20* -領主-《マゾク》
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依頼を終え、ぐっすりと休息をとるアオイ一同。
そして日も変わり、小鳥が囀り暖かい朝日がようやく顔を見せようとする中とある怒声と共に最悪の目覚めで起床するのであった……。
「ーーーーーーッッ!!」
聞き慣れない声と共にガシャンッ!と何か物が壊れるような音が宿にまで響き渡る。
一体何事だろうか?
焦る気持ちと共に重い瞼を明けるように宿を後にする一同。
「……もー。朝から何なのよー………。
まさま異世界に来てまで騒音バトルに付き合わされるとは思わなかったわー………。」
ぶつぶつ、と一人だけ不満を呟きながらも大きな欠伸をするアオイ。
そんな呑気な空気を一瞬で吹き飛ばすような出来事が村で起こっているとは知らずに…………。
「……………は?」
そこにはざっとお年寄りの村人が30人程だろうか、頭を地面に擦り付けるように広場で土下座をしていた。
これは何かの儀式なのか?と思えるほどその光景は異様で思わず開いた口をあんぐりとキープするアオイ。
そんな間抜けな面など気にする様子もなく再び怒号が飛び交う!
「だからよぉ!ってメェラがいくら頭を下げようが金の足しにもなんネェんだよぉ!分かるか?アァン!?」
何やら下品な言葉で村人を責め立てる男……
その姿は人間から駆け離れており、まず先に目立つのが左片方の頭から生えているドス黒く光る鋭利な角。
そして次に視線を落とすと背中から映えている黒い翼。
最後にスラッとした悪魔的尻尾。
……どうやら騒音の原因はこの男?のようだ。
「申し訳ありません、申し訳ありません……!
ですが、この村にはもう領主様に貢げるものは………。」
そう言って昨日アオイ達に感謝の言葉を述べていた村長が今度は謝罪の言葉を泣きながら漏らす……。
しかし男の苛立ちは収まるどころかエスカレートしていく。
「……あのよぉ?この村が、テメェらが生きてるのは誰のおかげだと思ってんだ……?
俺様、領主のアーデルヘルム様のお陰ダロォ!?」
そう言うと男は村人の頭を踏みつけながら自信満々に己を紹介し出した。
(うわ……私が一番苦手な俺様タイプじゃん……。)
その様子を遠巻きに眺めていたアオイだが心の底からドン引きしていた、それもどっぷりと軽蔑するように。
しかしそんな中男のある言葉に引っ掛かるのであった。
「ん……?領主ってことはもしかして………。」
「そうですわ、お姉様。アレがこの大陸の領主、魔族アーデルヘルムですわ。」
アオイの影に隠れながらぴょこっ、と顔を出すユリ。
血の気の多そうな彼女だがやはり年相応というか魔族が恐ろしいのだろうか?
男に隠れながらどこか挙動不審な彼女である。
「へぇ、あれが……。まぁ確かにいかにもーな悪役で独裁者っぽいね……。なんであんなのがこの大陸の領主なの?」
それは……。とユリが口を開こうとした瞬間再び怒号が飛び交う!
「おい!………そこの後ろにいる冒険者ども。……今、俺様の悪口を言ったか?」
うわ、聞こえてたのか……と面倒くさそうに視線を反らすアオイであったがそんなことはお構いなしにドンドンと距離を詰めてくるアーデルヘルム。
そして目前で一言。
「んぅ………?よく見ればお前乳がでけーし良い女じゃねぇか!!……どうだ?特別にお前も牧場送りにしてやろうかぁ?良い家畜になるぜ!!乳牛女ァ!!」
そう言うと男は下品な言葉に続き下品な笑いを上げる。
………その言葉にプルプル、と震え出すアオイ。
後ろに隠れていたユリがこれは不味い!と察して場を離れるがもう既に詠唱は完了しており遅かった。
「…………誰が、乳牛女じゃボケーーーーーーーーーーッ!!!??」
アオイの怒号と共に魔力を解放する。
次の瞬間アーデルヘルムの姿が一瞬で消えた…………いや、消えたのではない。
地に墜ちたのである。
「偉い領主様だか知らないけど、一生地面にキスしてろドチビがーーーーーーーッッ!!」
「アガガガガガヴァッ!!??」
そう、アオイはアーデルヘルムの周りの重力を操作して彼自信を地に叩きつけていた。
………ちなみに地面は小さいながらも突き刺さるほどの刺々をちゃっかり同時に精製している。
言わば全身画鋲で刺されながらも上から押し潰されている地味な拷問だ。
(やれやれ………こんな馬鹿みたいな二重魔法の使い方をされるなんてアオイ様らしいと言えばアオイ様らしいのですが。)
そう思いながら魔力を解放するナナではあったがその表情はどこか誇らしげである。
一方の絶賛拷問中の男、アーデルヘルムはその魔法から抜け出そうと足掻くが………。
(う、動けねェ………!!この乳牛女……なんて魔力をこんなアホみたいなことに使ってやがる……!?)
アオイの強力な魔法から抜け出せないでいた。
流石にこのままでは不味い、と感じたのかアーデルヘルムは声を上げる!
「オイ!ローズ!!早く助けやがれッッ!!」
「………アオイさん、危ないッッ!!?」
ーーーーー瞬間、風を切るように魔力の紐が斬られる。
「やれやれ……こんな人間にやられるなんてみっともないですわよ、アーデルヘルム様。」
そこにはアーデルヘルムと同じ様に頭に角が生えている長身の女がいつの間にか立っていた。
そしてなんとかトーの援護によりアオイは距離を空ける。
……恐らくあの場に居たらアオイも魔力と同じく切り刻まれていたであろう、それほどの早業だ。
「うるせェ!!テメェは俺様の言うことだけ聞いてりゃいいんだよ!!」
そう言いながらようやくフラフラと地に足を付けるアーデルヘルム。
……恐らくこの様子からしてこの二人は魔族の主従関係と言った所だろうか……?
「はいはい………それよりゴミ処理場に置いてきたアレ、回収しに行かなくていいんですか?………失くしたらまぁた魔王様から怒られちゃいますよ??」
………主従関係にしては少しラフすぎる気もするが。
「ぐぐっ………それは……。」
ローズと呼ばれた女がクスクスと笑いながらアーデルヘルムを諭すように導く。
そしてその言葉に観念したかのように男は呟く。
「………チッ、覚えてろよ乳牛女。
今度会ったら絶対テメェを牧場送りにしてやるからヨォ?」
正に捨て台詞を吐くかのように意味深な言葉を残しつつも持ち前の翼でゴミ処理場の方角へと羽ばたくのであった………顔面血だらけになりながら。
「あら?そこに居るのは…………。
……フフッ、まぁ良いでしょう。」
同じく言葉を残しつつも主を追いかけるように羽ばたくローズ。
正に嵐が通りすぎたが如く静まり返る………一体何だったのであろうか?
ーーーーしかしそんな疑問など関係なく、アオイは自身を乳牛女と罵ったあの男への復讐で頭が一杯になるのであった………。




