王道行き、9と3/4番線はこちらになります。
「あーそこ右な」
「了解」
「で、その次の交差点を左な」
「うむ」
明日の放送のための様々な手筈を整え、俺は二宮が漕ぐ自転車の後ろに乗せてもらって下校している。
もうそろそろ家につく頃だ。
「次はどっちだ?」
「もう後はまっすぐだ。ほら、あのボール遊びしてる小っちゃい子供がいるところらへんが、俺の家だ」
「任された」
俺の家と言っても、厄介になっている佐藤家のものだが。
「ほう、あの小さい子供、持って帰りたいくらい可愛い──っておい揺らすな!」
「俺を犯罪に巻き込むな!」
「おいおい、冗談に決まっているだろう?」
「てめーが言うと冗談に聞こえねーんだよ!!」
……絶体絶命下での、一縷の望みを賭けた一世一代の大博打──みたいな、ちょっとなろうしてた良い感じの雰囲気を返してくれ。
らしくもなく頑張ったんだから!
なろうっぽく王道意識したんだから!
王道なら絶対あの後すぐに第三回放送行く流れなんだから!
……まあ、これが俺たちらしいっちゃらしいけどな。
──自転車が俺の家に近づいていく。
キィーと甲高いブレーキ音がなって自転車が止まり、俺は自転車の後ろから下りた。
その時──小さい子供が佐藤茜、つまりあーちゃんだと気付いた。
その刹那、本能的に脳内危険センサーが、けたたましくサイレンを鳴り響かせる。
──やべえ!!
二宮に幼女と住んでいることがバレたら、柊木の件以上の惨劇が繰り返される……!
セカンドインパクトはなんとしても避けなければならない。
幸い、あーちゃんはボール遊びに熱中してこちらに気付いていない。
俺はあーちゃんの方を見ないように背を向ける。
「じゃーな二宮。明日、大講義室の準備は任せたぞ」
「任せておけ」
二宮はペダルに足を置き、再び自転車を走らせた。
こうして人類の危機の再来は未然に防がれた──
「りっくん! おかえり!」
……子供って意外に周囲に敏感だよね!
──その声に反応した二宮陸容疑者が即座にその場に自転車を停め、全速力でこちらに走ってくる。青鬼かな?
「おい!」
ああ、またこのパターンか。知ってるわこれ。
あれだろ?
どうせ、俺が頭のおかしいこいつにぶん殴られるんだろ?
なんでこうなるんだよ……。
「この妹──オレのことを呼んだぞ!!」
「なんてそうなるんだよ……」
「ふえ? りっくん?」
こいつも下の名前は俺と同じく、“りく”とはいえ、普通そうはならねーだろ……。
だが──この誤解を利用させてもらおう。
俺は二宮の横に並び、二宮にあたかも自分がりっくんだと思わせることにした。
二宮は何の躊躇もなく、道路に膝をついて目線を合わせて、ロリコミュニケイトを開始する。
「い、妹よ……今、オ、オレの名前を」
「うん? りっくん?」
「ああ! 今日は何て素晴らしい日なんだ!」
「ふえ?」
「い、妹よ、迷子か? おうちはどこかな?」
「不審者じゃねーか!」と言いたいところだが、あまり出しゃばると俺がりっくんだとバレる可能性がある。どうやら二宮はこの子が迷子だと勘違いしたらしい。
とりあえず、ここは見守るしかない。
あーちゃん、頑張れっ……!
「しらないひとにおしえたらだめっておとーさんにいわれた」
偉い!
子供の成長を感じる瞬間に、思わず涙が出そうだ!
「知らない人じゃない──オレたち兄妹だろう?」
酷い。
ロリコンの成長を感じる瞬間に、思わず涙が出そうだ。
「ふえ? りっくんとはかぞくだけど……」
「家族じゃないか!」
「……」
やばい。
どんどんあーちゃんの顔つきが曇っていく。
こんな知らないヤバい奴に執拗に話しかけられたら、誰だって恐怖を感じて当たり前だ。
「迷子じゃないのか? じゃあ──」
くっ……この不審者から守ってあげたいのは山々だが……。
ここは見守ることしか──
「──おにーちゃんと一緒に交番に行くか?」
「それお前が捕まる!!」
……とっさに二宮をぶん殴ってしまった。
見守ると決めてたけど、流石に知り合いから少年院送りは御免だ!
──あーちゃんは二宮が怖かったのか、俺の背中にピタッと張り付いて制服を掴む。
不安を和らげるために、言葉をかけて頭を撫でてあげたいところだが、二宮がいるので知らないふりを突き通すしかない。
「何をする!? 妹との神聖な邂逅を邪魔するな!」
「お前の未来を救ってやったんだけどな」
「……ふむ? 妹のその様子……貴様、俺の妹と知り合いか?」
「え? いやあ──」
腰にしがみつくあーちゃんを見る。
ここは心が痛むが……。
「──知らねーよこんな小っちゃい奴」
「そうか。なら別にいいのだが」
「なにがいいんだ」
こいつの価値基準を教えてほしい。
「ほら、この子怖がってるから。早く帰れよ」
「妹の交流を楽しませてくれたっていいだろう!?」
「これ以上するなら考えがある──」
「ほう? 脅しか? このオレの妹への純愛はそんな」
「──二宮先生に報告する」
「さようなら」
脱兎のごとく、自転車に乗って自宅へ急ぐ二宮。
彼にとって一番大きな存在は妹ではなく、姉なのかもしれない。
「よーし、もうあーちゃん大丈夫だぞー」
あーちゃんを安心させようと振り向くと──
「う゛っ……う゛っ……」
──瞳に大粒の涙をたたえたあーちゃんがいた。そして──
「うぇぇええーん! りっぐんがしらないっでぇぇええ……!」
大声で泣きわめき、ポロポロと涙がこぼれ落ちていく。
「え!? ごめんごめん!! 嘘だから! 冗談だから!」
まさかそんなことで泣くとは思わねーんだけど!?
いかん! このままでは俺が警察に呼ばれてしまう!
「落ち着こうか! ほら、ご近所さんにも迷惑だしな! な!」
「ひどいよお゛……っ! うぇぇええーーん!」
閑静な住宅街にあーちゃんの大きな泣き声が響き渡り、何事かとご近所さんがあちらこちらで顔を出して──
「茜!?」
愛娘の悲鳴にいち早く飛び出したおばさんが登場。
「おかあしゃーん゛! りっくんがああぁ!」
泣きじゃくるあーちゃんがおばさんの元に駆け寄る。
「……凛空君が?」
おばさんがこちらを見る。
──その視線は明らかに怪訝なもので、まるで俺が悪者みたいだった。
「……凛空君、うちの茜に何したの?」
「……」
いえ……むしろ何もしてないんですよ……?
ナニカしようとする不審者から身を挺して守ったんですよ……?
しかし、泣きじゃくる我が子を庇って怒気を放つ母親に対し、おそらく今は何を説明しても事態は好転しないと悟った。
──あーちゃんが泣き止んでから、後で誤解を解くしかないな……。
せっかく明日に向けてテンションを上がってたのに、あいつのせいで最悪な気分になんだが!?
こっから盛り上がってくはずだろ!?
こんな何とも言えないような微妙なエピソード起こすなよ!?
……。
……どうやったら王道に乗れんの?
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ユーザ名:cube@so cube!!!
柊木学園高等部の1学期最終登校日の明日の昼休み、
旧校舎の大講義室を貸し切って、so cube!!!公開生放送!
【代表リクからのコメント】
この愛を全妹に捧ぐ。
【参謀ソラからのコメント】
チェックメイト。
79いいね 34リツイート 3のコメント
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CN:リク師匠の一番弟子
【拡散希望】
【拡散希望】
【拡散希望】
明日、cube代表のリク師匠様と参謀の闇堕ちロリコンが昼休みに旧校舎の大講義室で……
緊・急・生・放・送!
世紀の大事件の決着がついに!?
これは見逃せない!
追記:携帯持参推奨らしいですよ!
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CN:Mr.X
明日あのいろいろとやらかしまくった放送部が生放送やるらしいwww
また何かやらかすのかねwwwもうあのSNS見て爆笑したわ腹筋死にそうwwwww
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CN:ultraviolet
明日が第三次大戦開戦の日か…
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『前回、後書きが長くなって申し訳ない』
「一週間ぶりでいきなりの謝罪スタートだな」
『ついに先日、後書き不要という苦情が来たのでな』
「だから言ったろ? 次話に行きづらくて仕方ねーって」
『故に謝罪させてもらった』
「それを後書きでやるという火に油を注ぐスタイル」
『今後の後書きについては後で述べるが……まずは妹たちよ! 柊木生メッセージ、誠に感謝だ!』
「ありがとな! できるだけ全部使わせてもらうぜ!」
『それで後書きの件だが』
「情緒不安定か」
『批判を踏まえて後書きを短くしようと思ってな』
「そういうことか」
『ちなみに届いた批判は、後書きと──前書きがくどすぎるというものだった』
「……この人もどっちが本編か分かんなくなってんじゃねーか!?」
『単純に間違えたのか、もしくは批判に見せかけたマジで才気溢れるネタメッセージなのか、正直こちらではイマイチ確信が持てない』
「ネタだとしたら秀逸すぎるわ……」
『というわけで後書きを短くしていこうというわけなんだが、オレが考察するに後書き不要論は次話に行きづらいということに起因する』
「後書きに興味ない人も目に入ってしまうっつーわけだな」
『つまり、逆転の発想として──次話がない状態なら別に問題ないというわけだ』
「おお!? まあ……確かにな……!」
『というわけで──いつも通りの後書きを最新話のみで行い、最新話を投稿する度に今までの後書きを消去していくという証拠隠滅案がまず一つ』
「なるほど、後書きがある回は最新話だから次話がないってことか」
『だが後書きを楽しんでくれる妹も多い。元々、自然発生的に始まったこの後書きコーナーを畳むのは忍びないというものだ』
「そーいやそんな始まりだったか」
「というわけで、文字数制限を掛けるという縛りプレイ案も策の一つではある』
「それもありだな」
『具体的には、絶対に1000文字以内に収めるいう縛りだな。ちなみに今が800文字越えたぐらいだ。試しに今回縛ってみよう』
「そっちも面白そうだな。文字数は要相談だが」
『ちなみに前回の後書きは3000文字オーバーだった』
「ひどいな。まあどっちの案にするかはリスナーの様子を見てから決めよーぜ」
『どちらにせよ、第三回放送後に一旦更新を停止するため、活かされるのは第二シーズンからかもしれん』
「シーズン制だったのこれ?」
『ちなみに次回の更新は明後日だ』
「唐突だな」
『これにはちゃんと、聞くも涙、語るも涙の深い理由がある。それは
(1000文字)
 




