美しすぎる友情
二宮がペンをよこせとジェスチャーするので、もう一本のペンとメモを渡す。
『どうしてマイクがオンになっている!?』
確かに……。
二宮は続けてメモを書く。
『お前が机を叩いた時にスイッチが入ったんじゃないのか!?』
……そういえばどこかで……いや、いくらボロイ設備でもそんなことはあり得ないだろ!?
つーか、
『お前も机叩いてたよな?』
「……」
二宮の顔が曇る。
しかし今はこんな犯人探しをしている場合ではない。
『その話は後だ。この場を乗り切ることに集中しろ』
すると、二宮がペンを走らせる。
『了解』
『よく声優のラジオを聞くから、いっそのことそれっぽい番組にするのはどうだ?』
なるほど! それは助かる!
『了解。お前に合わせる』
目で合図して二宮がマイクに近づく。
「と、いうわけで! 長いフリートークで始まる我らがそう、旧部! この放送では柊木学園の生徒からのメッセージをどしどし募集! 勉強から恋愛、さらには人生相談など何でも歓迎するぞ!」
勢いよく流暢にしゃべり出す二宮。
なかなか様になっている。ここは俺も合いの手を入れていこう。
「おいおい、まずは自己紹介が先じゃないのか? じゃないと誰がしゃべってるのか──」
──あれ? そういえば……
一つ、重大なことに気が付いてしまったかもしれない。
いつから放送が始まっているかは不明だが──
──多分俺はまだ一度も自分の名前を放送中に呼ばれていない。
二宮に目配せして急いでペンを走らせる。
「そういえばお前は聞いたことはないだろうか? 我が学校に突如として現れた放送室に宿る妖精、通称、真冬ちゃんの存在を──」
と、二宮が訳の分からない伝承の口伝者として繋いでいる間に、2枚のメモを見せる。
『よく考えたら、放送をしている俺たちが誰かって声だけじゃ普通バレなくね?』
『今から放送やめてこの場を離れれば大丈夫だわ』
自分で自分の名前を言うことはないし、おそらくだが放送室に入って一度も二宮に山市と呼ばれていないはず。
それに、放送に乗せた声は意外に誰か分からない、というのは放送部あるある。
よし、逃げよう!
こんな放送誰かが録音しているはずがない!
今すぐこの場を離脱することが最優先──ガシッ!
──へ?
いつの間にか腕を二宮にがっちりとロックされている。そして──
『オレは姉貴の話をした時点で特定されているんだが?』
(離せよ! それはてめえの問題だろ!)
(元はといえば、お前が話し始めたんだろう!?)
(こいつ!!)
二宮は普段運動をしないので非力なはずだ。
(オラアァァ!)
(ぐはっ!?)
思いっきり力を入れて暴れると、難なく二宮の拘束を逃れることができた。
『後は任せた。ここはお前に譲る』
『これも美しい友情のカタチだね! てへっ!』
と、メモを叩きつける。
──これで一件落着。あとはこいつに全投げすればいい。
立ち去ろうとすると、何やら二宮がペンを走らせる。そして──
『そっちがその気なら』
『お前も同じ状況にしてやる』
──同じ……状況?
「おいおい、どこへ行くんだ?」
二宮が俺を見て大きな声で語り出す。
「え? いや、その、ちょっと予定あるから、戻ろっかなって……」
「ああ、そうなのか」
なんだ? 意外に友好的じゃ──
「もう1年10組の教室に戻るのか──山市凛空?」
「──っ!?」
こいつ……!!
やりやがった……!!
しかもさらっと学年とクラス、フルネームまで言いやがって……。
『これも美しい友情のカタチだね! てへっ!』
二宮が俺のメモを見せながらニヤリと笑う。
…………ああ、もういいや。
もう世間体とかどうでもいいわ。
どうせ怒られたらこいつのせいにすればいいんだ。
とことんやりたい放題して、後は全部こいつに押し付けてやる。
なんならもう、こいつが学校に来れなくなるくらいの悪印象を生徒に植え付けてやろう。
そうだ。そうしよう。
そうすればこいつに報復できて、俺の印象も薄まって、一石二鳥、万事解決、オールオッケー。
よし、二宮──てめえは俺の犠牲になってくれ。
俺はお前の屍を越えていく。
──こうして、後に語り継がれる伝説の初回放送が始まった。