全思春期男子が憧れる主人公プレイ第1位って結局これじゃない?
──一方その頃、生徒指導室にて。
「いってぇ……」
二宮先生のヒロインフラグを完璧にへし折ったら、俺の頭蓋もへし折られた。
「まったくお前は本当に……」
二宮先生は嘆きながら、生徒指導室の扉の鍵を開ける。
やっとこれで解放されるな。
「先生、とりあえずすぐに手を上げる癖は止めといた方がいいっす。怖すぎるんで」
あまりに先生がからかい甲斐があるもんだから、からかい上手な山市さんになってしまったわけだが……。
生真面目な先生のことだ。真剣に結婚相手を探し始めれば、すぐに相手が見つかるだろう。多分、普通に優良物件だしな。
まあ……すぐに手を上げる癖が出なければの話だが。
──話は変わるが。
校内放送をして以降、俺は学園中から好奇な目で見られている。
登下校の道中、玄関、廊下、移動教室、他クラスとの合同授業、手洗い場、食堂、生徒ホール、図書室、自習室、etc……。
登下校時間も休み時間も放課後も関係なく、とにかく落ち着かない。
突如二日前に始まった放送──というよりは、その放送を利用した3年生によるSNS上の悪ノリとそれに火に油を注ぐ二宮のSNSの権謀術数の数々。
まあその甲斐もあって、にわかに柊木生界隈が盛り上がり、今日の昼の放送で部活存続に必要なポイントを集めることができたわけなので、一概に悪いことばかりではない。
……俺にとっては悪いことばかりだが。
ちなみに奴がcubeアカウントでどんな発信をしているかは正直怖すぎて見ていないが、明らかに俺の社会的地位を貶めるような性的嗜好をお披露目していることだけは間違いない。
昨日も今日も、忙しそうにスマホをいじっていた。
おかげさまで、スクールカーストのどこにも属さない、無党派無所属の新人が一気に一躍トップに躍り出て小躍りしているようなカオス状態。
数少ない心安らげる場所は理数科の教室内か、もしくは……正直気に食わないが、旧校舎になる。
というのも──新校舎にいる生徒と旧校舎にいる生徒で、俺への第一印象が大きく異なっているからだ。
旧校舎にいる3年はそもそも放送を聞いている人がほとんどのはずなので、SNS上の名誉棄損甚だしい俺のイメージもネタという認識があるはずだ。
自分で言うのもなんだが、二宮に比べてまともな奴という印象を持たれていると信じたい。
しかし、放送を聞いていないであろう新校舎、つまり1,2年のほとんどの生徒にとっての俺の第一印象は、3年から流れてくる不名誉の数々。
第一印象の重要性はよくテレビやネット上で度々耳にするが、その第一印象が最悪なものとなっている。
実際、今日の放送で旧校舎の大講義室に集まっていたほとんどの生徒は3年であることは内履きの色を見ても明らかだった。
変態思想を持つ二人の放送を聞きに行こうとする1,2年の数はごく少数だろう。むしろそっちの方が心配だ。
要約すると──新校舎がアウェーで旧校舎がホームという、訳の分からない状況が生まれている。
新校舎を歩けば、仲間内でこちらを見てひそひそ話する女子生徒がちらつく。
こっちに話しかけてさえくれれば、SNSで広まっている誤解も解けるのだが、目線をそっちに向けると露骨に視線を外される。
かといって、俺から話しかけにいくこともできない。
変態発言を厭わない男が急に近寄った途端、どんな誤解を受けるか、たまったもんじゃない。
これからは、新校舎におけるイメージを変えていかなければならない。
──話は長くなってしまったが。
つまるところ、どこにいても他人の言葉や視線が気になり、落ち着かないというか、気が立ってしまう。
言い換えれば、心が休まらずに、謎に神経が研ぎ澄まされた状態になっている。
そうなると当然、他人の気配には嫌でも敏感になっているわけで──
「──おい!! そこに隠れてんのは分かってんだよ!!」
「……山市? 急に一体何を──」
『──くそっ!』
『なぜバレた!!』
理数科のクラスメイトが顔を出す。
──フッ、甘いな……甘すぎるぜ……!!
ここ数日で目覚ましく覚醒した俺の気配察知能力を舐めてもらっちゃあ──
『バレてたか』
『こざかしい奴め……!』
『どんな弁明を聞かせてくれるか楽しみだぜ……』
『だよな』
『ちゃんと祝福してやらねえとな……!』
『お祝いの準備もばっちりだ』
『パーティーグッズもな』
『盛り上がれること間違いない』
『さあ、狂乱の宴の始まりか……!!』
──え? 待って待って? なんでそんな数いんの?
てっきり数人ぐらいかと……。
ぞろぞろと生徒指導室に、凶器を手にした理数科の面々が入ってきて俺を取り囲む。
「いやお前ら……そんな物騒なもん持ってなんでここ来たんだよ?」
『しらばっくれるとはいい度胸だな……』
『それが彼女持ちの余裕ってやつかおい!』
『祝いに来てやったんだよ』
「……彼女? 初耳なんだが?」
『……何?』
『お前、彼女いるんじゃないのか?』
『俺たちはとある筋から通報を受けたのだが……』
「いや……まじでいねーんだけど……」
疑惑を追及するような厳しい眼差しがあちこちから向けられる。
……。
──めんどくせーことになってんなこれ……!!
誠に遺憾ながら俺に彼女はいないのは事実。
だが真実を述べたところで、妬み嫉みにかけては定評があるこのクズ共がそうそう引き下がるとは思えない。
生半可な釈明では血で血を洗う争いに発展する結末が見えている。
ここは徹底抗戦の構えで──
『やはりガセか……』
『まあ……このクソ野郎に彼女とかありえないよな』
『確かに。酷なこと聞いちゃってごめんな……』
「……」
せめてもう少し疑えよ。
「や、やめろよ~」みたいな感じで優越感に浸る主人公プレイさせろよ。
あれ絶対気持ちいいでしょ。
そしてその哀れみの目はWhy?
『いや待て』
『山市は今日の昼休みに放送で二宮先生を口説いていたらしい』
『おいおい嘘だろ……!』
『俺それ見たぞ』
『それが事実ならシバいてやんねえと……!』
俺を囲む男たちの凶器を持つ手に力がこもる。
「いや別に、口説いてねーよ? ……ほら先生、ちょっと誤解を解いてやってくださいよ」
輪の外にいる先生に事態の収拾を頼む。
本人の口から説明してもらうのが一番手っ取り早い。
「そうだな……確かに私は山市からプロポーズを受け──」
『『『かかれぇええ!』』』
──怒号と共に凶器が降り注ぐ。
やまいち は たおれた!
やまいち は めのまえ が まっくらに なった!
『ちょっとキリが良くないので、明日の20時ぐらいにもう一話更新する予定だ!』
「なんとか週1で更新できてるって感じで本当に申し訳ないが……」
『しばらくこのペースが続きそうだな……ちゃんと守れるかも怪しいが』
「それと、読者からの反応や誤字報告で、一つ気になることがあるんだが……」
『何だ?』
「よく聞かれるんだけど……例えばお前と先生は姉と弟じゃん?」
『誠に遺憾ながらそうだな』
「その関係を表すと"兄弟"だと思うんだが、やっぱ"姉弟"って表記した方がいいのか?」
『ふむ……他の作品でも割と聞かれるやつだな』
「俺的には姉と妹の"姉妹"以外はもう全部"兄弟"がしっくりくるんだよな」
『その気持ちは分からなくはないが。丁寧に表記するのがいいのではないか?』
「最近は他の作品の影響か、兄妹って読むのは全然違和感ないんだけど、姉弟って読むのは、絶妙に定着していないというか……」
『まあそうかもしれん。だがいい解決策があるぞ?』
「え、まじで?」
『兄弟と姉妹のように、兄妹と姉弟にもそれぞれ固有の読み方を付ければいい』
「……なるほど? じゃあ兄妹と姉弟は何て読むんだよ?」
『それはもちろん──』
「……もちろん?」
『──兄妹と姉弟だな』
「兄と姉に謝れ」
※誤字報告をしてくれる読者様……頭が上がりません。本当に感謝。




