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イトメに文句は言わせない  作者: 慎一
イトメとゆかいな仲間たち
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なんか逃げられたけど

荷物をとりあえず持てるようにまとめて、5人が去っていく。

僕だけ取り残され、ロクウデが近づいてくる。

さてどうしよう。阿多地君達に囲まれてもそれほど命の危機を感じたことはなかったけど、さすがにこの状況はまずい気がする。

姉さんに言われていることは、


「人間は殺すな」


だから、熊は殺しても大丈夫なんだよね?

5人もこちらを見ずに去って行ってるし、他に人もいないなら、多少能力(ちから)を解放しても大丈夫かな?


「どれくらいで熊が倒せるのかのいい実験になるか…」


開いているか分からない瞳が、薄っすらと見開かれた。


縄を千切る。

こんなもので拘束できるほど柔ではない。


「3割でいいかな? 熊だし。 姉さんとの特訓が生かせる時がくるとは」


立ち上がり、能力(ちから)を3割解放。

姉さんとの特訓で、能力(ちから)を少しずつ解放する術は身に着けている。

もし能力(ちから)を使うような時があっても、間違えて人を殺さないようにするためだ。


「さあ、来…」


熊が背を向けて逃げて行っている。

あれえ?

せっかく能力(ちから)を解放したのに、使わずに終わるなんて不完全燃焼だなぁ。

地面を蹴り、熊を追う。確かに腕が6本ある。


「ねえちょっと」


尻尾を捕まえ、動きを止める。

泡食って逃げようとしてるけど、一ミリたりとも動かない。


「そうか。野生の獣の方が強さを認識しやすいんだっけ」


姉さんも北海道に武者修行に行った時、能力を全解放したらヒグマが逃げて行ったとか言ってたっけ。


「じゃあこれなら?」


2割に抑えた。でも逃げようとしている。抑えたせいかズルズルと少しずつ引き摺られる。


「じゃあこれは?」


1割にした。でも逃げようとする。ズルズルズルズル体が引っ張られる。

これはもう、怖いものとして認識されちゃったから、戦うのは無理だな。


「なんだ。少し発散できるかと思ったのに」


尻尾から手を放すと、熊だけど脱兎のごとく逃げて行った。

残念。今度会ったら1割から始めてみよう。

さて次は。

去っていく5人の姿は見えないけれど、気配は追える。

1割解放したまま、5人を追いかけた。すぐに姿が見え始める。


「あの、すみません」


声をかけると5人が驚いた顔で振り向いた。


「な、なんでここにいるんだ! ロクウデは?」

「あ、なんか逃げちゃいました。なので自力で縄切ってきました」

「逃げた? なんでだ?」


困惑した顔で5人が互いの顔を見合わせる。


「さあ。なんで逃げたのかは分かりませんが…やっぱり僕を殺す気ですか?」


5人が荷物を下ろし、武器を構える。


「やっぱり、あれは違法なやり方なんですね?」

「まあな。さすがに何も知らない新人を囮にしたなんてばれたら、今後活動しにくくなるんでな」

「誰にも言わないからなんて言っても駄目ですよね?」

「駄目だな」


じりじりと5人が迫ってくる。

顔が緩む。能力(ちから)を解放したけれど使わずに終わるところだった。どうにも不完全燃焼でもやっとしていたところだ。


「ポーションは持ってるんですよね? だったら、ひとり1回くらいなら叩いても平気かな?」

「何言ってやがる?」


僕を訝し気に見ている。そうかもしれない。きっと僕の顔は今、緩んでいる。


「殺すのは禁止されてるけど、命の危機が迫った時は、殺さない程度に殴っていいとは言われてるんですよ。ちょうどいいので手加減の練習台になってください」

「何を…?」


ガスさんに躍りかかる。

なんてのろまなんだろう。姉さんが規格外すぎるのは知ってるけど、普通の人間はこんなにのろいんだな。

頭を掴んで地面に押し倒す。下は土だし、かなり加減した。


「がはっ!」


よし、生きてる。これくらいなら死なない。


「こ、こいつ?!」


隣で突っ立っているゲサさんの足を払いに行く。倒れた所に鳩尾に肘をめり込ませる。


「…!」


息が吸えなくなったかもしれないけど一時的なものだ。でも死んでないからOK。


「は?」


目の前にいたギセさんの腕を捻ると同時に投げる。これなら落としどころが悪くなければよほどのことで死んだりはしないだろう。


「ぎゃ!」


悲鳴を上げられるなら大丈夫だな。


「こ、こいつ!」


事態をやっと把握したグソさんが斧を構えて突っ込んでくる。ゴシさんも矢を放つ。

矢と斧を避け、カウンターで腹に掌底。拳だと一点集中なので威力がありすぎて内臓を傷つけてしまうかもしれないからだ。

掌底なら威力はそのままに衝撃を分散させることできる。


「…!」


胃液を吐き出しながら転がった。血が混じっていないからたぶん大丈夫。


「く、来るな…」


矢が飛んでくる。


「遅いですね」


手で掴むと、驚いた顔のままに余計に目が開かれる。


「大丈夫。あと一撃ですから」

「は?」


怯えるゴシさんに一瞬で近づき、顔に平手打ち。

一番弱い攻撃のはずなのに、何故か吹っ飛んでしまった。まだ強いか…。難しいな…。


呻き声をあげる5人の腰にあったポーションを飲ませ、回復させる。

そして仕上げは記憶操作。

後遺症が出たらごめんなさい。


「あ? 俺達、何してたんだっけ?」


記憶を失くした5人がぽんやりしている。


「羽うさぎを獲り終えて帰るところですよ」


何もなかった顔でさらりと述べると、5人とも納得したとばかりに荷物をまとめだす。


「なんだかちょっと頭が痛いような気がするんだが…」

「俺は腹が…」

「俺は肩が…」

「俺も腹が…」

「俺は顔が…」


ポーションも完全に傷を治してくれるものでもないようだ。だいぶ手加減したはずなんだけどなぁ?

上級とかになると治してくれるのかもしれない。そのためにはお金だな。

荷物をまとめてまた僕が背負い、羽うさぎを皆で手分けして持って街へと帰った。







「これがお前さんの分け前だ」


ガスさんから手渡された金貨を見る。

羽うさぎは一羽3ペル、およそ3万で買い取ってもらえるらしい。10羽で30ペル。一人頭5ペルだ。確かにおいしい話だな。

金貨の単位はペルらしい。

しっかり小金貨というらしい四角い金貨が5枚。人のことを囮にして置いて行った割には、誠実な対応だ。いい人なのか悪い人なのかよく分からない。


「こいつが重くていつも行くまでに誰かへばるんだ。イトメのおかげで今回は助かったぜ」

「平気の平左で担いでいくんだものな。どうだ? これからも荷物持ちで俺達と一緒に…」

「あ、お断りします」


仲間じゃないからと平気で囮にするような輩と一緒になどいたくはない。


「そ、そうか…。残念だな…」


残念がりながらも、5人は笑顔で去っていった。あんなことがなければ根はいい人なのかもしれない。あんなことがなければ。


「ああ、そうだ」


ポケットの中から魔核を取り出し、買取カウンターへと進み出る。


「あの、これ、換金できるって聞いたんですけど」

「はい。あら、魔核ですね」


金髪のお姉さんが魔核を手に取り、しげしげ眺める。


「まあ、傷もそれほどなくて綺麗なものだわ。君、これどこで手に入れたの?」


これ答えを間違えたらまずいパターンかな。


「この街に送ってもらう途中で、ベルクナーさんという方からもらいました。道中の資金にしてくれと」

「ベルクナーさんが?」

「記憶を失くして彷徨っている所を助けられたんです。この先お金がなければ困るのじゃないかと」

「ああ、なるほどね。ベルクナーさんならありうるか」


ありがとうございますベルクナーさん。なんて便利な人なんだ。


「ちょっと待っててくださいね。奥で詳しく鑑定してもらってきますので」


お姉さんが奥に行ったので、僕も壁際にあった椅子に座った。

この後は甘いものを売っているお店に行って、今日の分のご褒美を買わなければ。

少し懐が温かくなったから、少し多めに仕入れて来よう。そういえば次元収納とかいうスキルをもらっているんだし、それに入れておけばいいんじゃないだろうか? というか、次元収納ってレアスキルとかじゃないよね? はっきりするまで隠しておいた方がいい気がする…。


「お待たせしました」


お姉さんが帰って来たのでカウンターに近寄る。


「特殊個体のものだったのですね。それであれだけ綺麗で形が残っていたので、少し色をつけさせていただきまして、30ペルとなります。ご確認ください」

「え?」


30ペル? およそ30万? あの小さいの、そんなにするのか。

中身を確認。きちんとありました。

ギルドには銀行のようなシステムもあるということなので、そっくり入れてもらった。


「あの、すいません。ついでに聞きたいのですけど」

「はい。なんでしょう?」

「甘いお菓子などを売っているお店は近くにありませんか?」


お店を教えてもらってギルドを出る。

ああ、早く今日のご褒美を口に納めたい。

街の中心部に近い所にあるらしいので少し遠い。足早に向かうと、いかにも女性受けしそうなお店があった。だがそんなもので僕の歩みを止めることは出来ない。

店に入るとちょっと訝しげな顔をされた。男の客が珍しいのかもしれない。


「いらっしゃいませ」


様々なお菓子が並べて置いてある。なんと美味しそうな…。

値札があるので見てみる。え~と、一、十、百、千…高くない?


「あの~、すいません」

「はい」


お店の人が取ってくれるシステムのようだ。


「この中で一番安いものはどれですか?」

「こちらですね」


マフィンのようなものだ。


「一個50デジールです」


およそ5000円…。







とりあえず6個買った。お金下ろしてまた買いに来よう…。

そういえば甘味ってつい最近までは贅沢品だったんだっけ。いい時代に生まれたものだな…。

途中道具屋があったので入ってみる。このお菓子を入れられる鞄が欲しい。

棚を眺めていると、ガラスケースの中に少し高級そうな鞄が飾ってあった。

『魔法鞄』と書いてある。これはちょうどいい。

値札を見る。0が七個。やっぱり高いものなんだ。

似たような安い鞄を探し、お買い上げ。肩から掛けて、中にお菓子を入れる。

人目のないところでスキルが使えるのか試そう。なんだったらこの鞄が魔法鞄だと言い切ってしまえばいい。

ルンルンと宿屋を目指す。

明日もお菓子のために頑張らないとなぁ。


お読みいただきありがとうございます。

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