何故、メンヘラキャラは黒髪貧乳と相場は決まっているのだろうか?
──さて、ひとまず時間稼ぎには成功した。
……早く誤解を解かないとまずいのは分かっている。
分かっては、いる……しかし──
──真相を告げたところでどうなる?
この地雷臭漂う生徒会の権力者に、逆恨みされるのではないか?
「この放送室にあるさまざまなグッズは二宮さんのもののようですが、お兄様の好みでもあるのでしょうか?」
「う、うむ。まあ、山市も気に入っているところは……あるかもしれん……多分」
「ですが、昨日お兄様にここでお会いした時は、あまり好みではないような反応でしたが……」
「それは……恥ずかしがっていたのではないか?」
──いや、変に誤魔化す必要はないのかもしれん。
そもそも別にオレは何も悪くないのではないか?
オレたちがいない時に、おそらく生徒会の権限でこの旧放送室の鍵を使って入って、柊木が勝手に誤解したというだけの話。
つまり、オレのせいではない──
「そうですよね。cubeアカウントでもお兄様が年下好きってアピールしてますし」
「……ん?」
「放送でお兄様が年下好きを否定するのも、実はああいう設定だってつぶやいてますよね」
──これはもしかすると……オレのせいかもしれん。
確かに今まで、ふざけて参謀ソラの性的嗜好を印象操作していたが……。
あれは、あくまで、なんというか内輪ノリのようなもののつもりで……まさか本当に信じている人がいるのか……!
「実は私、初回放送や、第2回放送を聞いていないので、SNSからしか内容を知るしかなかったんです」
「……」
なるほど──合点がいった。
「どういう内容だったのか音源がないので、放送を聞いていた方にお尋ねして、やっと内容を推察できました」
とあるスレッドが脳裏に浮かんでくる。
『これは本当に旧校舎で流れたのでしょうか?』
『柊木の後輩どもよ。この内容、ガチだからな?』
『ああ、嘘偽りないことを3年生全員が保証する』
『これがお昼休みに流れたんだぜ? 笑えるだろ?』
「まさかお兄様があんなに年下が好きだったとは思いませんでしたが……」
「オレだけのせいでもないが……オレのせいかもしれん……っ!!」
まずい……これは本格的にオレにも誤解の責任の一端があるような気がしてきたぞ!
「それにしても、先月にパソコンを覗くまでは、お兄様が凛というキャラクターにあれほどご執心だとは露知らず……」
──どうするべきか!?
年下好きという誤解はまだ、今後も押し通せる望みはなくもない……。
山市も特段年下が嫌いというわけではないからな。
だが、妹好きという、山市と決定的に相容れない誤解はいつか絶対にバレるであろう!
「ですが、もう大丈夫です──」
真実を伝えるなら、おそらくこのタイミングしかないのではないか!?
ならば、もう包み隠さずにすべてを打ち明け──
「──凛というキャラクターをしっかり勉強しましたから」
事もなげに、さらっと柊木が話す。
「……勉強?」
「実際に全ての作品を購入してプレイして研究するのは、本当に大変でした」
……全て?
まさか──
「凛たんが出てくる作品はシリーズもので……かなりの作品数があるんだが……」
「おかげさまで、この1か月はそれに費やしました……でも、これもすべてお兄様のためですから!」
──女神と見紛う、とびきりの微笑み。
「どうされました?」
「もしかしてなんだが……その重めな前髪のぱっつんロングヘアーは……」
「やっぱり分かりますか? これ──お兄様が大好きな凛と同じ髪型なんです!」
……。
「……もしかすると、山市のことをお兄様って呼ぶのは?」
「それは──凛がそう呼ぶからですよ?」
…………。
「先ほどから何か言いたげなご様子ですが──何か?」
「…………何もありません」
姉貴にも使わない敬語が、自然と口をついて出た瞬間だった。
『日曜に更新できなさくなったので、土曜日に投稿させてもらう!』
「これからは毎週土曜日に更新するからよろしくな!」
『次の次の話ぐらいから、コメディーのみに許されしトンデモ展開があるらしいぞ!』
「お手柔らかにな!」




