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派遣聖女2〜クラブのママ〜

作者: 神楽

エプロンおばちゃん聖女により、森の広がりは収まってから早150年。

ボルテノバ大陸は四つの大国を中心に交易を広げつつ、相変わらず魔の森からの魔獣とも戦っていた。

この間変わったのは、奇跡を成し遂げた賢者の一族をどう自国に引き込もうかと策を繰り広げていたが、生粋の引きこもり一族。お金、地位、名誉、異性。どんな極上の餌を用意しても、そう簡単には表舞台に出てきてはくれなかった。


そこで、出て来てくれないならばと、自分達の方から郷を訪ね、知識を得ようとしたが、それなりに知識をもっているという自信は着いて早々木っ端微塵にへし折られた。

この一族、新たな数式を発見し、太古の文字を復活させ、組み合わせ、独自の魔法を生み出していた。何を言っているかさっぱりついていけず、結果、子供達と一緒に一から共に学びはじめたのだ。

教壇に立つ先生は何故か既婚のマダム達で、皆名札付きのエプロンをしていた。

大人達の大部分はアメチャン開発の為、素材採取と研究組に殆どが割かれていた。

地頭が違うのか、子供の頭が柔らかいからなのか、共に学びはじめた子供達が中等学校に上がってもまだ初等学校を卒業出来なかったりもした。

そんなこんなで、なんとか食らい付き、得た知識をどんどん自国に伝えていった。

だが、大人組の話には依然さっぱり理解出来ず、訳のわからない数字と文字の組み合わせで吐きそうになり、やはり変人一族だと納得した。


そのような中、頭の出来上がった大人より子供達を送り込んだほうがいいんじゃね?と気付き、地頭が良さそうな各国の王族と高位貴族の教育前の男児達を試しに郷の子供達に混ぜると、頭の出来上がった大人より吸収がうんと早い事がわかり、これまでの努力をけちょんけちょんにパパっと流され遠い目になった。

郷の子供達に及ばずながらも何とか付いていき、郷の子供達が学んだ魔法で遊んでいる中、各国の子供達は協力し合ってその日の課題を終わらせる事により、同じ苦労を背負い、同じ釜の飯を食らい、生涯の友を得た。


この郷で学んだ子供達が大人になり、それぞれの国の教育者として学校で教え始めた事により、グンと魔法の威力が上がり、魔獣を倒すのも今までよりやりやすくなったのだ。


この事からどんどん賢そうな子達をお金を払い郷に留学させている。

このお金はほぼアメチャン開発に当てられていた為、開発研究室がどんどん立派になっていった。

そして、遂に、魔力回復薬より先に、副産物で出来た体力回復薬がエナチャンとして市場に出回り、世間の話題を掻っ攫い、やはり変人一族だと知らしめた。



郷から持ち帰った知識により、魔獣討伐にあたる戦士達が力をつけて素材をいい状態で市場に出したり、変人、いや、賢者一族から副産物として発表された土地の栄養が上がるフヨウチャンにより、以前より格段に質も収穫量も上がった作物。魔獣からとれる肉や皮などの素材が出回り、それらを使った新商品のお陰で市場経済がぐるんぐるんと回ったが、いい事ばかりではなかった。支配階級の貴族達がよりお金を持ち、図に乗り、より高飛車になり、平民との貧困の差、差別がより激しくなっていってしまった。



そんな中、ある王城の豪華な一室に数名の見目麗しい青年達が集まっていた。この者達は国は違えど、3つ位の頃より共に賢者の郷で苦楽を共にしてきた仲間達だ。切磋琢磨し合い、同じ環境で育った仲で血の繋がった兄弟よりもより兄弟らしかった。帰還命令に従い、それぞれが国元に戻っても仲は変わらなかったので、郷との環境との違いに愚痴を言い合う為、意見交換会と称して都合の合う者同士でよく集まったりしていた。

半年に一度は郷の同世代の友にも数名来てもらい、自分達より賢い者にも愚痴を聞いてもらったりした。

その結果、若者が集まるところに良からぬ企みが生まれ、大人達に内緒で世の中を正す為に聖女召喚をやってみようという事になった。

集まった中に里長の孫もいた為、叡智の結晶、聖女召喚の一冊が読み放題だった。


そして、コソコソと2年と7ヶ月の歳月をかけて2回目の聖女召喚の儀が行われた。



伝承通り、天から落ちる光と共に現れたのは見慣れぬ衣装と髪型をした色気のある綺麗な女性と、品のある黒い衣装を身に纏った男性だった。


そう、今回召喚されたのはホステスのママさんと共に閉店後、店のバーカウターで一杯やりながら本日の売り上げ計算をしていた店長だった。

未熟な者達によりバーカウターごと召喚されてしまったのだ。

ある程度お酒が入って、ほろ酔い気分の大人な関係な2人が、


「あらやだ店長、これってお店の子達が言ってた召喚てやつかしら?」

「ママもそう思います?ハハハッ!こんな事本当にあるんですね!いやあ、皆男前で、このメンツでホストクラブ開いたら間違い無く繁盛しますね!」

「本当ね、綺麗な男の子ばかりで、連れて帰りたくなるわ。」

「ママ、いくら綺麗な子達でも、俺の事も忘れないで下さいよ?」

「やあね、ヤキモチ?可愛いわね。あなたの事忘れる訳ないでしょう?

折角だから、昔とった杵柄で、この子達にお酒作ってあげてちょうだい。

私、おつまみ用意するわ。」


さあ、座って、座って。とムーディな空気を撒き散らしながらカウンター席に座らせ、座れなかった者達には部屋の端に寄せてあった豪華なソファセットをカウンター近くに用意し、即席、異世界版『club sanatio』がオープンした。


ママは話を聞きながら適度に相槌をうち、頭や背中を撫で、相手の吐き出したい事を吐き出させながらも自然とお酒を勧め、グラスの汗を拭き、始終聞き役に徹した。この道で高卒から食ってきた聞き上手が相手だ。一度吐き出したら次から次へと愚痴が出てきた。


一方の店長はワインソムリエの資格を持ち、若い頃に培ったバーテンダーの腕を存分に奮って好みのお酒を作り、ママが用意したつまみの補充をしながら席を回り、鬱憤が溜まりまくってる若者の肩を叩き、力の入り過ぎを霧散させていった。


この間、2人は

「そうなのね。」「わかるぞ。」「酷いわ。」「勝手だな。」

と、同調してくれ、

「凄いわ。」「頑張ってきな。」「偉いわ。」「立派だぞ。」

と、肯定してくれた。


そして、我が強過ぎるのも孤立する事。強く出来過ぎるのも反感を食らう事。賢い子達だからこそ憤っている事も認め、事を成すにも擬態が必要だと語った。

自分達とて、今だに勉強中だ。人生経験から得たコミュニケーション能力を伝え、あなた達ならまず世論を味方に付けるのが一番だと説いた。がむしゃらに頑張ってる姿は必ず人の目にとまる。そういう人には自然と人は集まると。人の上に立つ者に必要なカリスマ性を持ちなさい。と。


いくら権力やお金はあっても、身分的にも人脈には敵わない。その築いた人脈を広げて同士を増やし、噂を利用して根回しをし、世論をこっちに誘導させるのよ。と。


「これまで沢山お勉強してきたけど、これからは社会のお勉強ね。あなた達ならやれるわ。

驕らず、比べず、謙虚に。これを忘れなかったら世の中を少しづつでも変えていけるわ。

あなた達には権力もお金もある。その親からタダでもらった綺麗な顔を最大限に利用出来る。

まず、女性を味方に付けるのがおススメよ。

綺麗な顔を生かして、福祉に力を入れている女性が好みだとか、平民のような暖かい家族が欲しいとか、子供好きの家庭的な伴侶がいいとか噂を流してみなさい。それだけでも流れが変わるわよ?

女性の横繋がりを見誤ってはダメよ。

口だけの男に成り下りたくないとか、真摯に一言添えて、でも、少し味方が少なくて心細いように振る舞うの。これでもうイチコロよ!

いつの世も流行を生み出すのは女性なの。

お茶会とか開いて、産地の特産物から話を広げて新たに新商品を開発してもらえば雇用も生まれるわ。

その賢い頭があれば出来るでしょう?

ね?人脈は大事。わかった?

でも、女性で遊んで捨てるような下衆には成り下がらないでね?

いい女はいい男を育ててくれるわよ。」


「逆も然りだ。いい男はいい女を育てるぞ?伴侶を自分の好みに育てるのは男のロマンだろ?

だが、ママの言った通りだ。女性の力は馬鹿に出来ない。権力や金は確かに男に集まるだろうが、流れを生みやすいのは女性だ。贈られてきたもんも、金にモノを言わせたもんじゃ無く、ご自分で採取されたの?開発されたの?まあ、素敵!なんて口を出させずに言わせてみな?それだけで男なんてヤル気になるぞ?

世界が違ったって男は女の一言に弱いもんだろ?

だが、税率や法を変えなきゃ貧困の差は変わらん。

だから、上がった一部の税で、学校を建てるだとか、病院を作るとか、道を整備するだとかを義務付けさせる法を作る。

もちろん税収に合わせてな。

贅沢する金あるなら還元し、平民にもある程度の学力を身に付けさせれば働く意欲も増し、国力も上がるって押し通すのもありだ。

国力。文字通り国の力だ。平民すらも文字が読め、簡単な計算も出来て、病院にも通えて、生活が豊かだ。たったそれだけで、ああ、あの国は豊かで凄いって思われる。反対してきた奴らには国家反逆罪にでも問えばいい。

王族、貴族、平民に問わず、俺は女性には朗らかに笑っていてほしいね。」


ね、ママ?と、ママの頬を人差し指で軽く撫で、もう。と言いながらも目元や口元が色気付きお互いを見つめ合う。

室内にはムーディでアダルティな空間が出来上がった。

まだ青年達には早過ぎた大人の色気に飲まれていると、


「間もなく閉店の時間だ。これは伝票、誰に請求すれば良いかな?ああ、宝石?助かるよ。異世界のお金もらっても仕方ないしね。ママ、今回派遣でこっちに招ばれたみたいだ。伝票にママのサイン貰えれば元の世界に帰れるって。


最後に、君達はまだ若い。

身分による柵もあるだろう。だが、持って生まれた全てを利用してやるくらいの機転と柔軟さ。その上で自分の力で築いた人脈に誇りを持つ大人になれ。

世の女性達を幸せに出来るような男になってほしい。

そして、最終的には俺のように一人の最高の女を愛する栄誉を勝ち取れ。

惚れた女一人幸せに出来ないような男にはなってくれるなよ?」



これからは大人の時間だ。じゃあな。と、アダルティな空気だけを残しバーカウターごと還っていったのだった。

残された青年達は思った。


テンチョーカッケー。と。


それから興奮気味に理想の男と、理想の女。つまり、店長とママについて明け方まで熱く語り合い、部屋の前を通り過ぎていった者達は、勉強熱心な若者達に感心していた。



結果、第2回の聖女召喚は密かに行われたが、翌朝、街の衛兵からもたらされた天から落ちる光の目撃証言が相次ぎ、青年達だけによる聖女召喚はすぐにバレ、各方面からの質問責めにあったが、それをも利用し、店長の国力アップの案を大人達に告げた。

流石聖女のネームバリュー。あっさりと通った。

ママの案は水面下で賛同者に伝え、いずれ鼻持ちならない男をギャフンと言わせてやる。

そして、テンチョーの男想を熱く語った。

2人の教えを伝え、共感した賛同者達によるこの世界初の秘密結社が出来た。


この秘密結社の名は『club sanatio』


メンバー達には徹底してママの聞き上手さと、自然なボディタッチの技を。

店長の立ち居振る舞いのスマートさをマスターさせた。

話術からの、話を引き出させ、広げ、共感し、肯定し、釘を指しながらも目的の場所まで思想を誘導する。この技を身につけたメンバーにより、腐った勘違い貴族ヤローを退け、法によって貴族の贅沢に回っていた税金で国力アップの為の案が確立した。


秘密結社メンバーによる淑女を招いてのお茶会はさながら超高級、キラキライケメンによるホストクラブのようであったが、この世界では誰もホストクラブを知らなかったので突っ込む人はついぞいなかったとさ。












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