4* -異世界-《エスオーエス》
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ここは異世界のとある街外れにある緑生い茂る森。
が、その緑も真夜中の漆黒により静けさを保っている。
「……どわああああああっ!?!?」
そこへ急遽静けさを破るけたたましい叫び声が森に響く、そう蒼だ。
どうやら蒼は先程の女神の力により転移されたのであろう。
「ったた……。クソッ、あの薄ら笑い天使……。本当に俺を異世界に飛ばしたのか……?」
愚痴を吐きつつ辺りを見渡し現状を確認する蒼。
そして薄暗くも見慣れない植物、そして何より先ほどから森の中をフワフワと浮かんでいる小さな光球のようなもの。
にわかには信じがたいが、自分が異世界に来たという実感が少しずつではあるが沸いて来ているようだ。
「……はぁ。やるしかない、か……。」
「はい、やるしかございません。」
蒼の呟いた独り言にまるで答えるかのように聞こえる声。
その突如現れた言葉に蒼はこの異世界に来て二度目の叫び声をあげるのであった。
「でぇええええええええええっ!?だ、誰だ!?お前っ!?」
「随分と酷いお言葉を投げかけられるのですね、私たちは運命共同体だと先ほど教えになられましたのに。」
蒼の叫び声にも動じず淡々とした様子で言葉を発する生き物、そう先ほど女神が誕生させた新しい生命がそこに佇んでいた。
「……君、喋れたんだね。」
「まぁ意思疎通がある程度は出来ないと蒼様のサポートも出来ませんので。」
サポートという言葉にハッと冷静になる蒼。
そう、この奇妙な生き物は決して愛玩動物として女神から渡された訳ではない。
蒼がこの世界で生きていくために渡されたモノなのだ。
「確か……あの自称女神のいうことが本当なら……魔法を三回使えるんだっけ……?」
「えぇ、正確には1日に三回、です。……ちなみにですが日付が変わると魔力がチャージされまた使用出来る仕組みになっております。」
何やら異世界特典の割には制限があって面倒だな……と腹の中で舌打ちをする蒼であった。
「……まぁいいや、とりあえず君は俺の願いを何でも叶える魔人みたいなものっていう認識でいいんだよね?
じゃあ取り合えず安全な場所……近くの街へ俺を転移してちょうだい。」
こんな見知らぬ場所で、ましてや深夜に森をウロウロするのは死亡フラグを自分で掲げて歩いてるものだ、と言わんばかりに早くこの場から立ち去ろうとする蒼。
しかしその希望もすぐに打ち消されることになる。
「それは出来ません。」
一瞬この生き物が言っている言葉が理解出来なかった蒼、いやそんなわけがないとただ脳が理解したくないのである。
「ち、ちょっと待て!!さっき魔法が使えるって……!!」
「えぇ、使えますがその転移先の街が分からないので転移のしようが無いのです。」
「な、なんじゃその理屈ーーーーっ!?!?」
蒼の三度目の咆哮、しかし辺りは一瞬にして静けさを戻す。
(クソッ……あの女神想像以上に面倒なもの渡してきたな……。知らない場所に飛べないなら地形情報ぐらい叩き込んできなよ!)
と毒を吐きつつもゲームの中の勇者の心境ってこんな気持ちだったのかな、と急にしんみりする蒼なのであった。
しかしいつまでもしんみりとはしていられない、それはどうやら自分が生きていくためにはこの生き物をうまく利用しないといけないからである。
その為にまずはこの生き物について、理解という名の歩み寄りを始める蒼。
「……ちなみに君、名前は?これからなんて呼べばいいの?」
「私に名前はありませんが個体上、0774907……という個体番号があります。」
「ぜろなな……。じゃあもう面倒だから君の名前はナナでいいね。」
「ナナ…………。私の名前…了解しました。」
そんな長い数字なんて一々覚えていられない、と言わんばかりにぶっきらぼうに命名する蒼。
そしてそんな様子も気にすることなく答えるナナなのであった。
「それじゃ改めて聞くけど、ナナはどんな魔法ならすぐ使えるの?」
そう、いくら魔法が使えるからと言ってもどんな魔法が使えるか把握しておかないといけない。
先程みたいに命の危機で使えません、ではこれから先命がいくつあっても足りないだろう。
何度も言うようではあるがナナが蒼の命綱でもあるのだから。
それに答えるようにナナも暫く沈黙を保ち考える……。
そして突如ナナの尻尾がピンッ!と立ったかと思うとその沈黙を破るかのように第三者の叫び声が森の中をこだまする。
「だ、誰か!!!助けてくださいッ!!!!!!!」
それは女の声だ。暗い森の中でうまく認識できないが茂みの奥の方から叫び声が響いてくる。
どうやらその緊迫した声からして何かに襲われている様子である。
「こ、今度は何だ!?誰かそっちに居るの!?!?」
「ふむ……。あの茂みの方から魔力の反応が二つ……。一つはモンスターの……もう一つは先程の声の主でしょうね。
しかも後者の魔力反応が弱くなってることから、モンスターに襲われていると推測されます。」
人が襲われてるのによくそんなに淡々と説明出来るな、と感心する蒼。
しかしその佇まいは決して蒼の嫌いなタイプではなくむしろ親近感すら湧き出すのであった。
「ちなみに先程の魔法についての質問ですが、あの程度のモンスターであれば魔力を一つ消費して消し去ることは容易でしょう。
どういたしましょうか?」
ふとナナが蒼を見つめ直して答えを待っている。その問に対して蒼は……。
「へっ……。決まってるじゃないか!!!」