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愚者の孫。

「おかーさん、おとーさん、なにはなしてるの?」


 気まずい静寂を突き破ったのは眠たげなあーちゃんの声。

 いつの間にか1階に降りてきていたらしい。


 普段ならまだしも、この状況では厄介な存在。


「ま、まだ起きてたのね茜。もう遅いから寝なさい……あら、それは何かしら?」

「ふえ? これ? りっくんのやつ!」


 あーちゃんが手にしていたのは、二宮から受け取ったプレゼント。


 そういえば中身をまだ確認していなかった。


 だが、そんなことはどうでもいい。

 あーちゃんという、予測不可能な要素はこの場から排除しておかねばならない。

 今後の議論に支障が出る可能性がある。


「あ、あーちゃん、ちょっと今難しい話してるからな! それあーちゃんにやるから上に戻ってな!」

「いいの? ありがと!」


 よし、これであーちゃんは遠ざけた!


 おじさんとおばさんに向き直る。


「ちょっといいですか、ほんとに誤解というか何というか……ただ一つ信じてほしいのは、あなた方の大事なお子さんに対して、邪な感情を抱いたりとかは全く!!」

「……そういえば凛空君、昨日、茜のこと、泣かせてなかったかしら?」


 ……昨日?


 昨日といえば、二宮の自転車に乗せてもらって帰ってきて──あ。



【回想】


「……ふむ? 妹のその様子……貴様、俺の妹と知り合いか?」

「え? いやあ──」


 腰にしがみつくあーちゃんを見る。


 ここは心が痛むが……。


「──知らねーよこんな小っちゃい奴」

「そうか。なら別にいいのだが」

「なにがいいんだ」


 こいつの価値基準を教えてほしい。


「ほら、この子怖がってるから。早く帰れよ」

「妹の交流を楽しませてくれたっていいだろう!?」

「これ以上するなら考えがある──」

「ほう? 脅しか? このオレの妹への純愛はそんな」

「──二宮先生に報告する」

「さようなら」


 脱兎のごとく、自転車に乗って自宅へ急ぐ二宮。


 彼にとって一番大きな存在は妹ではなく、姉なのかもしれない。


「よーし、もうあーちゃん大丈夫だぞー」


 あーちゃんを安心させようと振り向くと──


「う゛っ……う゛っ……」


 ──瞳に大粒の涙をたたえたあーちゃんがいた。そして──



「うぇぇええーん! りっぐんがしらないっでぇぇええ……!」


 大声で泣きわめき、ポロポロと涙がこぼれ落ちていく。


「え!? ごめんごめん!! 嘘だから! 冗談だから!」


 まさかそんなことで泣くとは思わねーんだけど!?

 いかん! このままでは俺が警察に呼ばれてしまう!


「落ち着こうか! ほら、ご近所さんにも迷惑だしな! な!」

「ひどいよお゛……っ! うぇぇええーーん!」


 閑静な住宅街にあーちゃんの大きな泣き声が響き渡り、何事かとご近所さんがあちらこちらで顔を出して──


「茜!?」


 愛娘の悲鳴にいち早く飛び出したおばさんが登場。


「おかあしゃーん゛! りっくんがああぁ!」


 泣きじゃくるあーちゃんがおばさんの元に駆け寄る。


「……凛空君が?」


 おばさんがこちらを見る。


 ──その視線は明らかに怪訝なもので、まるで俺が悪者みたいだった。


「……凛空君、うちの茜に何したの?」

「……」


 いえ……むしろ何もしてないんですよ……?

 ナニカしようとする不審者から身を挺して守ったんですよ……?


 しかし、泣きじゃくる我が子を庇って怒気を放つ母親に対し、おそらく今は何を説明しても事態は好転しないと悟った。


 ──あーちゃんが泣き止んでから、後で誤解を解くしかないな……。



【回想終わり】


 そういえば、なんか二宮のせいで、謎に泣かせたんだった!

 しかもおばさんにちゃんと説明して誤解を解くの忘れてたわ!



「まさか凛空君、僕の可愛いあーちゃんに乱暴しようと……」

「茜に変なことしようとしたんじゃ……」

「違いますよ!? あれはむしろ俺が彼女を一人の危険な男から守ったわけであって!」


 くそっ!!

 何だこの状況は!? 一体どこで間違えた!?



 ──一昨日のSNSのつぶやき。


 ──昨日の二宮・あーちゃんエンカウント事件。


 まさかもうあの時からすでに、破滅へのカウントダウンは進んでいたのか!?



「あの、俺の話を!」

「凛空君、あなたまさか……」

「これは手遅れになる前に……」


 ──くっ! 二人とも冷静さを欠いている……!

 我が子が心配なのは分かるが、なおさら現実味がある建設的な議論が必要だ。


 ……仕方ない。ならば──


「そのSNSは誤解なんです! 10歳年下と20歳年上はどっちがいいって聞かれたから10歳年下って言っただけなんですよ? そんなの男ならそう答えますよね!? ですよね、おじさん!」

「えっ僕!?」


 ここは一旦おじさんにパスを渡す!


「ま、まあ……僕も若い子の方が確かに可愛げがあっていい──」

「──あら? 年上の私はもう可愛くないとでも言いたいのかしら?」

「「……」」


 ──それはまるで地雷を踏み抜いたかのように、先ほどまでの慌ただしい会話劇はどこへやら、おばさんのひどく冷淡な声がリビングに響き渡った。


 ……夏だというのに、急激な体温の低下を感じる。きっとおばさんは事象干渉能力が高いんだろう。


 ──よし。おじさんには悪いが。これで一旦矛先を逸らすことができた。


 これで少しはクールダウン──


「──そういえばあなた? 最近また帰りが遅いわよね?」

「うっ……いや、そんなことは……」


 え? あの、ちょっと喧嘩は……。


「……へえ? あくまでシラを切るのね」


 冷笑を浮かべたおばさんの全てを見透かすような鋭い視線が、逃げ腰のおじさんの退路を断つ。


「ほら! この前も言ったように、最近残業が忙し──」

「──クレジットカードの利用履歴」

「…………はっ!」


 ……おじさんの顔色が瞬く間に変化していく。アハ体験でもすぐ分かるレベル。


「あなた最近、随分と高い買い物してるわよね──女物の高級ブランド店で」

「……」

「私──まだ一個ももらってないんだけど?」

「サ……サプライズ、しようと……」

「あら、そうなの? 誕生日も結婚記念日も随分先だけど?」

「……」

「今までそんなプレゼントもらったことないわよ?」

「こ、これからは! 記念日を大切にしようと……し、信じてくれ!」


 うろたえながらも、自分の愛する妻の瞳を力強く見つめて哀願する夫。

 限りなくクロに近いグレーゾーンの夫に対して、


「……まあいいわ」


 妻はこれ以上の追及をすることはしないようだ。


 先ほどまでの顔色が消失していた夫の顔にも安堵の顔が戻り──


「これから記念日が毎年楽しみだわ。きっとさぞかし豪華なプレゼントをたくさん用意してくれるのよね」


 ──再び顔色が消失した。



 あれ? もしかして……またオレなんかやっちゃいました?


 ……これ大丈夫? 夫婦の間に決定的な亀裂入ってないよね!? ねえ!


「毎日投稿3日目!」


『ちょっとキリが悪いので、今日はもう一度投稿するぞ!』


「最後まで駆け抜けるぜ!」

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