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イトメに文句は言わせない  作者: 慎一
イトメとゆかいな仲間たち
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なんか誘われたけど

気づくと朝になっていた。

さっさと起きだし、服を身に着ける。

ああそうだ。今は姉さんがいないんだった。

狭い部屋を見渡し、ほっと溜息を吐く。

僕は目が細いせいで起きているのか寝ているのか見分けがつかないらしい。

なので起きて、布団の中でぼんやりなどしていると、


「威無人起きろー!」


と朝から元気な姉さんが降ってくる(・・・・・)ので、目が覚めたらとっとと起き上がるのが習慣になった。


「朝ごはんはどうしようかな」


他に店も知らないし、昨日の店でいいだろう。

しかしまたパンとチーズか…。稼げるようになるまでは我慢だな。

あとはどこかで甘いものを仕入れなければ。これは死活問題だ。


「あとそうだ」


冒険者証はどういった技術が詰め込まれているのかしらないけど、今現在のステータスが数値で見られるらしい。

あくまでも今の状態を表すものであって、強さを示すものではないと釘を刺された。

筋力があっても戦闘経験がなければ戦えないということらしい。経験て大事。

普通に暮らしているだけでそれなりに経験値は増えてレベルも上がるので、レベル=強さというわけではないのだとか。

あくまでも指標として見るようにと注意された。時に勘違いしてしまうお馬鹿さんがいるようである。

ステータスウィンドウを開けると他の人にも見られてしまうので、できたらひとりで見ろとも言われていたのだ。


「どれどれ、ステータスオープン」


カードを手に持って唱えると、スクリーンのようなものが浮かび上がる。


「ええと、レベルは9か。これって普通なのかな?」


そうか、僕は普通の数値というものを知らないから、これが普通なのか分からない。

機会があったら普通の数値がどれくらいなのか調べよう。


「HPとMPが5桁? さすがにこれは普通じゃない気がする…。STRとかDEFとかなんだったっけ? も軒並み3桁…。このあたりは普通なのかな?」


普通であってほしい。

あくまでも指標。指標だ。気にしないでおこう。

スクリーンを消して、朝ごはんを食べに部屋を出た。








夕食と同じメニューをもそもそ食べて、ギルドへやって来た。

まだ混み合う時間ではないのか、もう過ぎたのか分からないが、思ったよりも人がいなかった。

掲示板へ行ってみる。

張り出されているものがあるということは、そこそこ識字率が高いのだろうか。

早く書けるようにならなければ。

採取、狩猟の依頼書が張り出されている。

う~む。そういえば僕、どうやったらいいのかさっぱり知らないな。

採取にしても、葉だけなのか花だけなのか、根からがいいのか手で折っていいのか…。

狩猟にしても、下手すると僕だけだと肉塊をミンチにしてしまいそうだ。

それにどこどこの森だの洞窟だの書いてあるけど、場所がまったく分からん。近場で腕慣らししたいのに、まず近場の名前が分からない。

全部カウンターで聞いていいものなのだろうか。いいのだろうけど、それならどこかのパーティーに入って仕事ぶりを見学した方が仕事を覚えるのに役立ちそうだ。

試しに人材募集の掲示板を眺める。

ポーター、つまり荷運び人でもやりながら、冒険者見習いみたいなことをさせてもらえないだろうか。

たしか「次元収納」とかいうスキルをもらっているんだよね。

でもそのスキルもレアスキルとかいうんじゃなかろうな…。


「お前、新人か?」


声をかけられ振り向くと、ガラの悪いお兄さんがいた。


「はい。昨日登録したばかりです」

「なるほど。それで入れてもらえるパーティーでも探してるのか」

「はい。そんなところです」

「ふん…。お前さん、武器(えもの)はなんだ?」

「ええと、武道を少々…」

「武闘家か? にしては変な格好だな」

「いろいろあってお金がなくて、これしか服がないんです」

「上等そうな服だな…」


ジロジロ制服を眺めてくる。

確かにこの世界の基準でいえば、制服は丈夫そうな服だろう。


「ええと、ここまで来る途中で盗賊に襲われて、荷物も記憶もなくしてしまいまして」

「ああ、なるほど。そういうことか。…お前さん、ひ弱そうだが、力はあるか?」

「あるほうだと思います」

「武闘家だもんな。どうだ、荷物持ちでいいなら、俺達がこれから行く依頼に付き合わねえか?」

「え? いいんですか?」

「おう。ただし、荷物を持てたらだがな。お前さんが使えるようなら、正式に俺たちのパーティーに入ってもいいぜ」

「…それは考えさせてください」


ガラの悪いお兄さんに連れられて外へ出ると、4人の同じようにガラの悪いお兄さん達が待っていた。


「ガス、なんだそのガキ」

「グソ、登録したばかりの新人だとよ」

「新人?」

「せっかくだから仕事を手伝ってもらおうと思ってな」

「なるほどな」

「まだ名乗ってなかったな。俺はガス。順に、ギセ、グソ、ゲサ、ゴシだ」


兄弟なのだろうか。にしては顔が似ていないけど。


「威無人です。目が細いのでイトメと呼ばれることもあります」

「イトメ? がはは! 確かにな! お前さん目が開いてるか分からねえな!」


軽い冗談だったんだけど、思ったよりうけたようだ。


「よし、じゃあイトメ。この荷物持てるか?」


お兄さん達の中心に、その荷物はあった。大きなリュックだ。


「大丈夫です」


よいしょと背負ってみる。何が入っているのか分からないけど、だいぶ重い。僕にはなんてことないけど。


「ふ~ん。本当に大丈夫そうだな。じゃあ頼むぜ」

「はい」


そして初クエストへと出かけて行った。











道々依頼の内容を聞いてみれば、日帰りの森という所で簡単な狩猟のクエストらしい。

日帰りの森とはその名の通り、今いる街から日帰りで行ける比較的安全な森らしい。初心者冒険者はだいたいここに来るのだとか。いいことを聞いた。

森の少し奥に来ると、リュックから網を取り出した。だから重かったのか。しかし、森で網?

それを木の間に引っかけていく。


「この辺りは羽うさぎの群生地でな。羽うさぎは周りから追い込んで、網に引っかけるのが一番効率がいいんだよ」


勉強になるなぁ。


「俺たちが追い込んでくるから、イトメはここで引っかかった羽うさぎを抑えろ」

「どうやるんですか?」

「後ろ足を揃えて、縄で縛るんだよ」


リュックの奥に縄がいっぱい入っていた。


「じゃ、行ってくるからな」


そして5人が出かけていく。

しばらくぼんやり待っていると、5人が行った方から「はい!」「おりゃ!」などと掛け声が聞こえてきた。

見ると、なんかふわふわした毛の塊が、ふわふわと飛びながら、いや、跳びながら?こちらに逃げてくる。

耳が羽のようになっているらしく、それで普通のウサギよりも滞空時間が長いようだ。

5人が息の合った連係プレーで、網の方へとうさぎ達を追い込んでいく。

逃げ道を塞がれたうさぎ達が網に飛びかかり、網に絡まって動けなくなっていく。

それを僕が捕まえ、後ろ足を順に縛っていく。縛り方、片結びで大丈夫だろうか。

何羽かは網から上手く逃げたり、上手く網のない場所を通り抜けて行った。


「イトメ! 何羽捕まえた?!」

「7羽です!」

「あと3羽足りねえな」


依頼は10羽らしい。


「もう一度行くか?」

「今の巣穴の奴はみんな出払っちまったからな。場所を移した方がいいかもしれねえ」


移すことになった。

羽うさぎは逃げようと、みなふわふわと浮かぶが、足を縛られているので逃げられない。

風船のように羽うさぎを持ちながら、もう少し森の奥へと入っていく。


「よし、ここいらにしよう」


改めて網を張る。

捕まえた羽うさぎ達は小枝に引っかけておく。

また僕だけ待機し、5人が木々の間へと消えていく。

少しするとまた掛け声が聞こえてきた。

同じように羽うさぎ達が網に追い込まれ、僕がその足を縛っていく。


「3羽取れました」

「よし。それ以上は取るな」


捕まらなかった羽うさぎ達が逃げていく。


「取りすぎるといなくなっちまうからな。せっかくの金づるがいなくなったら勿体ねえ」


いいことを言っているのか微妙な所だ。


「殺さないんですか?」

「確かにこいつは肉としてもまあ美味いが、なにせこの小ささだろう? どんな肉よりも美味いって程でもねえし、あまり需要はねえんだな。それよりもお貴族様の間でペットとしての人気が高いんだよ」


ペットか~。確かに見てくれは可愛いから需要はありそうだな。


「お貴族様のペットだからな。そこそこ金払いがいいのがこの依頼のいいところだ。いつも取り合いになるんだが、昨日はついてたぜ」


聞けば、昨日のちょっと人が少ない時間に貼り出された依頼らしい。

昨日のうちに依頼書だけとにかくゲットして、今朝依頼を受けたのだとか。荷物の準備もあったのだろう。


「よし、片づけて帰るぞ」


まさに日帰りだ。

皆で手分けして片づけていると、何やら不穏な音が聞こえた。獣の低く唸るような声…。


「ガスさん。この辺り、危険な獣とかいるんですか?」

「どんな森だって危険なやつはいるぞ。ここはそうだな。灰色狼か、ロクウデと呼ばれる熊かな」


声の聞こえた方へ視線をやると、少し窪地になっているらしい場所から熊の頭が見えた。


「あんな感じの奴ですか?」

「あん?」


ガスさんが指さす方を見て、目を見開いた。


「戦闘態勢!」


ガスさんの一声で、皆が仕事をほっぽり出して武器を構える。さすがの反応だ。


「毛の色は何色だ?!」

「赤だ!」


ガスさんの問いかけに、弓を構えていたゴシさんが答えた。

確かに体毛が赤っぽく見える。


「まずいな…」

「強いんですか?」

「ああ。ロクウデは毛が黒いほど若く、赤いほど年を取って強いものになる。赤けりゃ赤いほどやばいんだ」


勉強になるなぁ。

ガスさんがギセさんとゲサさんと何かアイコンタクトをした。


「すまんな」


そういうと、3人が僕に躍りかかって来た。


「え?」


あっという間に腕と足を縛られてしまう。


「こういう時の為の新人君なんだ。せいぜい奴の気を引いてくれ」

「あの? どういう?」

「囮だよ」


グソさんが冷徹な目で僕を見下ろしていた。


「生き延びるために誰かを犠牲にする。冒険者じゃよくあることだ」

「そういうこった。すまんな」


ギセさんとゲサさんが立ち上がり、羽うさぎを手分けして持つ。


「それじゃ、すまねえな」


ガスさんも手早く荷物をまとめる。


「すまねえで済むことじゃないと思いますが」

「お前さん肝が据わってるな。普通もっと詰ったり泣き叫んだりするんだが」

「そういうものなんですね」


そうか。普通はそういうものか。


お読みいただきありがとうございます。

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