6* -転移-《エスケープ》
「アオイ様……ですね。ありがとうございます。でしたら、わたくしのこともミュールとお呼びになってくださいませ。」
そう答えるミュールは屈託のない笑顔でアオイに微笑む。
その表情に少し心揺らぐアオイであったがすぐさまに別の話題へと切り替える。
「……所で、この森から早く脱出したいんけど道とか分かる?」
「そうですね……。大体なら把握しておりますが、この暗闇で森を抜けるとなると夜が明けてしまうかと……。」
なんてこった、と分かりやすく絶望するアオイ。
金を手に入れたのはいいが先程のモンスターの件もあり、身の安全が確保出来ないことに焦りが出てしまう。
沈黙の時間が刻々とすぎる中、そこへナナがようやく口を開く。
「あの……大体の場所は分かるのですよね?」
「はい……。ですがこの森の中では…………って、えぇ!!!??しゃ、しゃべった!?」
急遽喋り出した謎の生き物に驚くミュール。それを見てウンウンと隣で頷くアオイであった。
「あー、ごめんごめん。この子はナナ。訳あって一緒に旅してるだけだから気にしないで。」
「は、はぁ……。喋る使い魔も使役されるなんて……よっぽど凄いお家柄なのですね……。」
(……何やら誤解されてるようだが良い感じに思い込んでるのでそこはヨシとしよう。)
「それでナナ、どうにか出来そうなの?」
「はい、最初の転移魔法の件の話に戻るのですが。座標さえ認識出来ればこの森を抜けることが出来るかと提案を致します。」
そう、行ったことのない場所へは転移は出来ないが大まかな場所さえ分かればこの森を抜けるぐらいなら容易であろう。
それを悟ったアオイはミュールへこう問いかける。
「ミュール……だっけ。大まかでいいからこの辺りの場所を教えて貰えるかな?俺達適当に旅をしていて実はこの辺りは詳しくないんだ。」
「俺達……?……えぇと……。……もちろんです!でしたらまずはこの地図をご覧になってください。」
そういうとミュールは何処からか取り出した地図を広げて2人と1匹で囲むように眺める。
「さて。ご存じかと思いますがこれはわたくし達が居る、海に囲まれた大陸。ケザーシュ大陸の地図ですわね。」
(ケザーシュ大陸……そんな大陸名だったのか。というかそれぐらい教えろよあの女神……。)
新しい知識と共に女神への愚痴も生まれるアオイであったが、知らないとこれまた話がややこしくなりそうなのでここはグッと堪えてミュールの説明を素直に受け入れるのであった。
その間にもミュールの説明は続く。
「そしてそのケザーシュ大陸の中心にあるのがバーコ地方。そのバーコ地方の北東の境目に存在する森、オウゼブルの辺境森。ここが今まさにわたくしたちが彷徨っている森になりますわ。」
「オウゼブルの辺境森……ね。なるほど、それでこの森から一番近い安全な街へ行くにはどこがいいのかな?」
アオイの漠然とした問いかけにもミュールはどこか嬉しそうに答える。
「そうですわね……!でしたらここより西にあるトー平原を抜けたトー平原街を提案致しますわ!…………その、恥ずかしながら自己都合にもなるのですがこの街にわたくしの従者が待っていると思いますので……。」
何やら意味深な言葉を残すミュールであったが今頼るものはこの少女の言葉しかない。
その提案をアオイは受け入れ今度はナナへと話を切り替える。
「…………ナナ、どうかな?いけそう?」
「えぇ、大体の距離はこの地図で把握出来たのでこの森は抜けられるかと思います。座標は私が指定をするのでアオイ様が後は魔力を行使するだけ、ですが…………。」
「よし、じゃあ飛ぶぞッ!!!!」
早くこの森からおさらばしたい!と言わんばかりにミュールとナナを抱き寄せて魔力を集中するアオイ。
すると瞬く間にアオイ達の周りを光球が埋め尽くすように集まり出す。
「えっ!?えぇっ!?ち、近…………っというかこの魔力の量は……っ!?」
「やれやれ、私のご主人様はせっかちでございますね…………。ではどうぞ。」
「さぁ!!飛ぶよッ!!!!!」
アオイが声を上げたかと思うとふわふわと浮かんでいた光球が一斉に輝きを増していく!
ーーーー刹那、暗い闇の中に瞬間の光が差して辺りは再び静寂に包まれる…………。