理数科の絆。
オレの第六感が告げている──これはまずい、取り返しのつかない事態に陥っているのではないかと!
……多分この女は本当に山市が妹好きだと信じている。早く誤解を解かなければならない。
でなければ──オレの身が危うい!
「しばらくパソコンの閲覧履歴を拝見させてもらった結果、お兄様はとある黒髪清楚で兄を慕う“凛”というキャラクターが特にお好きだということが分かりました」
「そ、そうか……」
“凛”は、黒髪清楚な大和撫子といった主人公の義理の妹ポジションのキャラクターだ。主人公の兄を慕い、あまり自己主張をすることはないものの、主人公を陰ながら献身的に支える健気で心優しき妹だ。ちなみに、主人公がぞんざいに扱われる場面に出くわすと普段の落ち着いた印象とは打って変わって冷酷な一面が垣間見えたりする。特徴として、主人公が他の女の子とイチャついてる場面を見ると一発で豹変するヒロインで、選択肢を一つ間違えるだけで簡単に主人公が死んでしまうことから、攻略難度MAXのヒロインとして当時話題をさらった。制作側もその辺りを意識して作られており、彼女の多種多様な戦慄の抹殺シーンがあることによって、年齢対象が一つ上のカテゴリーになったという逸話も残っている。
……まだまだ語ろうと思えば語れるが、大事なことは以前、オレが山市に、凛たんについて熱く語った時、奴は──
『え? 何このブラコン、重っ。気色悪っ』
と、毛嫌いして──いや待て。
時計を見る。
山市が姉貴の所に行ってしばらくの時間が経過している。
──もう奴がここに戻ってきても不思議ではない!
今この二人を鉢合わせるのは避けた方が吉と見た。
何が起こるか、全く予想がつかない。危険すぎる。混ぜるな危険だ。
ひとまず──山市の足止めをしなければならない。
「悪いが、ちょっと早急に連絡しないといけないことがある。いいか?」
「ええ、構いませんよ」
スマホを取り出してクラスのグループラインを開く。
『【緊急祝福速報】
山市に彼女がいることが発覚。
容疑者は生徒指導室に潜伏している。
至急、生徒指導室に直行せよ』
送信、と。
よし、これで万事解決だろう。
懸念事項として、理数科のオレと山市を除いた38名のうち、すぐに動ける人員がいるかどうか未知数──
『すぐ向かう!』
『よし来た待ってろ』
『おいおいそいつはいけねえなあ……』
『皆で祝福してやらねえとなあ!』
『なるほど……あの放送は隠れ蓑だったというわけか』
『現場に急行する!』
『ロープは用意した』
『ガムテープは持った』
『誰かスタンガンを!』
『セメントを確保しておけ』
『スコップを忘れるなよ!』
『鉄パイプもな!』
『絶対に裏切り者を取り逃がすな!』
『ああ! 今すぐ君に会いたいよ!』
『受け止めて! この想い!』
『オレは職員室側の扉から生徒指導室へ突入する』
『オレは教室側の扉から現場に乗り込む!』
『通路の封鎖はオレが取り仕切る』
『背中は任せたぞ!』
『落ち着け、各自迅速に現場に急行しながら頭を働かせるんだ』
『確かに、このままでは人員が一か所に偏ってしまうリスクがある』
『ならば、出席番号を5で割って余りが0は職員室側から突入としよう』
『余り1は職員室側の通路を封鎖だな』
『余り2は教室側から突入してやんよ!』
『余り3は教室側通路の封鎖する!』
『余り4は後方支援に努める』
『オーケー理解した』
『こちら17番、持ち場についた』
『8番、持ち場に到着した』
『現場で到着次第、武具の調整、兵力の均等化を図ってくれ』
『奴に気取られないようにな』
『あの抜け駆け野郎は勘が鋭いからな。息を殺して待機だ』
『各自持ち場についたか?』
『まだだ!』
『では、ヒトロクサンマルに状況を開始する!』
『了解!』
『各人、遅れるなよ!』
『祝福の時間だぁああ!!!』
──なんて頼もしい仲間たちだろうか。
理数科の絆によって、即座に38つの声が上がり、阿吽の呼吸でリア充討伐精鋭部隊が編成された。
上下関係のない指揮系統において、スクランブルでここまでの円滑な作戦準備及び決行は、この地球上のどんな精鋭部隊にも真似できまい。
オレたち理数科──39人の絆は永遠であろう!
「どうしたのですか? スマホを見つめて笑っていますが……」
「いや……やはり山市はクラスメイトに愛されていると再確認した」
「それはお兄様ですからね!」
何も知らない彼女は自分のことのように嬉しそうに笑っている。
きっと理数科の連中も自分のことのように嬉しくて仕方がないのだろう。
福音をもたらさんと今頃、彼らは一足でも早く彼の地へ馳せ参じようと、その身を疾駆させているはずだ。
──さて、ひとまず時間稼ぎには成功した。
「なんだか落ち着かないな……」
『……』
「よく分からないが、突然の連続更新、というものらしいな……」
『……連続更新したのは、前回の後書きを追記させてもらったことを手っ取り早くお知らせするためだ』
「はあ……なるほど。そういうものなのか」
『……早く三人称のイメージを打ち消したかったそうだ』
「ほう……」
『……』
「どうした?」
『い、いや……』
「様子がおかしいが……いつも後書きをしているそうじゃないか」
『そ、そうだが……』
「?」
『な、なぜここにいる…………姉貴』
※違和感を感じた人はまじですごい。
以下、需要のない山市翻訳ver.
「なんだか落ち着かないな……」
↓
「なんか落ち着かねーな……」
「よく分からないが、突然の連続更新、というものらしいな……」
↓
「よく分かんねーけど、突然の連即更新、ってやつらしいじゃん」
「どうした?」
↓
「どした?」
「様子がおかしいが……いつも後書きをしているそうじゃないか」
↓
「様子おかしいけど……いつも後書きしてるらしいじゃねーか」
ちなみに二宮愛海と二宮陸は姉弟ということで、似たような口調にしたら一緒に使いづらくなった。
……初期設定ミスった。
 




