なんか降って来たけど
「なあイトメ。俺たち金がないんだよ」
「快く貸してくれるよな?」
いつもと同じように人目のないところで数人の男子に囲まれている。
「すみません。僕もお小遣いなくなっちゃって」
いつもの通りにへらっと笑って返すと、お腹に拳が飛んできた。
「くはっ」
「お返事の仕方が違うでしょ~?」
「阿多地く~ん。こいつ頭悪いからダメだって。ちゃんと教育してあげなくちゃ~」
「ほんとほんと。俺たちって親切だな~」
「教育は姉さんで間に合ってるんで…」
「だからそうじゃないって言ってんだろ」
「かはっ」
こんどは膝がめりこんだ。
「そういやこいつの姉ちゃんめっちゃ美人なんだって?」
「おいイトメ、お前、姉ちゃんの下着盗んで来いよ」
「そんなことしたら僕が殺されますので…」
「だから返事の仕方が違うだろ!」
「くはっ」
また拳が飛んできた。
「お前の返事は「はい」一択。アーユーOK?」
「いえ、でも、無理なものは無理なので…」
それからいつものように拳やら足やら膝やらが飛んできて、僕は地面に転がされる。そこからはまた殴る蹴る。
「お~。一万とか。なかなかやるじゃ~ん」
「持ってるじゃ~んイトメ君。カンパありがとうね~」
「どこ行くよ。またあの店?」
「たまには違うとこにしね?」
鞄を漁っていた奴らが財布からなけなしの万札を取り出し、暴行は終わった。
「あ、そのお金は…」
「じゃ~な~イトメ」
「明日もよろしく~」
いじめっこ達は楽しそうに去っていった。
「いいんですけどね。それ、阿多地君の家のお金なので」
聞こえないくらいの声で呟いて、よいせと立ち上がる。
きちんとガードもしていたし、急所も当たらないようにしていたので、見た目ほどダメージはない。
「よし。今日も我慢できましたよ。姉さん」
中身をばら撒かれた鞄を拾って、中にきちんと荷物を詰め込んで、僕は家へと足を向ける。
僕の名前は上下威無人。一般的なとっても普通の男子高校生である。
目がとても細いので、昔から「イトメ」と呼ばれることが多い。お前は起きてるのか寝てるのか分からんとよく先生に言われる。きちんと真面目に授業を受けてるのになぁ。
「ん?」
空から光が降ってきた。光球とかそういうものじゃない。例えるなら宇宙船から照らされる照明みたいな感じだ。
「なんだ?」
一瞬の浮遊感の後、僕は白い空間に立っていた。
「ようこそおいでくださいました。選ばれし勇者よ」
「は?」
目の前にふわりと綺麗な女の人が現れる。
「私は女神「ミガーメナホア」私の管理する世界「ワンドーランダ」で、今人類は未曽有の危機に立たされています。それを救えるのはあなたしかいませ…ん?」
目を開けた女の人が僕の顔をまじまじと見つめる。
「あ、あら? おかしいわね。すいません。ちょっと待っててくださいます?」
と、片手で耳を抑える。
「あ、もしもし? あの、注文していた人とだいぶ違うのがきてるんだけど? え? 注文通り? いやでも、いっちゃあなんだけどちょっと容姿が…。え? 容姿は関係ないだろって? いえ、世界を救った英雄ともなると容姿もそこそこ重要になってくるんだけど。は? そんな注文受けてない? いやだって普通はそのあたりも考えて送ってくるでしょう? 返品はきかないって? いやでもこっちも困るんだけど…ってちょっと! 勝手に切りやがった!」
怒ったように耳から手を離し、
「そうなると~…でもあれがああだから~…」
とブツブツ言い始めた。
「あの~」
声をかけるのも躊躇われたけど、僕はさっさと家に帰りたいので声をかける。
「あ、ああ! ごめんなさいね。ちょっと手違いがあって。それでその、あなたを元の世界に返すこともできないので、私の世界で暮らしてもらうことになるんだけど。それについてはお得なスキル「次元収納」を差し上げますので、それでなんとか暮らしてください。ああもちろん、勇者の称号は取り上げますので、どうぞ一般人として、冒険者にでもなって適当に暮らしちゃってください。それでは立て込んでますので、さよなら~」
「はい?」
早口でペラペラ喋ったかと思うと、突然僕の足元の床が消えた。
お読みいただきありがとうございます。
こちらはキーナやクロさんシリーズとはまったくの別物となりますので、この作品だけでお楽しみいただけます。用法容量を守って楽しく読了してください。