3* -転生-《ハジマリ》
ーーーーー暗く。
ーーーー暗く。
ーーー暗く、ひたすらの闇が続く。
何も見えないただ無限の漆黒。
ぼんやりとした意識の中、このまま一緒に闇に溶けるかと諦め掛けたその時。
「……ぁ………きなさい……。」
静かな声が闇に響き、一筋の光が差し込む………。
……………。
………。
…。
「金木 蒼……。」
闇のなかで聞いたその声に意識がハッと戻される。
が、うまく声が出せない。
「無理もありません……。貴方は今、魂だけのとてもとても細い存在……。」
(急になんだこの女?まるで俺が……。)
「そう、死んだのです。」
蒼が口に出すより早く目の前の女性が言葉で塞ぐ。
まるでこのことが分かっていたかの様に。
(俺が……死んだ……?そういえばアイツに刺されて……。)
混乱する蒼だが女は優しい口調で言葉を掛ける。
「ですが安心してください……。貴方の人生、もう一度だけやり直すチャンスを与えます。」
そう言うと蒼の周りに光がポツ、ポツと集まり出し次第にその光は輝きを増しながら大きくなっていく……。
「さぁ、これが次の貴女の人生です……!!」
バシュンッ!!と光が爆発するとそこには蒼の姿が形成されていた。
「……生き返った……のか?」
意識がようやく戻ってきた蒼は自分の存在を確かめるかの様に呟く。
「ふふ……まぁそうかもしれませんね。」
その独り言に何やら意味深に笑う女、それが不愉快に思ったのか蒼はぶっきらぼうに訪ねる。
「アンタ一体何者だ?どうして俺はここに……。」
「聞きたいことが沢山あるのは分かります、ですがこの場を形成する時間が足らないのです。」
そう言うと女は口早に説明をする。
「貴女には、とある世界で人生を過ごしてもらいます。そこは貴方の居た世界とは大きく違い、その身一つで生き抜くにはとても大変な世界です。」
目の前の女が何を言っているのか蒼は理解が追い付かなかった。ただ本能的に面倒なことになることはなんとなく直感する蒼。
「待て待て!そんなワケも分からないうちにワケの分からない所へ飛ばされて俺はどうすればいいんだ!?」
その当然の疑問を打ち消すが如く女は蒼に手をかざし、おもむろに光を集中させる。
「安心してください、今から貴方に祝福を与えます……女神の祝福をね…!」
すると輝かしい石が蒼の周りに降り注ぎ、眩しい光と共に音が辺りに鳴り響く……!!
ジャーン!!という盛大な効果音から現代人には見たことのあるような演出。
まるでこれは…………。
「わぁ!おめでとうございますー!!とってもレアな子をゲットですね!」
そう、そこには人の顔をしたような何やら奇妙な生き物がふわふわと誕生していた。
「いや、なにガチャ回して遊んでるの!?なに!?この犬か猫か分からないような生き物は!?」
すると先程女神の祝福と放った女は悲しげにこう答える。
「えぇ…?せっかく可愛く出来たと思ったのに……ぐすん。……でもこれからの貴女の生涯のパートナーであり、命綱でもあるんですよ?大事にしてあげてくださいね…♪」
「(可愛く出来たってお前が作ったんかい……ん?)」
心の中でぼやきつつ、ふと何かに気付く蒼。
そう、女神と言う言葉だ。
もしやこのふざけたような女は……。
「はーい。私実は女神なんです!だからこういうズルも特別に出来ちゃうんです!」
蒼が発する前にまたもや言葉で遮られてしまう。
もしや頭の中まで見透かされてるのかと不審に感じる蒼。
「まぁ今の貴女は私の妹のようなものですからね……っと。」
すると今度は先程誕生した生き物に手をかざす。
まるで何かを注ぎ込んでいるかのように……。
「ふふっ、だからこの子にも魔法が使えるようにズルしちゃいました。……ただ現状、使える魔法は1日に三回までです……気を付けて下さいね。」
何やら大事なことをサラッという自称女神。しかしもしそれが本当のことならば、右も左も分からない世界では先程言われた通り命綱とも言えるであろう。
「それは有難いですねぇ、女神様。生き返った上に異世界で特典まで付けて貰ったってワケだ?」
上機嫌に感謝の言葉を述べる蒼だが不意に棘のある言葉を放つ。
「でも何でここまでしてくれるんだ?お世辞にも俺は前世で良い行いをしたとは言えないぞ。」
そう、蒼自ら言った通りお世辞にも良い人間とは言えないであろう。
むしろその真逆、そのせいで命を落としてしまったのだから。
「ふふっ……。だからですよ。今はまだ分からないかもしれませんが、そのうち向こうの世界でも分かると思いますよ。」
と、何やら不穏な言葉を笑顔で語る女神。
その様子を見てこれ以上の会話は無駄だと判断した蒼は疑問に思うことを放棄した。
「……そんなに拗ねないで下さい。貴女はもう私の可愛い妹なんですから……っと、そろそろ時間ですね……もう少しお話したかったんですけど。」
「……だからさっきから妹ってなっ……!」
蒼が先程から薄々と感じてた疑問だが、突如それを吹き飛ばすかの如く強い衝撃がゴウッ!と蒼を襲う。
「それじゃあ、楽しんできてくださいね。」
ーーーーーそれがこの空間での最後の言葉であった。