階かもしれない。だが体の一部が変形したり最悪知能が上がるということも視野に入れて警戒することに越したことはない」
「お前らの未来予想図は暗雲しか立ち込めてないのか……」
「そりゃそうでしょ。魔王がいるなんて言われてるご時世ですよ。最悪は想定して動かんとね。」
「問題はあとどのくらい時間が残されているのか、勇者の浄化の力はどのくらい必要なのか、それとやはり魔王の孤島の情報がないことには軸が見えない。状況的にはあまり芳しくないな。」
「浄化の力がないといくら切伏しても意味がないってのはなぁ~激萎え案件ですよ旦那」
「お前は世界の危機に興味ねぇだろ」
「よくご存じで」
「相変わらず聞く者が聞けば打ち首ものの思想だな」
支部長は乾いた笑いを漏らした。
続いてシルトも苦笑いをする。
「こいつは昔からこうだ。騎士としては”力ある者の義務を果たせ”と叱責するところなんだが……ゼアはそれでいいように思う。」
支部長がちょっとびっくりした顔してる。正直間抜け面で面白いんだけど、俺は俺でちょっと面はゆい気持ちが出てきて何とも言えない。
「さすがはコレと長く付き合ってる幼馴染だな」
なんだこのいたたまれない空間。逃げるが勝ちかね。
「じゃ、話はここまでってことで。俺は観光に行くんで」
「あ、そうだ言い忘れてた」
支部長が思い出したようにツルツルの頭を小気味よくペチンと叩いた。
「まだなんかあんのかよ……」
「お前ら、明後日の予定空けとけ。ビーチを貸し切ってやるから羽を伸ばせ」
「おお!太っ腹!本当に腹太てぇ!」
「誰の腹が太いってぇ!?!?」
「あの、それは……私たちもか?」
「当然だろ。勇者の気分転換のための貸し切りだ。今のところ本当にお前のところの勇者頼りなんだよ。死んでもらっても壊れてもらっても、ましてやモヴィク帝国に拉致られても詰みだろう。」
「そうか、心遣い感謝する」
「いいってことよ。」
「んじゃ今度こそ帰るかんな。シルト、行こう」
俺はシルトの手を引いて応接室を出る。
シルトは手を引かれながらも律儀に頭を下げて支部長に挨拶をしてた。
「おい、ゼア、手」
「いいじゃん。このまま市場に行こうぜ~。夜市も賑わってるみたいだし暗い話の後は遊んで調整すんのが一番ってな」
「……まったく、いつだって遊びたいだけの癖に良く言う」
予想以上の人混みの中、俺らは手をつないだまま夜市を楽しんだ。




