冒険者ギルドらしいけど
ベルクナーさんから教えられた所まで来ると、なんだかガラの悪い人達がたむろしている建物が見えた。多分あれじゃないかな。
扉を開けて中に入ると、広い空間の奥にカウンター。そこに綺麗な女性が数人立って何かしている。あれが受付だろう。
なんとなく親近感を覚える黒っぽい髪のお姉さんの所へ行く。
「あのう、すみません。冒険者登録をしたいのですけど」
「はい。新規登録者ですね。こちらに記入をお願いいたします。登録料として5デジールいただきます。」
と紙をペラリ。
今気づいたけど、文字が普通に読める。不思議だ。あの自称女神がそのあたりうまく処理をしてくれたようだ。
(でも、文字は書けないぞ?)
お姉さんが空気を読んでくれたのか、代筆してくれた。
聞かれたことに適当に答える。
もらった四角い金貨を1枚出すと、丸い銀貨が9枚に四角い銀貨が5枚帰って来た。銀貨の単位はデジールらしい。
「本日登録試験が行われますが、このまま参加いたしますか?」
え? 試験なんてあるの?
「あ、はい」
適当に答えていた。
とにかく、ベルクナーさんから少しばかりのお金をもらったとしても、お金は稼がなければなくなってしまう。
なので早めに冒険者になって生活の基盤を整えなければならない。
ということで、試験会場にやってきた。
僕の他にも5人ほど人がいた。同じくらいの年齢のようだ。
あれ、皆マイ武器らしきもの持ってる…。どうしよう。
「よし、時間になったから始めるぞー」
奥の扉が開いて、大剣を担いだ筋肉質のおっさんが出てきた。
「俺は試験官のアッシュだ。試験内容は簡単だ。俺と試合をしてもらう。もちろん勝ったら合格だが、負けても実力があると認められれば合格だ。それほど気負わなくていい」
申し込み順だろうか。僕ではない男の子が呼ばれ、試験官と向き合う。
「でりゃあ!」
持っていた剣を振り回し、果敢に攻め込む。
ううむ。あれくらいの実力でいいなら、僕でもできそうだな…。でもあんまりやりすぎると姉さんに怒られるかもしれないし…。
試験官を倒すことは出来ず、反対に倒されて最初の子の試験が終わる。
「よし。では次!」
合格不合格は後で言い渡されるのかな?
次は女の子。短剣を両手に構え、試験官に挑む。
なかなかいい体捌きだけど、試験官の方が圧倒的だ。
「よし次!」
そして僕の順番が回ってくる。
さてどうしようかな。姉さんの相手で適当に格闘の経験はあるけど、やりすぎて殺しちゃうのはまずいしなぁ。
普通の人がどれくらいで壊れるのか、僕はやったことないんだよな。
この人は丈夫そうだし、丁度いいから力加減の具合を試させてもらおう。
能力を試しに2割ほど解放してみる。
「武器はないのか?」
聞かれた。
「ええと、格闘技を少々…」
「武闘家か。よし、いいぞ」
「では」
軽く地面を蹴って、姉さんを相手にする時よりも加減気味に…。
「えい」
大剣が壊れた。
試験官が吹っ飛んだ。
試験官が壁にめり込んで気絶してしまった…。
おかしいなあ? 2割でだいぶ加減したはずなんだけど…。
「こちら冒険者証になります」
申し込みをしたのとは別のお姉さんが、冒険者証を手渡してくれる。
冒険者証にはいつの間に撮ったのか顔写真と、大きくFを示す文字が書かれていた。よほどのことがなければ誰でも最初はF級かららしい。
あの後、気絶した試験管は運ばれ、僕たちは別室に移されて冒険者とはなんぞやみたいな講義を受けて、晴れて冒険者となった。
「あの、すみません」
「はい? なんでしょうか?」
「魔法を教えてくれる所があると聞いたのですけど」
「ああ、魔法の講義を受けたいのですね。ではあちらの受付に行ってください」
いそいそと案内された方へ向かう。
同じ登録者試験を受けた子達の視線が痛いのもあった。
案内されたカウンターの所にいたお姉さんに声をかける。
「はい。ああ、魔法の講義を受けたい方ですか? ではまず、こちらに手をかざしてみてください」
差し出された水晶球に手をかざす。虹色に光った。
「あらすごい。魔法の適性はあるようですね。1講座を受けるのに30デジールかかりますが、資金はお持ちですか?」
頷く。
ただではないのか。
「ではこちらの申し込み用紙にご記入をお願いいたします」
書いてもらった。
「虹色に光りましたので、全属性を受けることができますが、どの講座を希望いたしますか?」
属性なんてあるのね。
「どんな属性があるのですか?」
「大まかに、火、水、風、地、白、黒とございます。白は聖属性とも呼ばれ、治癒系の魔法に優れています。黒は闇属性とも呼ばれ、精神系の魔法に優れています。他に時や空間の魔法もございますが、そちらは専門の魔法士ギルドへ行っていただかないと習得できないこととなっております。冒険者になって活動し始めるのであれば、狩りが主となると思いますので、火魔法か風魔法がよろしいかと思います」
なるほど。確かに狩りをするならそれがいいのかもしれない。
それに、確かベルクナーさんが使っていたのは火魔法だったな。
「じゃあ、火魔法でお願いします」
「かしこまりました。本日の最終講義が残っておりますが、参加いたしますか?」
「はい。お願いします」
案内された教室へ行くと、そこにも数人の人がいた。
適当に座って待っていると、先ほどとは違いすらっとした美形の男性がやってきた。
「こんにちは。今回の講義を担当するイートリンスです。では講義を始めます」
まず魔法に関する注意事項を聞かされ、次に魔法は呪文を介して発現するのだと説明を受ける。
「簡単なものだとこれですね。灯の魔法です。ヨヒ マタ セラテ」
先生の掌に火の玉が浮かんだ。
「暗いところなどで灯を必要とした時に用いる魔法です。光の属性がない人などには重宝されますね」
そう言って火の玉を消し、黒板にサラサラといくつかの呪文を書き出した。
「今の灯の魔法と、簡単な攻撃魔法の呪文です。覚えたら試し打ちをしに行きます。これだけ覚えたら今日は終わりです。それ以上の講義を受けたい方は、受付にて申し込みをしてください。その他の初級魔法は冊子を販売しておりますので、そちらで習得することも可能です」
お金がかかるなあ。
メモ帳が欲しいけど、まあひとつひとつは短いものだし、さくっと覚えてしまおう。
しばらくすると場所を移動し、的がある広場に来た。
「灯の魔法ができることを確認した者から、的に向って覚えた攻撃魔法を唱えてください」
各々の掌の上に火の玉が浮かぶ。僕も試しにやってみた。おお、確かにできたぞ。
先生に確認してもらい、的に向って皆魔法を放つ。
ふむ。こうしてみると、人によっては的まで届かなかったり、的から外れてしまったりとそれぞれ力の差があるようだ。これはイメージとか魔力量の差とかあるんだろうか。
さてでは、覚えたての魔法でも使ってみよう。
「ヨヒ リヤ ケヌラツ」
思ったよりも大きな火の槍が、的に向って勢いよく飛んで行った。
的は破壊され、勢いよく火の手が上がった。
先生が別の呪文を唱えると、水が滝のように降って来て鎮火した。
「君…」
どうしよう…。また視線が痛い…。
お読みいただきありがとうございます。