1章. 10* -新天地-《オサライ》
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ここはケザーシュ大陸の中心部にある親米冒険者達が夢を見て集う街、トー平原街。
大陸の中心ということもあってから色んな大陸からひっきりなしに人が行き来をし、賑わいを増している街である。
そんな賑やかな街の中で一人、人の流れを不機嫌そうに大きな麻袋に座りながら眺める少女とそれに従う使い魔が居た…………。
「はぁ………………。こいつら全員、私の為に貢いでくれないかな…………。」
いきなりとんでもないクズ発言をするこの少女。名はアオイという。
「朝から相変わらず清々するクズっぷりでございますね、アオイ様」
そしてその発言に慣れた様子で相槌をうつ謎の生き物、ナナ。
「いやー、だってさぁ。女になってからやたらとジロジロ私の身体見てくる奴が多くてなんかもう腹立ってきてさ…………。
これはお金取るしかないじゃん??」
そう、この過激な発言をしている少女アオイ。元は少年であったのだがある事件により女になってしまったのである。
「いや……お金を取るとまた意味がややこしくなりそうなのでそれは控えた方が…………。」
ナナの発言に冗談だよ、冗談!と言ってその場を立ち上がるアオイ。
果たして本当に冗談だったのかは分からないが気持ちを切り替えたかのように次の話題を切り出す。
「女の身体になって一週間…………。色々手こずったがようやく少し慣れてきた所だしね…………!
この世界のことも分かってきたし、そろそろ良い行いをするとしますかッ!!!」
「そうですね、最初の頃は女性の身体に戸惑ってよく失敗されていましたしね…………。主にトイレで。」
具体的に一々言うなーーーッ!!!と顔を赤らめながら怒りを露わにするアオイ。
その恥じらいは傍から見たら少女そのものではあるが本人はどうやらまだその辺りは自覚がないようだ。
「…………ごほん。じゃあ取り合えず一週間、この異世界で分かったことをおさらいしようか。」
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「さて、まずこの異世界には分かってるだけで4つの大陸があることが分かった。
1つは最北にあるガストジネ要塞大陸という一番大きな大陸。
話でしか聞けなかったから詳しいことは分からないけど名前の通り武装派っぽい大陸だね。」
「そうですね、そしてその大陸にも魔王の配下がいるとか…………。」
そう、この異世界には先週女神が言ってた通り魔王という存在がある。
そして4つの大陸には魔王の配下がそれぞれ在住しているものの、争い事などは特に起きていない奇妙な世界でもあった。
「あぁ…………。あの女神が意味深なこと言ってたやつね…………。
てっきり魔王討伐の旅に出るものだと思ってたけど、この世界の人の話を聞くにはむしろ協力関係にあるっぽいしねぇ…………。」
「ふむ……。まぁ現時点で分からないことだらけなのは仕方ありませんね。」
そうナナが仕切り直すとヨシッ!と重い空気を払拭するようにアオイが次の説明に入る。
「……それでさっきのガストジネ要塞大陸の南に続いてるのが、死ノ国ケイフアル大陸ね。」
この大陸はいつからか光、という概念が無くなってしまい常闇の世界になってしまっている国だ。
ただ昔からそうだったワケではなく一昔前は普通の大陸であったようだ。
それがいつの間にか死ノ国……と呼ばれるほど暗い国になってしまっていた。
「…………なんか物騒だからなるべく関わりたくない大陸ではあるけどね…………。」
「……物騒と言えば、ケイフアル大陸より東にあるマナナンガ水流大陸も中々に厄介そうですね。」
そう、この大陸は名前の如く周りが激しい水流に囲まれており船などの海路はとてもではないが不可能である。
しかも陸路もなく海に囲まれている国でその姿はまさしく天然の要塞、と言った所だろう。
「でもどうやってそのマナナンガ大陸に行くんだろうなぁ…………。転移魔法は距離的に難しいみたいだし。」
ここ一週間で魔法を色々試していたアオイであったがどうやら大陸と大陸を跨ぐ程の距離の転移は無理であることを把握していた。
と言っても地方間の移動ぐらいは使えるので便利な魔法であることには間違いない。
「…………まぁ今は特に用はありませんしね。それで最後が最南に存在する、今我々が居る…………。」
ケザーシュ大陸だ。
こちらも海に囲まれている大陸ではあるが、ケイフアル大陸の最南端に橋が架かっており辛うじて大陸の繋がりがある国だ。
また、最近はこの国の領主が魔王の配下になったこともあり独裁国家と言われている。
「…………でも最初に独裁国家って聞いた時はギョッとしたけど特に問題もないみたいだしねぇ……。
何ていうか…………もっと理不尽に民を虐める悪い領主みたいなの想像してたからさ。」
「ふむ……。まぁモノは考えようなのかもしれませんね。独裁でも領主と民が納得しているのであればそれで国が成り立つのでしょう。
…………逆に民主主義を謳っている国でも民の意見が通らなければ独裁と変わりませんしね。」
ふーんっ、と私には関係ないけどね。と言わんばかりに興味をすぐ失うアオイ。
そして先程まで座っていた等身大程の麻袋を、よっ!と担ぐ歩み出す。
そう、この少女は国がどうなろうと知った事ではない。自分の身体を戻す為に旅を決意しているのだから。
あくまで全て自分の為、正に覇道だ。
ーーーーーーーそしてその覇道を突き進む為にアオイ達はとある場所へ向かうのであった…………。




