18* -新境地-《ユリ》
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「あー、今まで我慢してたからスッキリしたッ!!」
そう言ってようやくユリへの仕返しを終えたアオイ。
……明らかに彼女が受けた嫌がらせより何倍もあったような気がするが。
そしてそれを一身に受け続けたユリであったがフルフル、と小刻みに肩を揺らしている。
恐怖で震えているのだろうか?流石に自分より年下の女の子を泣かせたことに罪悪感が湧き出してくるアオイであったが……。
「……………ッ!?!?!!」
ガバッ!と突如ユリがアオイへ抱き付く。
……どこか前世でも見覚えのある光景だ。
「ま、まってッ!?私も少しやり過ぎたから!!ごめん!だから………刺すのはもうやめてーーーーーッ!?!?」
前世での苦い記憶がフラッシュバックの様に鮮明に思い出す。
そして二度目の再起不能はごめんだと言わんばかりに距離を置こうとするがユリの馬鹿力で一向に離れる気配がない。
「こうなったら………先制攻撃だッ!!」
先制攻撃も何もアオイから手を出したような気もするが自衛の為に目の前にある小さな頭を、ゴンッ!と叩く。
…………しかし、ユリは倒れなかった。
いや、むしろ先程より震えと力が増しているようだがこれは……?
「……………ッわ。」
「へ………?何て……?」
「………流石ですわお姉様ーーーーーーーッッ!!!!」
そう言ってユリは更にアオイの胸に飛び込み愛しい人を崇めるかのようにスリスリと体を重ねる。
………まるで、これは…………。
「え、えぇーーーーーーッッ!?!?
………急にお姉様って、一体……?」
「フフフ………。仕返しとは名ばかりの執着なまでの暴力、暴力。そして怪我人相手にその躊躇の無さ。
…………先程のゲンコツで確認致しました。
正しくわたくしのお姉様に相応しいですわーーーーーーーッッ!!」
そう、ユリはアオイの見事なまでの鬼畜ぶりに惚れていた。
それもかなり重度のヤバさで、どっぷりと。
「……はぁぁっ?頭おかしいんじゃ…………。」
「えぇ、お姉様の愛でユリはもう可笑しくなってしまいそうですわ!
あぁ、お姉様。好き好き……。」
先程までいがみ合っていた相手から、まさかの愛の告白。
そしてその事実に思わず背筋を震わせるアオイであった。
…………ちなみに好きと嫌いの感情は紙一重とも言える。
何かをキッカケに嫌いになることもあれば、好きになることもあるだろう。
「そ、それにしたって!いくらなんでも心変わり早すぎでしょーーーーーーッ!?!!!?」
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その後、ユリからの求愛も何とか落ち着き距離を十二分に置いて警戒しながらも現状を確認するアオイ。
そもそも何故あの高さから落ちて二人とも無事だったのだろうか?
そしてこの穴の奥底の場は一体………?
考えれば考えるほど、疑問が湧きに沸きだすアオイであったがユリが沈黙を破るように言葉を漏らす。
「…………ここは大穴の底、通称深淵と呼ばれていますわ。
何でもこの世にない未知なる道が続いていると言われていますが、そもそもこんな場所に好き好んで行く人など居ませんから所詮ただの噂話だと思いますわ………。
……………あとお姉様、そんなに離れなくてもよろしいのでは……?」
ユリの説明になるほど、と相槌を打ちながらも後ずさるアオイ。
……どうやらこちらは違う意味での恐怖を感じているようだ。
「もう、そんなに離れたらここから出られませんわよ。お姉様!
………ホブゴブリンの件もありますし、早く上へ戻らないと。」
そう言って手を差し伸べるユリ。
これはまさか………。
「言っておきますけど違いますからねっ!?
……ここをひとっ飛びしてゴミ処理場へと戻るのですわ。」
「………へっ……?でも、この高さをどうやって………。」
今のわたくしなら、大丈夫ですわ。
とユリが呟くとアオイを抱き抱えるように担ぐ。
「さぁ……。行きますわよッッ!!!」
一体どういうこと……?
と言う疑問より早くユリが大地を蹴り震脚させる。
すると見えない何かが爆発したかと思うぐらいの衝撃で地から宙に舞う二人!
「え、えええええええぇッ!?!!?
浮いて……いや、昇ってる!?」
そう、答えはユリによる脚力からの上昇である。
何故こんな少女にこの様な芸当が出来るのか、そんな疑問すら置き去るように凄まじい速度で漆黒の崖を駆け上がっていくユリ。
するとようやく天からの光が差し込み出したかと思うと、最後の震脚。
一気に駆け上がりゴミ処理場へと帰還するであった…………。
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「し、死ぬかと思った………。てかアンタ、何者…………?」
ゴミ処理場への帰還後、恐怖と疑問を漏らすアオイ。
そしてユリは気にした様子もなく辺りを見回すが………。
「いない………?」
すると、おーいっ!と聞き覚えのある男の声が聞こえる。
そちらに視線を向かわせるとトーとナナが手を振りながらこちらへと駆けよって来た。
「よかった……!二人とも無事だったんだね!!」
「トー様こそ、ご無事で何よりですわっ!
………その、ホブゴブリンは……?」
そう、二人を突き落とした張本人とも言える巨漢の姿がない。
すると一瞬の沈黙の後トーが手を差し出し、何かを見せるように広げる。
その手にあるものは…………。
「…………宝石…………?」
トーの手に収まっていたそれは握りこぶしで収まる程の大きさの結晶。
その色は鈍く黒く光っているがどこか吸い込まれてしまいそうな魅力を感じる石だ。
「まぁ…………宝石、と言えば宝石なのかな……これは…………。」
「魔石、ですわね。」
トーの言葉を遮るようにピシャリと言い切るユリ。
そして二人ともお互いに顔を見合わせるように重い顔つきになる。
これは一体どういうことだろうか…………?
「………あの後、ホブゴブリンは力を使い果たした様にこの魔石になったんだ。」
「やはりそうでしたか…………何となく嫌な予感はしてはいましたが…………。」
何やらトーとユリの二人だけで会話が進んでいるようだが、アオイは何のことやらサッパリ分からないと言った様子で説明を請う。
「そもそも魔石って…………?」
「そうだね……アオイさんには話してもいいかな。その前に一旦村へ戻ろう。話はそれからでいいかな?」
ーーーーーこうしてゴミ処理場を後にする一同。
依頼は達成できたものの、どこか後味の悪さと疑問を残しながら村へ向かうのであった…………。
Tips!
いじめっ子はふとしたキッカケで恋愛に発展するケースが結構あるそうです。(※たぬき調べ)
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