19* -魔石-《イノチ》
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「おぉ!ホブゴブリンを討伐して頂けたのですかな…………?これはなんとお礼を申し上げてよいのやら…………。」
日も朱色に暮れかけた現在、アオイ達はドラブア通り村へ帰還し村の長らしき男へ討伐報告を行っていた。
とても困っていたのだろう。感謝、感謝の嵐にアオイは正直ドン引きをしていた。
「……それで、報酬は…………?」
「あぁ!!今回の報酬は結構ですので!!」
そんな態度に慌ててトーが横に入る。
当然納得いかない!!と言った様子で不満を露わにするアオイ。
そしてそんな様子を見て流石お姉さま!クズですわ!!と光悦する変態が居た。
「ホッホッホ…………安心なされ、報酬はギルドに渡してあるでな…………。
…………若い者は元気がよろしいですな…………昔はこの村も賑わっておったのだが、今や年寄りばかりの錆行く村よ。」
どこか寂しげに村を横目で眺める村長。
そんな様子も気にすることなくアオイはそんなのどうでもいいから、と言わんばかりに今夜泊まる宿を要求するのであった。
もちろん、宿は用意してあるので今日はゆっくりこの村で休んでいきなされ、と言葉を漏らしその場を去る村長。
「いやー、よかったね!じゃあ今日はもう休もう!!」
そう言ってパーティーに笑顔で言葉を投げるアオイであったが、一部の変態を除く者らからはどこか冷めた視線を受けていた…………。
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「さて、じゃあようやく落ち着いて話せる場も出来たことだし魔石のことについて説明しようか。」
そう言って話を切り出そうとするトーであったが…………。
「ーーー待って。いやおかしいでしょこれ!!!」
トー達が居るのは村の宿屋の一室、そこは何ら変哲もなく普通の宿屋だ。
しかしアオイが指摘する状況がおかしかった。
「なんで同じ部屋なのに一人だけキャンプっ!?
キャンプ物の漫画に影響受けてキャンプ用品買ったはいいものの、使う機会がなく部屋でテントとか張る人ですかッ!?!?」
そう、そこには部屋の端にテントを張りそこから顔だけ出しているトーが居た。
…………その光景はどこか異様である。
「いやいや、男であるボクがこんな美しい女性の部屋に同席するのはこわ…………じゃなかった。
失礼だからね、このテントからは一歩も出ないから安心して。」
そう言って眼鏡を光らせながらも震えるトー。
…………ここまで女性恐怖症が行くともはや病気だな、と呆れるアオイであった。
「トー様と横で休めないのは残念ですが…………ぐへへ、アオイお姉さまが居るから寂しくありませんわね!!」
「ちなみに私には性別はありませんので大丈夫ですよ。」
それを見ていたユリとナナがどうでも良い情報を呟きながら魔石についての話が始まる…………。
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「ごほん、さてまずは魔石についてだけど…………。」
そう言って先程のホブゴブリンの戦利品でもある魔石を出すトー。
アオイさん達はこの魔石、見たことはない?と問いかける。
「んー…………。何かどこかで見たことあるような無いような…………。」
頭を回転させながらも朧げな記憶を叩き起こすアオイに対し、トーはうんうんと頷く。
「まぁこの世界で生きていたら何度か見る機会はあるだろうね。
…………これは名前の通り魔力が詰まってる石、魔石。
魔法が使えない人間でもある程度魔法を行使できる石……それがこれだよ。」
みんな平等に魔法が使えれば良いのにね……。
そう呟くとトーは再びその魔石を握り締めるように懐へ戻すのであった。
そしてそんな様子も気にすることはなく、へーっと言ってトーの説明を退屈そうに聞き流すアオイ。
……彼の説明が正しければ魔石はこの世界での便利アイテム、と言った所だろう。
しかしその魔石と先程のホブゴブリンに一体どういう関係があるのだろうか?
アオイとは対照的に前向きなナナの問いにもトーはこう答える。
「魔石は本来、採掘場や古代の遺跡のような所でしか発掘されない希少な物なんだ。
それが何故かホブゴブリンから出てきた…………ここからは仮設の話になるんだけど、このホブゴブリンは意図的に作られたものではないかとボクは思う。」
誰が、何の為に?という疑問が振り撒くがユリも賛同したようにトーの言葉に追従する。
「あのホブゴブリンが作られたものなのは間違いありませんわ。手加減していたとはいえ、わたくしの一撃を受けて動けるなんて…………。
ごほん、それにまぁ明らかに様子が違いましたもの。」
そう、あの強烈な一撃で真っ二つになったモノが反撃を行うなど本来はあり得ない。
それがあるとすれば魔法で不可能も可能にする存在、魔石である。
(私は魔石の前にアンタの超人的な力が怖いんだけどね…………。)
ユリの言葉を聞きつつも内心ツッコミを入れるアオイであったが魔石についてはそれとなく理解するのであった。
しかし何故あんな所に…………?という疑問は絶えない。
そして一同が沈黙を貫く中…………。
「……私には関係ない話だし、もう寝る!!」
疲れた!!そう言ってアオイは沈黙を破りつつ静寂に浸るようにベッドへ横になる。
そんな姿に一同も毒を抜かれたのか、今日は一先ず休もうとアオイに続くように休息をとる一同。
ただトーだけが何か言いたげな様子ではあったが女の子の寝込みを襲うような度胸がない彼は渋々とテントへ顔を引っ込めるのであった…………。
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「って、何で私のベッドに入ってきてんのよーーーーッ!?!?!?」
ーーーーーあぁん!お姉さまのいけずぅ!!というユリのどこか嬉しそうな声とアオイの怒号が長い長い本日最後の締める言葉であった…………。




