自己PRって難しいよね。
──旧校舎の放送室にて。
「ほら、これがお前のプロフィールだ」
二宮がスマホを操作して、俺に見せる。
最初に目に入ってきたのはアカウント画像。
俺と二宮が肩を組んで決めポーズを作っている写真だ。
この写真には見覚えがある。たしかこれはこの場所で催された先輩の引退式の時のものだ。旧部の集合写真の一部を切り抜いたものと思われる。
それで肝心なプロフィールは……。
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ユーザ名:cube@so cube!!!
cubeメンバー
代表:リク
参謀:ソラ
昼休みに旧校舎で So cube!!!を放送中
両名ともSo cube!!!のメインパーソナリティを務める
……。
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「待ってくれ。何一つ理解できないのは俺だけ?」
「何か不明な点でもあったか?」
「逆に自明な点でもあったか?」
cubeって何?
ソラって誰?
参謀って?
全く聞き覚えのない単語が並んでいる。
「そうか、お前は携帯を持っていないから、まだ反応を見ていないんだな? ちょっと待て」
と、二宮はスマホを操作する。
「オレは柊木生なら3年でも大体フォローしているんだが……これが昨日の昼休みに呟かれたツイートだ」
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『cubeイカレ過ぎてて草』
『so cube聞いて思いっきりご飯噴き出した。責任取ってほしい』
『二宮氏とは親友になれる自信しかない』
『校内放送に放送コードがないことを身をもって教えてくれるcubeの度胸がやべえ』
『オチが綺麗すぎw』
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「県内有数の進学校に通う柊木生が昼休みにスマホを使ってるのはまあいいとして……一人、やべえ奴がいるのもまあいいとして……これは?」
「これは全部、ハッシュタグ、cubeで検索したものだ」
「cube? …………ああ、旧部ってことか?」
そういえば“旧部”と何度も言ってたが、確かに耳馴染みのない言葉だしなあ……。
それで表記揺れの結果、cubeに収まったのか。
「じゃあso cubeってのは……」
「オレが番組っぽく話し始めた時あっただろう? 「と、いうわけで! 長いフリートークで始まる我らがそう、旧部!」って」
「“そう、旧部”がso cubeになったってことか……」
「詳しい経緯は分からんが、おそらくそういうことだろう」
二宮が思案顔で頷く。
「まあ確かに音だけじゃ色々伝わらないこともあるんだろうが……こんな綺麗に変換されるもんか?」
いくら何でも出来すぎな気がする。
「旧部がcubeになるのは分かるが、「そう、旧部」なんてフレーズ、一回しか言ってなくね? そんなのみんな覚えてるとは思えねーんだけど」
「……さすが山市。察しがいいじゃないか」
ニヤリと笑う二宮。
「やっぱなんかウラがあんだろ? 言ってみろよ」
「実はこのアカウント──オレが作ったんじゃないんだ」
「はあ!?」
「オレがSNSで反応を確認した時にはすでにもう存在していた」
「え!? いや待て、意味分かんねえぞ!?」
二宮がSNSを開く前から既にこのアカウントが存在していた、ということが意味するもの。
それはつまり──
「このアカウント──オレたちのなりすましだ」
「──っ!?」
まさか自分たちのなりすましが現れると思っていなかった。
「まじか……!? な、なあそれって色々大丈夫なのか? 例えば俺たちの名前を使って不名誉な発言とかされたらやばいんじゃ……」
そう。
この物語は俺たち旧部と、その名を騙る正体不明の敵対者との苦闘を題材とした物語──
「心配するな。犯人はもう分かっている。というか自白してきて、昨日泣きつかれた」
──そんな物騒な物語ではなかったらしい。
はやる俺を見て、二宮は笑う。
「これは旧部の先輩たちが勝手に盛り上がって悪ふざけで作ったものらしい」
「は?」
「試しにつぶやいてみたら姉貴にバレて制裁を頂いたらしい。昨日先輩から連絡があってこのアカウントを一方的に譲ってきた」
「なんだそりゃ……」
一気に肩の力が抜ける。
……まあ確かに、冷静に考えれば旧部OB以外の人が、引退式の日の俺たちが映ったプロフィール画像を持っているはずがない。
先輩たちの誰が主犯格なのかは特定しておきたいところだ。
「まあ……先輩たちならお世話になったから別にいいか。ってことは先生が俺の画像を使うのを許可したってのはお前の嘘か」
「嘘とは人聞きが悪い。ジョークと言ってくれ」
こいつ……。
「じゃあ……ソラってのも先輩たちの悪ふざけか。それなら……なるほど理解したわ」
理解したはいいが、だとしたら全く納得いかない。
「オレは大地の”陸”だろう? お前の漢字は?」
「いや、まあ、凛とした空で“凛空”だな……」
「だからソラなんだろう」
「被ってるからって、俺の方が変えられたの納得いかねえ……!」
イカレている方の名前を改名してほしかったところだ。
「フッ、まあオレはcubeの代表らしいからな!」
「なんで俺がお前の参謀なんだよ!? おい、スマホよこせ。そのプロフィール、名前から変更してやる」
二宮のスマホに手を伸ばすが空を切る。
「やめろ! オレたちのリスナーが混乱するだろう! 一度定着したものを変更するのはよくないんだぞ!?」
「定着って別に今すぐ変えればバレないだろ」
そんな昨日できたアカウントなんて別に大したことないだろう。
早いうちに訂正しておくべきだ。
「お前舐めるなよ! 今のフォロワー、半日で100人を余裕で超えているんだからな!」
「半日で、ひゃく……!? うちの学校って一学年で400人だから……昨日の放送聞いた4人に1人がフォローしてんじゃねえか!?」
学校内の人間しか分からない身内ネタのアカウントだぞ……?
明らかに不思議な力が働いているとした思えない。
どうりで今日の登校時にジロジロみられるわけだ。
しかし明らかに好意的な反応には見えなかったが……。
「そういえば先輩は試しにつぶやいたらバレたと言っていたな?」
「そうだが?」
「どんなつぶやきか見せてくれよ」
「いいだろう」