王・道・展・開!
……まずい。
これもう……完全に詰んでね……!?
「ちょっと先生! なんかちょうどいい金策ないんすか!? 台座バグとか端財バグとか水没林周回とか!」
柊木学園の教師なら効率的な稼ぎ方を知っているはずだ。
「教師に金策を求めるのはどうかと思うが、例えば……夏休み明けの実力テストで上位に入ればポイントが支給されるな。だからそれを目指して勉強を──」
「姉貴! そんなくだらない方法は違うってことを言わなきゃ分からないのか!?」
「ちゃんと頭を使って考えてくださいよ!」
「頭を使うべきは貴様らだろうが! このバカ共!」
突然逆ギレする先生。
何を言っているのかさっぱり分からない。
「ちっ! 駄目だ二宮、お前の姉貴は使い物になんねーよ」
「すまない。とんだ期待外れで、申し訳ない気持ちで胸がいっぱいだ……」
「おいおい顔を上げてくれ。謝んなよ……」
「謝る相手が違う」
……そろそろふざけるのは止めた方がいいかもしれない。このあたりが分水嶺だと俺の第六感が告げている。
俺たちを隔てているこのテーブルがなかったら、今頃俺たちの命は潰えていたに違いない。
先生の眉間のしわがとんでもないことになっている。
「……じゃーもう逆に考えようぜ二宮。9月末までは好き放題できるっつーわけだぜ?」
もうここからポイント集めは絶望だ。
ここは割り切って残された時間を有効活用する方向に切り換えるべきだと思う。
「ほう、なるほどな。散り際にどでかい花火でも打ち上げるのも悪くはないな!」
「いや待てお前ら。勘違いが無いように言っておくが──」
突然会話に割って入る二宮先生。
「──今期の活動費も旧部は滞納しているからな?」
「……へ? なんで!?」
「先輩たちがいただろう!?」
「お前ら、率直に答えてほしいんだが……」
先生はとても真剣な顔つきで──とんでもないことを口にした。
「あいつらがまともにポイント払うと思うか──」
「──いいえ」
「──ないな」
「──だろ?」
……。
「まじで?」
「まじか?」
「まじだ」
悲しき即答会話ラリーが成立してしまった。
「ちょっと待ってください。じゃあ……」
「まさか……」
「ああ──3年が借金を踏み倒して引退した」
「あの野郎!! もっかい放送でボコボコにしてやんぞおい!!」
「その通りだ! これはやってしまって問題ない! cube代表が許可する!」
「そのまま旧部が廃部になっていたら、放送部の特殊な事情も考慮してお咎めなしだった可能性が高い。だが、一昨日突如お前たちが放送を始め、旧部の活動状況を3年──いや全校生徒に広めてしまった」
「「……」」
「それで生徒会の方から活動費の滞納について、正式に請求があったというわけだ。活動してるなら活動費をよこせとな」
二宮先生は書類をひらひらと見せる。
「ちなみに、その期限は……」
「いつまでなんだ……?」
二宮先生は書類を確認して──
「1学期までと記載されている」
そして──
「だからお前ら、廃部になりたくなかったら──明日までに100000ポイント集めてこい。それができなければ、廃部だ」
◇
二宮先生は、「どうせ廃部になるからこの旧放送室を整理しておけ」と言い残して、職員室へ戻っていった。
……。
こんなあっけない形で、旧部が終わってしまうのはなんだか釈然としない。
二宮先生に聞かれた時は、「まあ旧部はあった方がいい」なんて答えたが、廃部というものが、いざ目の前に迫ってきて初めて、自分の意思が明確になった。
旧部に入って先輩たちに振り回された2か月。
二宮とどうでもいいバカ話をして過ごした2か月。
青春と呼べる、何にも代えがたい貴重な時間を過ごしたこの場所が、本当に無くなるというのはあまりにも寂しい。
──旧校舎を活動拠点としていた部活動も次々と新校舎に移転し、放課後の旧校舎は静寂に包まれている。
旧校舎特有の古びた窓を力強く開けると、夕暮れの柔らかな陽だまりと共に、新鮮な空気が部屋全体を包む。
窓の向こうには、新校舎がある。
玄関で何人かのグループが仲良くしゃべりながら帰っていくのが見えた。
新校舎に居場所のない旧部は、今年度で廃部になることは避けられない──
でも。
仮にそうだとしても。
だったらせめて、今年度まではこの場所を守り抜くことはできないだろうか?
俺らにふざけたアカウントを作った先輩たちも、顔を出す場所が無くなってしまうのは、少しばかり悲しい思いをするはずだ。
二宮先生は廃部を避けるのは無理だと思っているのだろう。だが──
無理だ──そう言われたら、むしろやって見せたくなるのが人間。
やめろ──そう言われたら、むしろやりたくなるのが人間。
勉強するな──そう言われたら、普通に勉強しないのが人間だ。
というわけで、外はすっかり夕暮れで下校時刻だが、俺たちは旧部存続の作戦会議を始めた。
「……どうするよ?」
「……うむ」
一日で10万稼ぐなんて無理な話だ。
そもそもポイントは基本的に、月の初めに振り込まれるものであって、月の初め以外でポイントが増えることはない。7月下旬ではもうどうしようもない。
「たしか、毎月振り込まれるポイントって上限あったよな?」
「体育祭などの学校行事を除いた、単純にスコアからもらえるポイントは毎月、どんなに優秀な生徒でも5000ポイントだな。と言っても、満額もらってる生徒なんて聞いたことないが」
「ってことは……どんな完璧超人でも10万稼ぐのに約2年かかるな」
「しかも、稼いだポイントに手を付けないという条件付きだ」
「んな奴、いねーわ」
まともな方法で10万集められないと言うなら、多少良心が痛むが──
「──理数科の奴らに、女を紹介するとだましてポイントをむしり取るってのはどうだ?」
「山市。いくらなんでもそれは駄目だ」
「さすがに無理か」
「ああ──ポイントが10万に届かないからな」
「だよな」
※ツッコミ不在でお届けしております。
2学期からは──更科さら、という金髪碧眼ヒロインが登場するので、それまでお待ちください。
本編のネタバレを果敢に挟み込んでいく新手のスタイル。
「最悪ポイントを強奪できたとしても、あいにく時期が悪すぎたぞ。月末でポイントが残ってない生徒もいるはずだ。明日が1学期最後の登校だからな」
「だよな。もうちょい早く言ってくれればいいのに……」
最初の放送から、体感的には24日経っている気がするが、なぜかまだ1日しか経ってないんだよなあ……。
やばくね?
今まだ2日目なんだぜ?
あーちゃんとしゃべってたのまだ今日なんだぜ?
不思議なこともあるもんだよなあ……。
「すなわち、正攻法は無理だが……」
「っつーことは……」
正攻法で、1日10万稼ぐ方法など存在しない。
そもそも、一人で稼げる額には限界がある
と、なると──人からポイントをもらうしかない。
自分たちが置かれた状況を鑑みて、現実的かつ速攻で10万を集める手段は、考えれば考えるほど──自然とたった一つに絞られる。
──夕暮れに照らされた旧放送室。
二宮と視線がぶつかる。
「──山市」
二宮が俺の名前を呼ぶ。
「安心しろよ。多分同じこと思いついてる」
「ほう、やはりお前もその考えに至ったか」
「もうここまで来たらあれしかねーだろ」
お互いにニヤッと笑い合って──
「「so cube!!!」」
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ユーザ名:cube@so cube!!!
柊木学園高等部の1学期最終登校日の明日の昼休み、
旧校舎の大講義室を貸し切って、so cube!!!公開生放送!
【代表リクからのコメント】
この愛を全妹に捧ぐ。
【参謀ソラからのコメント】
チェックメイト。
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※今回の後書きは必見!!
『先に宣言しておく』
「なんだ?」
『おそらく今回──歴代最大の後書きを叩き出す!』
「そんな日本語ある?」
『なろう史上初の表現であることは間違いない』
「皮肉にもリスナー全員意味分かるのがむかつくな。長くなるってことだろ? 今回、本編もそこそこの文量だったぞ?」
『実は妹たちにお願いがある──柊木学園の生徒になってほしいんだ!』
「意味が分からない」
『ナチュラルに放送だけを聞いている柊木生の目線に立ってほしいということなんだ』
「ほう?」
『izumiによると、この後、あーちゃんと姉貴とちょっとした出来事を挟みつつ、決戦の第三回放送へ向かうらしい』
「本編のネタバレを本編で飽き足らずに後書きでもする強気なスタイル」
『……というかあーちゃんとは誰だ? オレの妹センサーが反応──』
「──まあそれはいいじゃないか。それで?」
『う、うむ……それで、第二回放送から時が立っているように感じるが、実はまだ作品内では第二回放送と同日なんだ』
「後書きで散々放送っぽいことをしているせいで、余計に後書きリスナーは錯覚してる可能性は高いな。こいつがリスナーのことを妹と言うのも、本編じゃ多分一度も言っていないという事実」
『後書きが本編を凌駕する怒涛の勢いで発展した結果、オレと山市のキャラクターは後書き妹には伝わっているが、本編では正式な放送を一回しかしていないので、本来は柊木生にとって謎の存在なんだ!!』
「後書きが本編を喰らう、か……。後書きやりすぎたな……っ!!」
『ちなみに、後書きはもっとやれという感想が多数届いたぞ!』
「正式に“後書き小説”という二つ名を頂戴したな」
『それで、このまま放送に行くと、読者目線と柊木学園の生徒目線が、あまりにもブレて仕方がないとizumiは悟ったわけだ』
「それはそれで面白いが、あまりの違和感で内容が入ってこなかったら、せっかくの第三回放送がもったいないな」
『理数科を除く柊木学園の生徒は、放送とSNSしかcubeの情報がない』
「SNSの不名誉な拡散は柊木生の共通認識だが、3年以外は放送すら聞いていない奴が多数のはずだ」
『そこで──後書き妹たちにお願いがある』
「なんだ?」
『まず、第1回放送と第2回放送とその前後を読み返してほしい。』
「単純な放送と、SNSアカウントによる情報のみを頭に入れてほしいというわけだな」
『それで、できれば──柊木生になった設定のSNSのコメントが欲しいんだ!!』
「!?」
『別に一言でも、長文でも、質問でも、面白くても、面白くなくても、なんでもいい!』
「ほうほう」
『第三回放送までの展開でちょっと活かそうと思っている! 例えば』
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CN:リク師匠の一番弟子
【拡散希望】
【拡散希望】
【拡散希望】
明日、cube代表のリク師匠様と参謀の闇堕ちロリコンが昼休みに旧校舎の大講義室で……
緊・急・生・放・送!
世紀の大事件の決着がついに!?
これは見逃せない!
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CN:▼・ω・▼
乗るしかないこのビッグウェーブに!
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CN:Mr.X
もう会話のキャッチボールが剛速球にデッドボールでやばいwww第三回放送が楽しみすぎるwwwww
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CN:シノシノ
コーヒーを飲みながら何気なく聞いたら、吹き出しました。
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『こんな感じでコメントを頼む! 実際に学校の昼休みに突然校内放送が始まってこの内容が流れたらと考えると……』
「俺だったら、自分の好きな子が下ネタで笑ってたら、逆に好感度高くなるな!」
『オレは、放送が流れた瞬間、皆はまず黙ると予想する』
「なるほど?」
「その静寂の中、放送が流れ続け、笑ったら負けみたいな緊張感のある雰囲気が流れるが……逆にそういう場では笑ってしまうからな。何かの拍子に誰かが笑い出して……つられて誰かが笑って……みたいな感じになると予想する』
「リアル~」
『このように“私のクラスはこんな状況になりました!” みたいな報告系のものでも、本当に何でもいいぞ!』
「ちなみにさっきの例の最初以外は、実際の感想だな。ちょっと本編向けに表現を変えたものもあるが、ほぼそのままだ」
『もし、誰からも感想が来なかったとしたら、このように既存の感想を、少し言い回しを本編用に変えて、利用させてもらうつもりだ!』
「まあ、リスナーにけっこう無理言ってるのは正直分かってる」
『ああ。あくまで後書き妹に、柊木生の目線ってこんな感じだよな、と認識してもらうための延長線上の策だ。無理して感想を書く必要はないぞ!』
「その通りだ」
『だが、もしかしたら第三回放送でメッセージとして勝手に採用する可能性はあるのでそれは注意!』
「リスナーからネタをいただく精神、嫌いじゃねーよ!」
『肝心の放送への反応コメントはそれぞれの放送回の感想欄に書いてくれると助かる! 一人何個でも構わんぞ!』
「CNも付けてくれてもいいぜ!」
『改めて言うが、別に面白くても、面白くなくても、一言でもいい! 何を隠そう、柊木生目線を一番欲しているのはizumi自身だ!」
「迫りくる後書きの奔流に飲み込まれて、自分を見失ったんだな……!」
『何とか話を進めつつ、適度にネタも入れて、ちょっと笑い弱いなと思って一旦消して、書き直して……を繰り返し、やっと本編書き上がったと思ったら、次は後書きの内容を考えて』
「内容を考える前にまず後書きの意味を調べてこい」
『“本編で良い感じの掛け合いできたけど、何か見たことあるな……あ、これ後書きでやったわ”という新たな気付き』
「愚かすぎる」
『しまいには、”前書きに比べて、ちょっと今日の本編弱いな……”と、首をかしげる始末』
「……どっちが本編か分かんなくなってんじゃねーか!」
『つまり、本編を書きながら、並行して当たり前のように妹リスナーとの交流を後書きでやっていたら、脳内がバグったらしい』
「本来の世界線なら、まだリスナーのメッセージ読み上げたのは第二回放送の一回しかやってないからな。後書きじゃもう何回やったよ? 覚えてねーわ」
『まあそういうわけで、柊木生になった妹たちから、謎に包まれたso cube!!!へのリアクションやメッセージを大募集!』
「放送の反応は、各放送回の感想欄に書いてくれると助かるぜ! あと、普通の感想も待ってるからな!」
『今回の投稿から、次回の更新まで1週間空けて反応を待つ! 次回の話で柊木生目線のコメントをさっそくいくつか利用したいそうだ!』
「なるほど! ……もしかしてこれ毎日投稿をサボるための策略じゃねーよな?」
「『……』」
『毎日投稿よりも作品のクオリティを優先したい、ということなんじゃないか?』
「まあここは、良い方向で捉えてやるか」
『思い返せば、筆を置いてから再び投稿を開始して一週間が経ったが……現在コメディ部門日間1位、週間1位、月間3位、四半期8位にランクインと、本当に妹たちには感謝という言葉以外は思い浮かばない』
「……ああ。まじで夢のようで、あっという間の一週間だったな……!」
『ありがたいことに沢山送られてくる感想も、すべて読ませてもらっているぞ!』
「izumiの生活が落ち着き次第、返信を返すつもりだから、もう少し待っててくれよな!」
『一旦区切りとなる第三回放送の前に、最後のビッグウェーブと行こうじゃないか!! 妹よ、オレに力を分けてくれ!!』
「ああ! 最後にもうひと盛り上がりしよーぜ!!」
「『一週間後にまた会おう!!』」
※正直に申し上げて、
研究やインターンが忙しくなってきたのが5割、
毎日投稿よりもクオリティを優先したいのが3割、
せっかくなら最後はもうめちゃくちゃにしたいのが10割です。
一週間後に再びお会いできるかは正直かなり微妙で、もしも無理そうな場合は活動報告で報告します。
もし、お会いできなかったら、
『izumi……研究やばいんだ……』
と、東京の方角へ合掌してくれると、研究が進むんだぁ……きっと……。
しかしここまで来られたのは本当に皆様のおかげです!
小学生も中学生も高校生も大学生も社会人も含めて!
よろしければ、最後にもう少しだけお力添えを!
izumi
P.S
ついに今回、後書きが本編の文字数を余裕で超えた件について。




