8* -TS-《シンジツ》
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嵐のような出来事が去った後、アオイとナナはトー平原街へと立ち寄っていた。
時間が時間なだけに果たして街へ入れるのか不安は残していたが門番らしき者いわく。
「あぁ、新兵冒険者が多いこの街ならよくあることだから気にする必要ないよ。それに……ここで騒ぎを起こす馬鹿も居ないだろうしね。」
とのことらしい。
しかも親切にその門番から宿の場所まで教えて貰ったアオイ達。
そこへ今日の疲れを癒すべく足早で向かっている最中だ。
(親切な門番だったけど何か視線がおかしかったんだよな……。俺、どこかおかしい所でもあったか?)
「……ふむ、そろそろですかね。」
ふとナナが言葉を漏らす、すると目の前には目的の宿らしき建物が立っていた。
門番に教えてもらっていた宿、《マツバギク》。どうやらここで間違いないようだ。
「あぁ、ようやく着いたみたいだね……。妹にコキ使われてワケの分からない女に刺されたかと思うと今度は異世界でまな板娘に意味もなく怒られて…………長い1日だった。」
改めてとんでもない1日を過ごしたのだと実感しながら宿へと入るアオイ。
辺りを見回すアオイであったが宿の中はガラン、としており人の気配がない。
そこでアオイは宿の店主を呼ぶべく最後の気力を振り絞り大声をあげるのであった。
「すいませーーーーん!!ここ、泊まりたいんですけど!!」
「………………うるさいわね………今何時だと思ってるのよ……。」
その叫び声に応じるが如く向かいのカウンターらしき所から顔を出す女性。
キク、と書かれたネームプレート。
そして胸元には宿名のマツバギク、とかかれた刺繍を着ているので恐らくここの家主であろう。
「うぉっ!?……そんな所に居たんだ……。あの、ここに泊まりたいんですけど。」
「………こんな時間に女とペット一匹で……?ずいぶんと旅を舐めた冒険者さんだこと。……一泊銀貨10枚だけど払えんの?」
何やら気になる言い方する家主ではあったが先程ミュールから頂いた金貨の袋をテーブルにドサッ!と乗せるアオイ。
「生憎金貨しか持ち合わせてないんだけど……なんとかなる?」
「……まじ?」
先程までの怠惰な様子とは一変、目を輝かせるように金貨を見つめる家主。
「えぇっと……銀貨100枚で金貨1枚だから………1000日の連泊ですかッ!?」
「そんなに泊まらんわッ!?…………まぁ、とりあえず30日お願い。」
毎度ありぃ!と歓喜しながら金貨3枚を握りしめる家主。
そこへ、この異世界に来てから薄々感じていた気持ちの悪い感触を思いきってぶつけるアオイ。
「……所で、変なことを聞くけどさ。俺、女に見えるか……?」
「………はぁ?………急に嫌味……?そんなでっかい乳ぶら下げてるクセにさぁ……。
………あっ、鍵これね。この先を突き当たりに行った左の部屋…………。」
家主の説明を食いぎみで鍵を奪い取るアオイ。
そんなわけがない、そう思いつつも疑問が確信に変わるまで足早に指定された部屋へと向かう少年。
(まさか……そんなワケがない。だって………俺はどう見ても………!!)
焦る気持ちを胸に自室のドアをバンッ!とおもいっきり開けるアオイ。
そしてその正面に佇む、鏡の中の自分を見て絶望する少女。
「な、なんじゃこりゃーーーーーッ!?!?!?」
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そう、それは紛れもない美少女だった。
驚き慌てふためくアオイであったがある疑問が脳裏によぎる。
「待て、どうして……今まで俺は気付かなかったんだ……?」
「ふむ、良いところに気が付きましたねアオイ様。」
待ってましたと言わんばかりにピョコッと部屋へ入ってくるナナ。
それを見てアオイは当然の疑問をぶつける。
「何か……知ってるの……?」
「えぇ、知ってるもなにも女神様の指示ですから。」
「アイツの仕業かーーーーーッ!?!?
……………ナナ、魔法で女神と会話させて。」
一頻り騒いだ後急に静かに、だが怒りを沸々と湧かせながらナナへと命令する。
「はぁ……ですが、魔法はこれで最後の三度目になりますがよろしいで……。」
「いいから早くッ!!!!」
そんなもの知ったことかと言わんばかりに声を荒げるアオイ。
それに押されたのかやれやれ、と言わんばかりに渋々魔法を展開させるナナ。
そして三度目の光球がアオイを包み込んだかと思うと一変、部屋中が眩い光で満ちていく……!!
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パッ!と光が飛び散り辺りを見回すとそこはアオイと女神が最初に出会ったあの空間だった。
そしてそこにはあの女神も当然ながら存在していた。
「……あら?……貴女は……先程ぶりですね。どうしたんですか……?本当はここには来ちゃいけないんですよー?」
とゆるーい感じでメッ!とする女神。
しかし今のアオイにとってはそんなことはどうでもいい。
「ちょっと!?この身体はどうなってるの!?!?」
「身体って…………あぁ。もしかしてもう誤認魔法が解けちゃいました……?」
誤認魔法、という聞き慣れない言葉に戸惑うアオイ。それを見て察したのか女神が諭すように説明し出す。
「はいー。正確にはアオイさん、貴女が自分の姿を認識出来ない魔法、ですね。
……他の人にはバッチリ美少女に見えてたんで安心してください♪」
「なるほどね…………って、安心できるかーーーーーッ!?!?」
ーーーーーー少女の虚しくも悲しい雄叫びが、虚無の空間で響き渡るのであった……。