-1章-
かわいい幼馴染
愛してるなんて死ぬまで言えないけど
どうか、幸せだって笑ってくれ
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ギルド所属とはいえ特定の拠点を定めていない俺は、最近港町で栄えた国で依頼が増えてきたと聞いて放浪がてら様子見に立ち寄った。
気楽な冒険者稼業はやっぱりいいな。規律に縛られた生活は本当に合わなかったなぁと懐かしむ。
カミールという港町に着くと少し暖かめの潮風が頬を撫でていく。
ここは港町の中でもかなり賑わっていて、市場は特に活気があって観光客にも人気だ。
ここでフードを目深に被るのは逆に目立つと判断して宿屋で軽装に着替え、懐に短剣だけ忍ばせてサングラスをかける。
正直この町めっちゃ眩しい。
石造りの白い家と白いタイル道が反射してめっちゃ眩しい。目つぶしかと思った。
流石観光地らしく白壁に青布、砂のベージュのコントラストが綺麗ではあるんだが。
さて、とりあえず観光でもするか~と意気揚々と部屋を出ようとすると通信機から呼び出し音がした。
げんなりする気持ちを抑えて応答する。
「おお、ゼア、カミールには着いたか?着いたんならすぐにギルドに来てくれ」
「あと二日ほどで到着する」
「嘘をつけ、さっきお前を見たとギルド員が報告してきたぞ」
「チッ」
「舌打ちするなこの気分屋め…」
通信相手はギルドマスターの南支部を取りまとめる男だ。
「今回は割と急ぎなんだ。お前の力が必要になる。」
「イカ焼き食ったら行くわ」
「おまッ、」
南支部長は自分を落ち着かせるように一度息を吐く。
「そんなこと言ってていいのか?今回はお前の幼馴染も関係してんだぞ?」
「は?」
「だから早く来いって言ってんだ。分かったな。」
「秒で行きます」
「おま」
何か言いたげなおっさんの言葉を遮って通信を切ると早足でギルドへと向かった。
「うわ早」
カミールのギルドに到着するとすぐに支部長のいる応接室に通されたが、部屋に入るなり気色の悪い物を見るような眼を向けてきた。心外だ。
「早く来いって言ったのは支部長でしょ」
「そりゃそうだが……まあいい、さっさと本題に入ろう」
そう言って俺に向かいのソファに座るよう示し、自身もソファにどっしり腰掛た。
はぁ、と息を吐いた支部長はハンカチでそのツルツルの頭を一周するように拭いた。
「今日はあっちぃなぁ」
「本題」
「お前ほんと…」
まあいいと呆れながら支部長が話し始める。
「勇者は分かるな?」
「さすがに。」
「お前の祖国でもとうとう重い腰上げて勇者召喚したんだと。」
知らない情報に一瞬固まる。
「ニヴ王国が?あの迷信めいた魔王討伐用の強制召喚、本気にしてる......ってのも半分ありそうだが。さすがに他の国からの同調圧力に負けたか」
「まあそう言ってやるな。お偉方も情勢が傾く前にどうにかしたいんだろう」
魔王、とはいえ見た者はいない。
信仰の問題と、情勢に対する不満のぶつけ先の共通敵シンボルとして設定されたのが魔王という幻影だ。
ただ、実は全くのでたらめということでもない。
ある日海にポツンと浮かぶ孤島から瘴気が溢れ、あっという間に孤島全体を飲み込み、今なお黒い渦となって澱んでいる。
現状としては特に意思を持って侵略してくる動きはないが、地下で煮えたぎる活火山のような緊張感が漂っている状態だ。
それが最近になって少しずつ海を中心に瘴気の被害が出始めたため、各国の首脳は世界全体の問題と見て対処する方針で決まったそうだ。
その中でどっかの国が「魔王が復活したなら勇者も召喚できるのでは?」とか考えたらできたらしい。
アホっぽいが儀式と召喚の神聖性には価値があったようだ。
「わが祖国が風見鶏じゃないことを祈るよ」
「で、勇者として召喚された奴が浄化のスキルを持つのも知ってるな?」
「あーその話って眉唾じゃなかったっけ?」
「一応マジもんだよ。どうやら能力差があるようだがな。人1人くらいの範囲が浄化できるやつもいれば手のひらサイズで触ったとこしかできないやつもいる。だがその程度の差にほとんど意味は無い。」
「そんなもんに縋るほど有効打がないとはなぁ」
「実際瘴気のせいで斥候すら厳しいからな。そんなもんじゃ長時間の調査は無理だ。最初のうちは勇者を召喚しまくって送り込んで使い捨ての斥候にしようとした国もあったがさすがにリソース不足で頓挫したって話よ」
「まるでモルモットだな。いや、この場合は カナリアか。今まで勇者は何人死んだ?」
「公表されてるのは2人程度だが実際は30人を超えているだろう。基本は隠蔽される。今はどうにか浄化の力を増幅させたり、力を抽出して魔道具化できないかの研究に費やしてるところが大半だな」
「ふーん?それで?そーんなアホみたいな話に俺の幼馴染がどう関係してるって?まさかその勇者のおもりでもさせられてんじゃないよねぇ?」
口の端を引き攣らせて問うと支部長はハンカチにダイブするように顔を拭いた。
「話が早くて助かるぜ。そのまさかだ。」
「......マジかよ。あいつ近衛の隊長だろ?そもそもあの陰険クズ野郎が自分以外を守らせるなんて信じらんねぇ」
「自国の王を陰険クズ呼ばわりかよ。元騎士とは思えねぇわ。絞首されっぞ。」
「バレなきゃ問題ない」
支部長はあ〜あ〜といいながらハンカチで顔を扇いで心底呆れたような表情をしている。
「さすが歴戦の冒険者様は肝の座り方が違ぇや。」
「褒め言葉なんて照れるねぇ。」
「褒めてねぇよ」
冗談もそこそこに俺は一つ息を吐く。
「それで?わが祖国は召喚した勇者をどうしたって?流石に情勢を多少追ってはいるが、俺はニヴが勇者召喚したとは聞いてない。ということは極秘になってんだろ?」
「ああ、そういうこった。公表したがってたようだが宰相に強く止められて王国でも一部のみが知ってる話だ。」
「うっわ面倒事でしかねぇ」
「面倒事だからお前にお鉢が回ってくんだよ。」
生来縛られるのが苦手なもんで特に政治の絡む厄介事は勘弁してもらいたいんだが。
「ここまでで分かってるだろうがお前への依頼も当然極秘だ。おら逃げようとすんな」
ソファからそろりと降りて猫のように逃げようとしたが支部長のぶっとい腕で首根っこを掴まれた。マジで猫になった気分だ。
「そんでここまで聞いたからには是が非でも受けてもらう。ていうか幼馴染のために受けろ。」
「あーはいはいもういいから分かったから、依頼の具体的な話入ってくれ」
両手で降参のポーズをしてソファに座り直す。
条件反射で逃げようとはしたが、どう考えてもあのクソ真面目な幼馴染がハチャメチャに苦労しそうな案件だという認識はしていた。それが気にならないほど俺とあいつの仲は浅くない。
「ニヴの勇者はな、召喚された中でも抜きん出て浄化の力が強いんだそうだ。平民の家1軒くらいの規模は浄化できるらしい。加えて伸び代もあるって話だ。」
「そりゃ随分と大当たりを引いたもんだ。」
「まあ、ただ問題があってな。本人は庶民と言っているが元いた国が平和だったんだろう。性別は男らしいが、生死を分ける危機対応力の面で言やぁ貴族令嬢とさほど変わらんそうだ。」
「なるほど。つまり近衛騎士団長様はお姫様の護衛って訳ね。守備面で言えばあいつ以上の適任者もいないわな。」
「ああ、王は相当ごねたらしいが宰相が黙らせたらしい。そんで現段階で周辺諸国に知られるのも不味いってんで勇者の修行も兼ねてギルドのいち冒険者パーティとして浄化の旅に出たんだと。」
確かに最近風や波に乗って海から段々瘴気の気配がするようになってきた。
遠いから安全とも言えないし海産物から内陸に蓄積することを考えると今のうちに修行の旅で慣らしていくのは良いかもしれない。
「それで俺にそのパーティと合流しろと?」
「まあ簡単に言やぁそうだ。それと勇者の武力面の強化依頼も入っている。」
「はぁ???マジかよ俺に教師の真似事をやれって?」
「ははは、嫌がるな嫌がるな。それに相手は16歳のケツの青い平和ボケしたガキだ。護身術が出来れば重畳だろう。」
「俺がやる必要ないだろ。あいつ一人で充分だ。」
「まあまあ、そう不貞腐れるなって。近衛騎士隊長とも随分久しぶりなんだろ?旧交を温めるついでに魔王倒してこい。」
「幻影相手に無茶言うなって。あくまで俺はサポートに徹しますよっと。」
「ああ、それでいい。頼んだぞ。」
俺はソファから立ち上がってふと思い出した。
「ああ、そう言えば最近遺跡の獣から瘴気を感じた。どういう経路で汚染されたんだろうなー調査ガンバッテー」
「な!?!?おいお前そんな重大なことを!!!!!待て座れ詳細を教えろ!!!」
「ぐえっ」
また首根っこを引っ張られてソファに戻された。




