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許可の指揮系統は確認しといた方がいい。まじで。

 

「なあ? おかしいと思わないか?」


 二宮の後ろに乗せてもらいながら、バスの出来事を大まかに説明する。


「ほう、プロデュースが成功しているようだな……!」

「は? どういうことだよ!? お前の仕業かよ!?」

「まあ一から説明してやろう。こうなったのは山市、お前のせいでもある」

「……?」

「昨日、お前姉貴のところに行かなかっただろう?」

「ま、まあな」


 来ないと痛い目にあうと言われ、行っても痛い目にあうのは明白。

 なんぞいかんや。(反語)


 どうせポイントの罰金を課されても、所持ポイントが0だからノーダメだし。

 つーか、いまいちポイントの使い道が分かんねーんだよな……。



「姉貴はそれで大層お冠でな。その怒りは当然昨晩のオレの拷問にもぶつけられたわけで」

「へーそうか」

「……お前、悪いと思っていないだろう?」

「当たり前だろ」

「なぜ即答できる!? しかもお前、放送中に何やらパソコンをいじり出していたと思ったら、姉貴にメッセージ送ってゲストとして呼んだらしいな!」

「そうだけど」

「……」

「それがどした?」

「……もしかしてお前、悪いと思っていないだろう?」

「当たり前だろ」

「だからなぜ即答できる!?」

「そう言われても」

「少しはオレに対して後ろめたい気持ちは無いのか!?」

「フッ、俺たちの絆に遠慮なんて不要だぜ?」

「そこは遠慮してくれよ!」


 これが美しい友情のカタチというやつだろう。


「……まあそれで、姉貴は旧部の顧問だろう? オレたちがテキトーなことやると姉貴の責任問題になる。そもそも旧部は6月に3年が引退して以来、先輩がいないことをいいことにオレたち、ろくに活動していなかっただろう?」


 旧部に2年はいない。

 新校舎が完成した昨年度の途中に、当時の2年と1年がそれぞれ旧部と新部に分裂したからだ。


「まあそもそも旧部って本来もう廃部してるしな。つかそもそも4月に6月で廃部になる部活が新入部員を募集してるのがおかしい。普通に詐欺じゃね?」

「ああ、あれは今でも謎の圧力が働いて入部させられたとしか思えないが……」


 本来、新入生が入部しないはずの部活に新入生が入り、成り行きで旧部が存続している状況だ。


「それで?」

「活動がない部活を認めるわけにはいかないということで、このままじゃ旧部は2学期から廃部になる」

「2学期からっつっても、今日と明日で1学期もう終わるんだが」


 本日は7月21日。

 もうそろそろ、全学生待望の夏休みがやってくる。


「じゃあ放送室に置いてある私物を何回かに分けて回収しねーとな。一度に持って帰れる量じゃねーよ」


 旧放送室には代々先輩たちが残していった遺産が眠っている。


 教科書や参考書、過去のテスト問題に加えて漫画やラノベ、扇風機やヒーター、さらに今年の3年の先輩たちがお金を出し合って購入したゲーム用ディスプレイなど様々なものがある。


 ……輝かしい遺産の中に、絶対拝借したとしか思えない学校の備品が混じっているのはご愛敬。


「いや、せっかく妹グッズをあそこで展開しているというのに、神聖な場所を奪われるわけにはいかない」

「お前の妹スポットは俺にとって、神聖どころかむしろ穢されてる気分になるということを一応伝えておく」


 平然と人類のタブーを堂々と冒している場所で落ち着けるようになったら、もうおしまいだと思う。


「オレたちが抱えている直近の問題は、活動実績がないということだ。活動実績さえあれば、交渉次第で旧部存続の可能性があると睨んでいる」

「まあ……一理あるか?」


 学校側としても、強硬策で旧部を活動停止させるメリットはあまりない。


 というのも、今年度いっぱいで旧校舎が取り壊されるため、旧部はあと半年で廃部するのは確定しているからだ。


 学校側もわざわざあと半年で無くなる部活動に対して、とやかく介入する動機もないだろう。


「それなりに活動実績さえあれば、文句は言われないっつーわけだな」


 まあ肝心の活動実績が今のところ皆無なわけだが。


「その通りだ。というわけで、活動実績としてオレたちは昼休みに放送することにした」

「……は?」


 それは急展開すぎる。


「え。ちょ待って待って? いつから放送すんの?」

「今日からだ」

「え、いやでも明後日から夏休みじゃね?」

「ああ、でもやらないよりはマシだろう? わずかな望みに懸けてみるというわけだ」

「まじか……」


 それにしても、昨日の今日で急展開すぎやしないだろうか。


「それで、せっかくやるなら楽しもうということで、公式SNSを発足させた」

「……へ?」

「放送でメッセージを募集するって言ったからな。SNSがないと不便だろう? 放送室の前にメッセージボックスを置いたから、これでデジタルとアナログの両対応ラジオの完成だ」

「お、おう……」

「放送圏内の旧校舎は3年の教室だから、オレたちはなじみが薄いということで──」


 ということで……?


「SNSにオレとお前のプロフィールを上げた。写真付きで」

「おい!? お前勝手に何やってんだよ!?」

「揺らすな! 倒れるだろ!」

「どうせ自転車乗ってることなんて、会話長すぎて誰も覚えてねえよ! 俺も忘れてたぞ!」


 まるで物語の作者が慌てて思い出したかのように、自転車が激しく揺れる。


「つーか、なに勝手に人様の写真をネットに晒してんだよ!?」

「失礼な。許可は取ったぞ」

「はあ!? 誰にだよ!?」

「なんせ昨日の放課後は本人不在だったからな」

「え?……おいまさか」

「ああ──我らが顧問が許可してくれた」

「許可の指揮系統おかしいだろ!?」


 来ないと痛い目にあうとは言ってたけど……痛さの方向性が全然違うんだが!?

 瞬間的な痛みよりも永続的な痛みの方が、質が悪いんですけど!?


「……ちなみにプロフィールってのは?」

「ああ、そっちは簡単な自己紹介だな。別に大したことは書いてない」

「そ、そうか。ならよかった。いやよくねえけど!」


 まあ、適当な嘘でも書かれるよりはマシか。


「心配するな。むしろSNSには真実しか書いてない。なにせ本人の発言だからな。これから放送を重ねることでさらに更新していく予定だぞ」

「……おい待て。いやな予感しかしない。まさかその発言ってのは──」


 と、自転車が止まる。

 気付けばいつの間にか学校の裏門に到着していた。


「おい山市、ちょうどいいぞ。今日の1限は体育──」

「了解」

「……オレ、まだ何も言ってないんだが」


 不思議そうにこちらを見る二宮。


「出席確認が甘い須崎先生だから、サボろうぜってことだろ? さっさと部室行こうぜ」

「……能力の無駄遣いとはこのことだな」


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