表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
1/1

逆行世界のアリス

「ねぇ?君が見ている世界と、私が見ている世界は本当に同じなのかな?君はそんな事を

考えたこと無い?私はね…」


「ん…うぅん…ふあぁぁ…、またか、最近よく見るな」

近頃見る様になった不思議な夢、始まりは覚えないがいつも終わりは同じ。

その先を見た事は無いし声の主の顔も分からない。

初めてあの夢を見たのはいつ頃だったか、ただ分るのは回数が増えた事と声が何処か懐かしい様な聞き覚えが有る気がする事と「カチッ!ピピッ!ピピッ!ピピッ!」

何故か毎回アラームの5分前に目が覚める事


(6:45)


「ふぅ…」

アラームを止めてカーテンを開けると、これでもかと見せつける程に青い空と春らしい羊雲が伸びた先に今まさに生まれ出た様な朝日が街を照らし出していた。

「寝坊してる訳じゃないしいいか」

間の抜けた独り言をついたついでに大きく深呼吸をしてから出掛ける準備を始める。

昨日と変わらない街の昨日と変わらない今日を唯々生きている、その事に不満も疑問も無く生活していた俺は家を出てバイクに跨る頃には夢の事も忘れていた。

今日は昨日と違う事にこの時はまだ知る由も無かった。恐怖の2120年3月20日晴れのち…?

ここは太陽系宇宙第三惑星地球国ニュージャパン州ネオ東京第4区学園都市住宅街区

いわゆる学園都市の学生寮区画だ。

この長い地名は、今から100年前のオリンピックがこの街(いや、その頃はまだ国だったのか)

で行われた後に、次世代に向けて国の垣根を無くして、地球を1つの国としようと言う元リーダーの掛け声で2100年、22世紀の始まりと共に変わったらしい。


人類は20世紀の終わりに核の炎で焼き尽くされる事も無く21世紀を迎え、超古代文明の終末論も潜り抜け、救世主が表れて恐怖の大魔王を打ち倒す事も無く、世界はテクノロジーを進化させて今の所順調に22世紀に続いて来たみたいだ。


(本日のスケジュール確認)

ヘルメットの右側スピーカーから聞きなれたアシスタントAIの音声が語り掛けてくる。

「おはよう、セラ」

セラ、これが俺のアシスタントAIの名前だ。

「おはよう、響、今日の予定は8:00から…」

アシスタントAIは今、一人一台必ず持つことが義務付けれていて個人ナンバーとリンクさせえて通信手段やメディカルチェック、デジタルウォレットの管理などを行ったりしてる。


「…の予定です。変更はありませんか?」

「大丈夫だ。新規メッセージは?」

「3件です」

「誰から?」

「DMが2件と差出人不明が1件です」

「DMは消去で、不明のメールを開いてみて」

「開けません、データがクラッシュしているか、デバイスが対応していません。」

「セラ、メッセージの種類は?」

「Eメールです。ドメインが不正使用の場合ウィルスチェックを行ってから開示します。」

「チェックして」

「終了しましたがデータが読み取れませんでした。」

「送信者も不明のまま?」

「はい。」

「送信日時は?」

「2023年8月13日AM11時38分です。」

「え?」

「エラーでしょうか?」

「サーバーに何かエラー情報は出てる?」

「検索中です。」


AM7時42分


時間が無いか。

「セラ、メッセージを保存しておいて」

「承知しました。」


「ゲートの承認完了、安全運転で通行してください」

「了解」

「ゲートを通過しました。」

「停車場所は?」

「A3区24番です」

「ここからグラウンドに向かうからオートに変更して?」

「了解しました。行ってらっしゃい響」


バ俺はイクをオートパイロットに切り替えてグラウンドに向かった。



7時50分

ここは学園都市の中心部、その名の通り学舎地区。

ここは小学校から大学院。その他俺の通う私立軍隊の養成所等も有る。

そして今居るのが株式会社T.G.F(トーキョーガーディアンフォース)の訓練校だ。


昔は国が軍隊を持っていたが統一国家になった時に大半の軍人が退役となり、私設軍が治安維持にあたっている。

俺の在籍するT.G.Fはこの地区で最初に自警団から傭兵までの仕組みを作った会社でいわば老舗だ。


今日は初級から中級への昇級試験2日目、実地試験の日。

集合時間にはまだ早いが集合場所のグラウンドには既に試験を待つ者たちが居た。

皆それぞれに持ち物や装備の確認に余念が無い。

俺もまだ人がまばらなターミナルで試験の手続きを済ませた。


「おはようございます、氏名と階級をどうぞ」

ターミナルの人工的な声に

「星野響、初級」と答えると、

「星野響、16歳、中級試験2日目ですね?」

アナウンスの後画面にポップアップで

(YESorNO)

と表示される。

YESをタッチすると「リーダーに端末をセットしてください」と指示があった。

指示通りに端末をセットすると

「試験内容を確認しています、暫くお待ちください」

と、アナウンスがある。

「確認しました、集合場所に向かってください」のアナウンスで端末を取りグラウンドに向かう。


グラウンドが見えてくると1人の男子が手を振って走ってくる。

同じ班で幼なじみの間宮慎司だ。

「おはよう!昨日は眠れた?」

「おはよう、まぁいつも通りだ。慎司は大丈夫か?」

彼は少し気が弱い所が有る。

今日も目の下にクマを作っているのが気になる。

「あはは、まぁいつも通りだよ。」

「落ち着いて行けば楽勝だろ、気負いすぎるなよ」

自分自身にも言い聞かせるように聞こえたが彼は素直に頷いた。

その後も試験内容や作戦などを話し合って居ると残りの2人も出社してきた。


(8:30AM)

「各班指定の車両に乗り移動開始!」

校内放送から試験開始の号令、俺たちのチームは6番の装甲車に乗り込んだ。

車内には自分たちが指定した武具と担当官が乗っていた。

「おはようございます。」

俺たちは見慣れた顔に挨拶をして席に着いたと同時に車は試験場へ走り出した。


第2区行政区域、司法タワー周辺

「目的地まで約5分、各員装備の確認はいいか?」

輸送部隊から無線がインカムから聞こえた。

「訓練生4名、準備完了です」

チームメイトの顔を見回して頷く。

「1年の仕上げだ、死なない事だけをまずは考える様に。これは試験という名の実戦だ」

そういうと担当官は立ち上がり更に続けた。

「お前たち4人の担任になった1年前とは顔つきも変わった、だがまだまだ教える事は山程有る。1人も脱落する事無くこの車に戻って来い!これは命令だ!」

「はい!」

砂煙を上げて訓練生を乗せた装甲車20台が司法タワー前に停まり、ハッチが開かれる。

「作戦開始」

教官の号令で俺たちは飛び出して行った。

「慎司、真紀、純。このまま一気にエントランスまで抜けるぞ」

タワー前では他社の軍隊とテロリストの戦闘が起きている中を入口めがけて走り抜け、タワー内へ侵入に成功した。

「ここからが本番ね?」

純が呟くように言った。

それに続き

「大丈夫、やれるよ」

と、真紀も自分を奮い立たせた。

初めての実践。

誰もが緊張している。

まずは落ち着いて状況とルートの確認をしよう。

「セラ!マップにルートを合わせてくれ。慎司はソナーで周辺索敵を頼む」

「了解」

「真紀はトラップの確認、純は俺と先に進むぞ」

「了解」

「ラジャー」

「慎司、状況は?」

「ルート上敵影無し」

「トラップも無し」

「了解。純、50M進むぞ」

「2人は合図したら進んでくれ」

「了解」

しばらく注意深く進んで行くと違和感に気付いた。

「静かすぎないか?」

慎司が言った。

確かに静かだ、テロが起きてジャックされて軍隊が制圧に出て、来てたのに外と違い争った様子が無い。

むしろ外の戦闘がカモフラージュの様にも思える。

「セラ、作戦内容の確認だが俺達は地下20階を目指せばいいんだよな?」

「はい、変更はありません」

「気を付けて!電磁パルスが来る!」真紀の声がホールに響いた次の瞬間俺達を中心に空間が歪む程の磁場が発生し一気に拡がり辺りを包み込んだ。

「大丈夫か!応答せよ「ねぇ?君が見ている世界と、私が見ている世界は本当に同じなのかな?君はそんな事を

考えたこと無い?私はね…」


「ん…うぅん…ふあぁぁ…、またか、最近よく見るな」

近頃見る様になった不思議な夢、始まりは覚えないがいつも終わりは同じ。

その先を見た事は無いし声の主の顔も分からない。

初めてあの夢を見たのはいつ頃だったか、ただ分るのは回数が増えた事と声が何処か懐かしい様な聞き覚えが有る気がする事と「カチッ!ピピッ!ピピッ!ピピッ!」

何故か毎回アラームの5分前に目が覚める事


(6:45)


「ふぅ…」

アラームを止めてカーテンを開けると、これでもかと見せつける程に青い空と春らしい羊雲が伸びた先に今まさに生まれ出た様な朝日が街を照らし出していた。

「寝坊してる訳じゃないしいいか」

間の抜けた独り言をついたついでに大きく深呼吸をしてから出掛ける準備を始める。

昨日と変わらない街の昨日と変わらない今日を唯々生きている、その事に不満も疑問も無く生活していた俺は家を出てバイクに跨る頃には夢の事も忘れていた。

今日は昨日と違う事にこの時はまだ知る由も無かった。恐怖の2120年3月20日晴れのち…?

ここは太陽系宇宙第三惑星地球国ニュージャパン州ネオ東京第4区学園都市住宅街区

いわゆる学園都市の学生寮区画だ。

この長い地名は、今から100年前のオリンピックがこの街(いや、その頃はまだ国だったのか)

で行われた後に、次世代に向けて国の垣根を無くして、地球を1つの国としようと言う元リーダーの掛け声で2100年、22世紀の始まりと共に変わったらしい。


人類は20世紀の終わりに核の炎で焼き尽くされる事も無く21世紀を迎え、超古代文明の終末論も潜り抜け、救世主が表れて恐怖の大魔王を打ち倒す事も無く、世界はテクノロジーを進化させて今の所順調に22世紀に続いて来たみたいだ。


(本日のスケジュール確認)

ヘルメットの右側スピーカーから聞きなれたアシスタントAIの音声が語り掛けてくる。

「おはよう、セラ」

セラ、これが俺のアシスタントAIの名前だ。

「おはよう、響、今日の予定は8:00から…」

アシスタントAIは今、一人一台必ず持つことが義務付けれていて個人ナンバーとリンクさせえて通信手段やメディカルチェック、デジタルウォレットの管理などを行ったりしてる。


「…の予定です。変更はありませんか?」

「大丈夫だ。新規メッセージは?」

「3件です」

「誰から?」

「DMが2件と差出人不明が1件です」

「DMは消去で、不明のメールを開いてみて」

「開けません、データがクラッシュしているか、デバイスが対応していません。」

「セラ、メッセージの種類は?」

「Eメールです。ドメインが不正使用の場合ウィルスチェックを行ってから開示します。」

「チェックして」

「終了しましたがデータが読み取れませんでした。」

「送信者も不明のまま?」

「はい。」

「送信日時は?」

「2023年8月13日AM11時38分です。」

「え?」

「エラーでしょうか?」

「サーバーに何かエラー情報は出てる?」

「検索中です。」


AM7時42分


時間が無いか。

「セラ、メッセージを保存しておいて」

「承知しました。」


「ゲートの承認完了、安全運転で通行してください」

「了解」

「ゲートを通過しました。」

「停車場所は?」

「A3区24番です」

「ここからグラウンドに向かうからオートに変更して?」

「了解しました。行ってらっしゃい響」


バ俺はイクをオートパイロットに切り替えてグラウンドに向かった。



7時50分

ここは学園都市の中心部、その名の通り学舎地区。

ここは小学校から大学院。その他俺の通う私立軍隊の養成所等も有る。

そして今居るのが株式会社T.G.F(トーキョーガーディアンフォース)の訓練校だ。


昔は国が軍隊を持っていたが統一国家になった時に大半の軍人が退役となり、私設軍が治安維持にあたっている。

俺の在籍するT.G.Fはこの地区で最初に自警団から傭兵までの仕組みを作った会社でいわば老舗だ。


今日は初級から中級への昇級試験2日目、実地試験の日。

集合時間にはまだ早いが集合場所のグラウンドには既に試験を待つ者たちが居た。

皆それぞれに持ち物や装備の確認に余念が無い。

俺もまだ人がまばらなターミナルで試験の手続きを済ませた。


「おはようございます、氏名と階級をどうぞ」

ターミナルの人工的な声に

「星野響、初級」と答えると、

「星野響、16歳、中級試験2日目ですね?」

アナウンスの後画面にポップアップで

(YESorNO)

と表示される。

YESをタッチすると「リーダーに端末をセットしてください」と指示があった。

指示通りに端末をセットすると

「試験内容を確認しています、暫くお待ちください」

と、アナウンスがある。

「確認しました、集合場所に向かってください」のアナウンスで端末を取りグラウンドに向かう。


グラウンドが見えてくると1人の男子が手を振って走ってくる。

同じ班で幼なじみの間宮慎司だ。

「おはよう!昨日は眠れた?」

「おはよう、まぁいつも通りだ。慎司は大丈夫か?」

彼は少し気が弱い所が有る。

今日も目の下にクマを作っているのが気になる。

「あはは、まぁいつも通りだよ。」

「落ち着いて行けば楽勝だろ、気負いすぎるなよ」

自分自身にも言い聞かせるように聞こえたが彼は素直に頷いた。

その後も試験内容や作戦などを話し合って居ると残りの2人も出社してきた。


(8:30AM)

「各班指定の車両に乗り移動開始!」

校内放送から試験開始の号令、俺たちのチームは6番の装甲車に乗り込んだ。

車内には自分たちが指定した武具と担当官が乗っていた。

「おはようございます。」

俺たちは見慣れた顔に挨拶をして席に着いたと同時に車は試験場へ走り出した。


第2区行政区域、司法タワー周辺

「目的地まで約5分、各員装備の確認はいいか?」

輸送部隊から無線がインカムから聞こえた。

「訓練生4名、準備完了です」

チームメイトの顔を見回して頷く。

「1年の仕上げだ、死なない事だけをまずは考える様に。これは試験という名の実戦だ」

そういうと担当官は立ち上がり更に続けた。

「お前たち4人の担任になった1年前とは顔つきも変わった、だがまだまだ教える事は山程有る。1人も脱落する事無くこの車に戻って来い!これは命令だ!」

「はい!」

砂煙を上げて訓練生を乗せた装甲車20台が司法タワー前に停まり、ハッチが開かれる。

「作戦開始」

教官の号令で俺たちは飛び出して行った。

「慎司、真紀、純。このまま一気にエントランスまで抜けるぞ」

タワー前では他社の軍隊とテロリストの戦闘が起きている中を入口めがけて走り抜け、タワー内へ侵入に成功した。

「ここからが本番ね?」

純が呟くように言った。

それに続き

「大丈夫、やれるよ」

と、真紀も自分を奮い立たせた。

初めての実践。

誰もが緊張している。

まずは落ち着いて状況とルートの確認をしよう。

「セラ!マップにルートを合わせてくれ。慎司はソナーで周辺索敵を頼む」

「了解」

「真紀はトラップの確認、純は俺と先に進むぞ」

「了解」

「ラジャー」

「慎司、状況は?」

「ルート上敵影無し」

「トラップも無し」

「了解。純、50M進むぞ」

「2人は合図したら進んでくれ」

「了解」

しばらく注意深く進んで行くと違和感に気付いた。

「静かすぎないか?」

慎司が言った。

確かに静かだ、テロが起きてジャックされて軍隊が制圧に出て、来てたのに外と違い争った様子が無い。

むしろ外の戦闘がカモフラージュの様にも思える。

「セラ、作戦内容の確認だが俺達は地下20階を目指せばいいんだよな?」

「はい、変更はありません」

「気を付けて!電磁パルスが来る!」真紀の声がホールに響いた次の瞬間俺達を中心に空間が歪む程の磁場が発生し一気に拡がり辺りを包み込んだ。

「大丈夫か!応答!Fチーム!応答せよ!」

教官の声がインカムから聞こえる。

ハッと我に返り仲間の状況を確認して

「こちら、Fチーム全員無事です」と、答えた。

その後教官から作戦終了の知らせが有り帰還した。


どうやらテロリストの首謀者が拘束されたようだ。

本当にそれでこの事件は終わったのか、一瞬だったが重力場の中に人影を見た気がしたが、ほかの3人は気付かなかったらしい。

セラもEMSでダウンしているため映像が無いらしい。

他のアシスタントAIも同様にシステムダウンをしていたようだ。

あれはトラップなんかじゃない、何故かそう思った。

朝から変な事が起きる日だと考えていたら、メールの事を思い出した。

ここにはエンジニアの真紀が居ることを思い出した。

「真紀、すまないが帰ったらこのメールを調べてくれないか?」

「何このメール?ドメインも不明だし、送信日が2023年8月って…」

真紀の冷たい視線が刺さる。

「今朝届いてたんだ。ウィルスチェックはしてあるが100%信用できない、データがクラッシュしてる可能性もあるって」

ふーん…と興味なさそうな顔をしてるが相当気になっている様だ。

口元が緩むのを堪えて居るのがバレバレだ。

と、そんなこんなで俺たちの試験は無事に終わりを迎えた。

教室の席について合否待ちをしていると教官が入ってきた。

「全員着席!これから合格者の発表を行う。各自デスクトップにファイルを送ってある。その中にこの教室以外が書かれていた場合は不合格となるので指定の教室に向かうように」

自分の机のデスクトップのファイルにカーソルを合わせて深呼吸をして開いた。


[1-F中級昇格おめでとう]


合格通知だった。

これでチームリーダーの荷が下りた気分だ。


ランク変更手続き等を済ませ、西日が沈みかけた頃、真紀から連絡が来た。

さっき頼んだメールの件だ。

早速内容をぉぉも教室に入ると、そこには慎司と純も来ていた。


「わるい、待たせたか?」


軽く手を上げながら近づくと

「動かないで」

真紀の声に驚いた俺はその場に立ち尽くした。

「ど、どうした?」

「端末とディバイス、セラが動かせる物を総てそこに置いて」

「なんだよ急に」

「いいから」

三人の顔が試験の時よりも緊張している。

「わ、わかったよ。置くからそんなに睨むなよ」

近くの机にディバイスと端末、インカムとアイサイト等、

無線有線関わらずセラの管理下に有る物を総て外して並べた。


「これで全部だ」

「本当に?」

「あぁ」

「大丈夫、本当みたい」

純がスキャンしていた様で

「わかった、手を上げてゆっくりこっちに来て」

「あ、あぁ」

相手を刺激しない様にゆっくり近付く。

「もういいのか?」

「後ろを向いて」

「何だよ」

「武器もないみたいね」

「当たり前だろ」

「そうでもないのよ」

「ちゃんと説明してくれ」

「セラがハッキングされてる可能性が有るの」

そんなはずは無い。

何を言ってるんだ、何時何処で誰に…

そんな事ばかりが頭の中を埋め尽くす。


「…響。良く聞いて?まだ決まった訳じゃないの。

さっきのメールを調べていたら過去のウィルスソフトに反応があったの」

そう言うと真紀は自分の端末を操作して俺に見せる。

「そこから追って行ったら試験の時のEMS発生源に辿り着いたの…。何処だと思う?」


真紀のデスクトップには良く知る景色が見た事無い角度から映し出されている。

「俺の部屋?」

「そう、あなたのPCよ」

「嘘…だろ?誰が何の為に?」

「わからないけど、イタズラじゃ済まないレベルね」

「セ、セラはどうなるんだ?」

「スキャンしてみないと何とも」

「頼む。何とかして助けてくれ」

「最悪の場合、覚悟は出来てるのね?」

「あぁ」

「じゃあ一番プロテクトが強そうなT・G・Fの兵証にセラを移して此処へ持って来て」

「セラはまだ気付いてないのか?」

「多分ね。でも時間の問題よ」

「帰ってマスタに接続すればここからハッキングを掛けた事に気付くしセルフスキャンもすると思う」

「わかった…宜しく頼む」

セラをブレスレット端末に移して真紀に預けた。


… … … … …


どれ位経っただろう。

ふと窓の外を見ると夕日が最後の輝きを消す所だった。

「響、セラのスキャンが終わったみたいだよ?」

慎司が後ろから声を掛けて来た。

「ありがとう」

慎司に礼を言いながら真紀の元へ向かった。

「どうだ?」

力無く真紀に聞くと

「何とかまだ間に合うけどPCは完全に潰さなきゃならないわね」

「セラが残るならそれでいい」

セラは俺にとって特別な存在なんだ。

「助けてくれ」

真紀の肩を強く掴んでいた。

「分かったわ。これからマスタとのリンクを完全にパージするからスリープモードにして」

「わかった…」

ウィンドウを開きスリープを実行する。

次にリブートが掛かっても特に変化は無いだろう。

今日より前の記憶バックアップが無くなるだけだ…。


「パージ完了、後はリブートを掛ければ終わりね」

真紀がそう言いながら立ち上がり軽く伸びをした。

「ありがとう」

俺は真紀に礼を言って

「えぇ」

と、真紀も短く返した。


丁度下校時刻のチャイムが鳴り教室に担任の教官が入って来た。

「何だお前らまだ残ってたのか?早く帰りなさい」

教官としては当たり前の差し障りない言葉に全員が違和感を覚えた。

普段なら早く帰れなんて言わないで、真っ先に「何してるんだ?」と興味津々で仲間に入ろうとする。

何かがおかしい。

しかも、教官服では無く、対テロ対策用の戦闘服を着ている。

「何かあったんですか?」

「お前たちには関係ない。早く帰りなさい」

そりゃ何も教えてくれる訳ないか。

予想外のエンカウントだったのだろう。

「了解しました。片づけてから帰ります」

少し粘って何かを掴もうとすると

「私が片付けておくから今すぐ教室から出なさ…」


ガッシャーン!!


教官が言い終わるか終わらないかギリギリの所で教室後方の窓が割れ何かが飛び込んで来た。

と、同時に緊急アラートが校内に響き渡る。

テロか?

敵襲か?

いや、内部に侵入された事が最重要案件だ。

俺達4人は見えない敵の攻撃に備えて背中合わせで周囲に警戒した。

正体不明の侵入者から遅れる事数秒後、校舎の窓の防弾シャッターが降りた。

「緊急事態発生!緊急事態発生!コード07、武器庫をロックします。コード07、武器庫をロックします」

敵侵入時のアラートだ。

敵の手の内も分からず、こちらの装備は慎司の可段式電子警棒と、真紀と純の持つデリンジャー、俺に至っては丸腰だ。

準戦闘服の先生なら対抗出来るかも知れないと、入り口側を見ると教官がSMGを構えてこちらに走り出していた。

援護射撃を期待したが銃口は明らかに俺達を狙っている。

「伏せろ!」

俺の号令に3人は机の陰に入った。


パッパッパッパッパッ!!


乾いた破裂音の混じって壁や天井に打ち込まれる弾丸の音。

「ダンッ!!」

銃声が止むのと同時に腹の底に響く様な鈍い音が教室に響いた。

次の瞬間何かが崩れるような「グシャッ」という音が続いて聞こえた。

一瞬の静寂の後、頭上を1つの影が風の様に通り過ぎた。

「カチャッ」

倒れた教官であろう塊に音も無い影が銃口を向けてトリガーに指を掛けて引いた。

『ズダンッ!!』

先ほどより重みを増した怒号のような銃声が教室に響いた。

「任務完了」

痺れた鼓膜が微かにそう捉えた音に俺は無意識に慎司の警棒を奪い取った。

殺される、何もしなければ次は俺たちが殺される。

唯それだけしか考えられなかった。

目の前の前の敵に向かい一撃を入れた後、気付いたら目の前には暗い天井と、それよりも暗い銃口と知らない靴底があった。

「ちっガキと遊んでる暇なんて無いんだよ」

殺される。

そう思い固く瞼を閉じたその時

「そこまで」

「両手を上げてゆっくり立ち上がれ」

恐る恐る目を開けると教室の明かりが眩しかった。

男は不貞腐れたように手を上げて立ち上がる。

「そこの君大丈夫かい?」

聞き覚えのある声が俺に向かって聞いて来た。

「はい、大丈夫です」

その場で立ち上がって見せたが、「ゲフッ」

吐血と共に膝から崩れ落ちた。

「安心しろ、アバラが2本程度折れただけだ。死にはしない」

「おいおい、不意打ちだからって折る事は無いだろ」

「あぁ?暗くて良く見えなかったんだ。すまんな」

え?

何だこの状況は。

何が起きてるんだ?

アラートも消えている。

教官が殺されて、返り討ちに有って…

あの声は、「社長…?」

間違い無い。

(株)T.G.F社長

時任虎徹司令だ。

「そっちの3人はケガは無いかい?怖かっただろうに」

柔らかい笑顔で仲間達に声を掛ける。

皆無事なようだと分かると一気に力が抜ける。

「ドサッ」

「響!!」

3人が駆け寄ってくる。

「大丈夫だ、安心したら力が抜けただけだ」

半笑いで言ったがマジで痛い。

「軍人だろ情けね俺達をコノヤロー、マジでいつかぶっ飛ばしてやる。

「大体お前は静かに帰ってこれないのか?毎回騒ぎを起こしやがって。そんなんだから嫁に来る奴が居ないんだよってセイラがよく言ってるだろ」

セイラ?

こいつは誰だ?

「関係ねぇし、言われた覚えもない」

「そろそろ大人になれよ、竜」

ため息交じりに虎徹が言った。

「あ、悪い悪い。みんなに説明してなかったね。こんなとこじゃなんだし場所を変えよう」

そう言うと虎徹は隊員に指示を出して応接室に案内してくれた。



(株)T.G.F学園都市支部訓練校教官棟5階応接室

「じゃあまずはケガの手当てしながら聞いてくれ」

改まって虎徹が話し始めた。

「では、私の事は知っていると思おうが一応おさらいの為に自己紹介から始めよう。私は時任虎徹、ここ(株)T.G.Fの社長で有り、総司令だ。そして、そこのがT.G.FのNo2君達傭兵部隊の隊長でもある、楠木竜晴大佐だ。君達が知らないのも無理は無いかな。ここ数年単独で任務に当たっていたからね」


純にケガの手当てをしてもらいながら聞いていた。

楠木竜晴、No2が何で教官を殺した?そもそも何で教官は俺達を狙った?

「何故自分たちが狙われて、教官が殺されたかだろう?」

考えを読まれてハッとした。

「いや、普通そう考えるだろうと思っただけだ。不思議な事じゃ無い」

「それより」

一つ咳払いをして虎徹が続けた。

「さっき君達を襲ったのは、本当に君達の担任の等々力先生だったか?」

皆何を言われているのか分からないという顔で見合わせる。

「と、言うと?」

慎司が切り出した。

「先程竜が撃破したターゲットの残骸の写真だ」

スクリーンに映像が映し出された。

「こ、これは?」

「そう、ヒューマノイドだ」

その声に俺達は一斉に振り返ると、入り口から等々力先生が入って来た。

「俺とした事が、迂闊にも捕えられてすり替えられてしまった」

と、申し訳なさそうに頭を掻きながら続けた。

「そして外部と連絡が取れない場所に隔離されていた所を大佐に見付けて貰ったのだ」

詳しく聞くと他にも捕えられていたらしいが、見張りの兵も何も無かったらしい。

しかし、食事は毎回運ばれて来て、大佐曰く誰かが殺された様子も無かったらしい。

正体も目的分からないがアジトと捕虜を見つけたから一時帰還したらしい。

そうしたら偽物と接触している訓練生を見付け、都合よく救助窓が有ったから飛び込んだらこうなったそうだ。

「何故ケータイなり無線なりを使わないんだ」

虎徹が呆れた様に言うと、

「あ?これか?」

恐らく元はケータイか無線だったらしい残骸が大佐のポケットから出て来た。

さすがに言葉にならなかったらしく虎徹はボソッっと「ゴリラめ」と呟いた。

落ち込んだ様子の虎徹に等々力が記憶媒体の様な物を渡した。

「司令、これを。捕えられていた場所の内部を探っていたら見付けました。また、建物も内部もどうも現代の物では違うと言うか、デザインが古いと言いますか、全体的に全世代の物という感じがしました。まるで、タイムスリップでもしたような…」

等々力の一言に、一同は黙り込んだ。

「タイムスリップ」「タイムリープ」「タイムマシン」

これらの時間移動説は現在ではタブーとされている。

「エーテルドライブの暴走」

2055年3月21日

旧日本のある山岳地の地中深くで世界中の科学者達が熱中していた「直線型超加速装置」、今までのドーナツ型に比べ効率的に結果が出せると読んでいたが、この日、装置の暴走で人類史上最悪の事故が起きた。

日本列島の函館から群馬までが一瞬で次元の彼方へ飲み込まれた。

不明者およそ3000万人を超す大事故の果てに量子力学の専門家や物理学の学会などから「次元を探るにはまだ人類は幼すぎた。この日、月は地球を裏切った」と残している。

それから空には第2の月が浮かび、未知の文明「月人」(げっと)と出会う事になった。




評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ