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イトメに文句は言わせない  作者: 慎一
イトメとゆかいな仲間たち
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勇者召喚

「ようこそおいでくださいました。選ばれし勇者よ」

「?」


股間を蹴られて潰されてぐりぐりされておまけに蹴られて悶絶していた阿多地雄磨(あだちゆうま)が、突然現れた人影に視線を向ける。もちろん股間を抑えたままだ。


「私は女神「ミガーメナホア」私の管理する世界「ワンドーランダ」で、今人類は未曽有の危機に立たされています。それを救えるのはあなたしかいません。どうか、あなた様のお力でこの世界を…って何してるんですか」


青い顔をして股間を抑えながら床で小刻みに震える阿多地雄磨を見て、女神が顔をしかめる。


「っ…! …!」


もはや痛すぎて声も出せない。


「なんだかよく分かりませんけど、股間が痛いのですね? では、えい!」


女神が腕を振るうと、途端に痛みが引いた。


「ついでになんだか薄汚れているので、えい!」


もう一度腕を振るうと、体中についていた汚れがとれて身綺麗になった。


「おお…」

「それではそこに立ってください。ではもう一度最初から。コホン。ようこそおいでくださいました。選ばれし勇者よ」


阿多地雄磨が立ち上がり、女神を見る。


「私は女神「ミガーメナホア」私の管理する世界「ワンドーランダ」で、今人類は未曽有の危機に立たされています。それを救えるのはあなたしかいません。どうか、あなた様のお力でこの世界をお救いください」

「もちろんです! 女神様!」


阿多地雄磨が片膝をつき、頭を垂れる。


「このご恩は忘れません! 必ずやご期待に添えるようにいたしましょう!」


と顔を上げると、女神がとても嬉しそうな顔をしていた。


「ああ! これよこれ! 理想通りじゃない! そうよ! あなたこそ本物の勇者よ!」


今にも小踊りしそうだ。


「コホン。え~と、あなたには勇者の称号と、お望みのスキルを3つ差し上げましょう。何を望みますか?」

「勇者の称号がつくと、何か特典があるのですか?」

「はい。勇者の称号を持ちますと、まずHP、MPが普通の人よりも10倍になります。成長速度も人より早く、各能力に勇者補正が付きます」

「すごいのですね。となると、鑑定と無限収納のスキルは絶対に欲しいかな…」

「無限収納ではなく、この世界ですと次元収納となります。容量に規制はなく、時間の流れも違う空間に収納されますので、もちろん物が腐るなどもございません。しかしこちらのスキルは魔法鞄で代用することができますので、他のスキルを習得することをお勧めします」

「なるほど。確かにそうですね。少し考えてもいいですか?」

「もちろんです」


しばらく腕組みをして考えていた。


「では、魔法創造と生命力吸収(ドレインタッチ)にしようと思いますが、大丈夫でしょうか?」

「魔法創造ですか。この世界の魔法はだいたいの型式ができてしまってこれ以上発展が望めないかと思われてましたから、これは私としても非常に嬉しい能力ですね! じゃんじゃん新しい魔法を産み出してください!」

「分かりました。ドレインタッチはHPとMP両方を吸収できるようにお願いします」

「かしこまりました。では、スキルを授けます」


大仰に女神が腕を広げる。女神の頭上に3つの光が浮かび、それが阿多地雄磨の体に吸い込まれていった。


「これで完了です。では勇者よ。くれぐれもよろしくお願いします」

「はい。行ってまいります。あ、ところで、世界を救った後って…」

「申し訳ありませんが、元の世界に戻すことは難しいので、この世界で暮らしていただくことになるのですが…」

「…分かりました。大丈夫です。大船に乗った気持ちで待っていてください!」

「ありがとう…。是非ともによろしくお願いします…」


阿多地雄磨が光に包まれ、女神の目の前から消えて行った。


「は~。理想的な男の子が来てくれたわ~。これからの活躍が楽しみ! さてさて、水鏡でさっそくその活躍を覗かせてもらおうっと」


数秒前の神々しさはどこへやら。スキップしながら女神がどこかへと去っていった。








神殿に光が注がれた。


「これは…」

「なんと…」


光が収まると、その中には端正な顔立ちの青年が佇んでいた。


「女神さまが我らの願いを聞き届けられたのですね」


一番近くにいた女性がそう呟き、現れた青年に近寄る。


「ようこそおいでくださいました。勇者様。私、今代の聖女を任されております、サーシャと申します」

「あ、どうも、僕は阿多地雄磨と言います。気軽にユーマと呼んでください」

「ユーマ様ですね。ささ、どうぞこちらへ」


聖女の後に続いてユーマが歩くと、その場にいた神官や女官達がすぐさま道を開け頭を垂れる。

豪華な部屋へ通され、ソファーでくつろぐよう勧められた。ユーマの前に聖女サーシャと付いてきたひとりの年配の神官が座った。そして侍女がB4くらいのボードを持ってやってきた。


「ユーマ様、こちらのボードに血を一滴垂らしていただけますか?」

「これはなんですか?」

能力値表示板(ステータスボード)と呼ばれているものです。こちらに血を垂らすと、その人の今の実力が示されるのです」

「ああ、ステータスボードですね」


手渡された針で指をチクリと刺し血を垂らすと、ボードが光を放ち、値を示し始めた。


(レベルが1でHP、MPが共に100。てことは元は10ってところか? 他もいろいろだいたい20台ってところか。これは低いのか高いのか分からないな)


「拝見してよろしいでしょうか?」

「どうぞ」


サーシャにボードを手渡す。

サーシャと神官がボードを覗き込み、驚愕の表情を浮かべる。


「レベル1ですでにHPとMPが3桁とは…」

「他の能力も軒並み高いですわ…」


会話の内容からしてもユーマの能力は他の者よりも高いことが分かる。ユーマは内心にやにやしていた。


「今日の所は突然のお呼び出しでごたごたしておりますから、本格的なことは明日からにして、本日はどうぞごゆっくりおくつろぎください。明日以降は王との謁見や歓迎パーティーを催してから、今後の活動についてご相談したいと思いますわ」

「ありがとうございます。右も左も分からない若輩者ですが、よろしくお願いします」

「こちらこそ、よろしくお願いいたしますわ」


ユーマに用意された部屋へと通され、そこで服を着替える。その後すぐに夕食へと招かれ、豪勢な食事を取ることになった。

風呂も用意されてすっかり身綺麗になった後、寝間着へと着替え、ベッドでくつろぐ。

誰もいなくなったことを確認し、ユーマこと阿多地雄磨は今まで見せていた愛想の良い笑顔から、イトメことイムトをいじめていた時のような歪んだ笑顔を浮かべる。


「ふ、ふふふ。異世界で勇者とか。まじかよ。何この勝ち組人生。魔王とか倒せば後はチート能力使ってやりたい放題じゃね? 金も女も選り取り見取りってか? あーまじ笑い止まらん」


それでも部屋の外に漏れないように、抑えて笑う。


「さっきの聖女様も可愛かったなー。でもここは定番のお姫様かなー。でも両方食ってもいいよなー。あー夢みたいだ」


ベッドにどさりと横になる。


イトメ(サンドバッグ)君がいないのはちょっとつまらんけど、まああんなの代わりなんていくらでもいるし」


ふとイトメの姉を思い出し、思わず股間を手で庇う。


「まじクソ女。でももう二度と会うこともないし」


本当に潰れたのではないかと思ったが、女神がきちんと魔法で治してくれたようだ。それについてだけは感謝している。


「明日は王様と謁見か~。せいぜいいいお顔してやろうじゃないの」


体を起こし、側にあった鏡を覗き込む。

そこには10人の女の子がいたら10人がイケメンと言いそうな自分の自慢の顔がある。


「最初は誰から手をつけようか?」


鏡の中の自分の顔が、黒い笑顔を見せた。


お読みいただきありがとうございます。

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