文章力ない奴が急に情景描写を始めたら、もうそれは前フリの合図。
「こうなった原因は単純明快──この学校に放送部が二つあるからだ」
「「……?」」
……イマイチ話が見えない。
「お前たちも聞かされている通り、去年の冬に、この学校の新校舎の完成に際して、放送部が新放送部と旧放送部に分裂した。当時の1年が新放送部を立ち上げる形でな」
現在、学校運営としての放送関係は全て新放送部が担っている。
そもそも旧校舎の放送設備では新校舎に放送を届かせることができないし、旧部は本来6月に廃部している。俺たちが入部したのが問題だったわけだが。
放送部とは新放送部のことを指すし、そもそもこの学校に放送部が二つあることは全然知られていない。
……まあそれもつい二日前までの話だろう。
たった2回の放送で一気に悪名が広がってしまった。
「……一体何の関係が?」
「柊木学園において正式な放送部は新放送部だ。当然、放送部にあった積立金も新放送部のものとなるのが道理だ」
「な、なんだと!?」
「まじか……」
いきなり納得するのは難しいが、反論する余地がない。
そもそも旧部は本来、すでに部員がいないはずの部活だしなあ……。
「4月と10月に新たな生徒会が発足する。その代の生徒会に活動申請を出す必要があるわけだが、その時にポイントが必要だ」
「……で、そのポイントは……いくら必要なんだ?」
恐る恐る二宮が尋ねる。
「必要なポイントは部活動によって大幅に異なる。例えば野球部やサッカー部などの専用スペースを占有する部活はとても高額なポイントが必要だ。逆に、どこの空き教室でも活動できて融通が利く、手芸部や写真部などの文化部は、ほとんどポイントが必要ない」
ある程度の公平性を担保するため、一律にポイントが決まっているわけではなく、活動規模が大きかったり、活動に設備が必要だったりする部活はポイントがかかり、逆もまた然りというわけか。
「そうなると、部員が多いとメリットが大きいってことですか?」
「その通りだ。例えばメジャーな運動部はポイントがかかるが、部員も多い、OBOGの積立金はもちろん、3年からの還元もある。万が一、現役部員からの徴収が必要でも、人数が多ければ一人あたりは少額で済む。そもそも現役部員から徴収した例は聞いたことはないがな」
なるほど。
ある程度、学校運営としても人数が多いところに、有限のリソースを割くというのは理にかなっているのかもしれない、
「それで姉貴、肝心の放送部はどうなんだ?」
「放送部は放送室でなければ活動できないからな。その分だけ文化部にしてはポイントが高くなる。先ほど、生徒会の柊木から受け取った書類によると……」
先生が、先ほど受け取った書類を手に取って確認し──俺たちの方へ裏返した。
「前後期それぞれで──100000ポイントかかる」
「「10万!?」」
な、なんて額だ……。
「おい二宮! お前いくら持ってる!?」
「ちょ、ちょっと待ってくれ!」
スマホを取り出して、柊木生用のアプリを起動する。
「すまん……1000ポイントと少し、というところだ」
「……まじかよ」
100000ポイントのたった1%にしか満たない。
「申し訳ない。必要だと知ってたら貯めたんだが……本当に申し訳ない」
がっくりとうなだれて、拳を固く握りしめながら悔しそうに何度も謝罪の言葉を口にする二宮。
彼の部活存続にかける真摯な思いが、その様子を見るだけで痛いくらいに伝わってくる。
「……気にすんな。誰も悪くねーよ」
「……ああ、だがしかしこのポイントでは──」
「──二宮。大事なのはこれから二人でどうやってポイントを稼いでいくか、違うか?」
「山市……」
二宮はようやく顔を上げてくれた。
「うつむいて過去ばっか見ても仕方ねーよ。これからやってくる未来の方がよっぽど大事と思わねーか?」
「ああ、その通りかもしれんな……!」
「俺は0だ。だから気にすんなよ」
「ああ……」
互いの友情を深めたところで俺たちは今後に向──
「──ってナチュラルになんてふざけた告白してやがる貴様!!」
「しゃーねーだろ!? だって罰金くらったって昨日言ったじゃん!」
二宮がとてつもない勢いで掴みかかってくる。
両手を上げて降参ポーズをとっているところに掴みかかってくるなんて、こいつはなんて常識外れなんだろう。
「お前の方が非常識だろう!?」
「心を読むな」
二宮先生も理不尽な弟に呆れているに違いない。
──俺の学生証を渡して二宮のスマホにかざして、残高確認を行う。残高確認自体は誰のスマホでも行うことができる。
──スマホの画面には潔く、0の数字が浮かび上がっている。
「な、ほんとだろ?」
「嘘であってほしかった……」
頭を抱える二宮。
「ちなみに二宮は毎月いくら支給されてる?」
「オレは大体1000ポイント前後だな。お前は?」
「俺もまあそんなとこだ」
「ならば……10月に100000ポイントは無謀じゃないか……!」
「……」
……まずい。
これもう……完全に詰んでね……!?
『なんとまさかのコメディ週間1位! 現在日間は1位、月間は4位だぞ!』
「この勢いのまま1学期最終日まで突っ込むぜ!」
『みんなからの応援誠に感謝だ!』
「ありがてーよ!」
◇
『さて、後書き小説という異名を持つ本作の後書きだが』
「不名誉すぎる二つ名だな。まあ確かに前回はかなりひどかった」
『さすがのizumiも投稿した後、あらためて前回の話を一通り読んだ際、”……これ読みづらくない?”と反省して、今後、後書きは手短に済ませようと固く心に決意したらしい』
「なんならなくてもいいという声も絶対あると思うけどな。さっき見直して気付いたけど、次話に行きづらくてしょうがない」
『というわけで、今後は普通になくなるかもしれん。まあそんな批判が届く前にやりたい放題やらせてもらうわけだが』
「犯罪も捕まるまでは罪に問われない理論だな。で、今回はどうしたんだ?」
『衝撃的な事実なんだが……いいか?』
「……なんだ?」
『【フェルマーの最終定理】の後書きで、山市が何気なく──
【中学生はこんなの読まねーよ。チートかハーレムとかもっと王道読むわ】
と、言っていただろう?』
「ああ、何かそんな感じのこと言ったかもな」
『実は……あの発言の余波が続いていてな……』
「あ、分かったあれだろ? ”元中学生です”みたいな秀逸なコメントがたくさん来たんだろ」
『いや──本当の中学生妹から感想が届くようになった』
「……は?」
『まず、以前感想をくれた中学生二人の男女妹ペア』
「初めて聞く単語」
『他にも”陸おにーちゃんを殴るためにアップを始めた、一年前までは中学生だった妹』
「やめろ! こいつにとってはご褒美だ!」
『あと数日間は中学生の妹からも』
「うおお……」
『極めつけは──来年から中学生女子という妹まで……』
「…………まじで? ちょっと早熟すぎない? お兄さんびっくりしてるよ?」
『それにしても、読んで言葉を残してくれるのはありがたいな。オレたちに親しみを持ってくれた証だ』
「こいつに親しみ持ったら人生おしまいなんだけどな」
『なろうのユーザ層の広さを改めて思い知る機会になった』
「お前は妹しか興味ねーんだろうけど、俺は断然、大人からの反響の方が気になるわ」
『ほう? 年上好きか?』
「ちげーわ。この作品ってなんでこんなに読んでもらえるのか、izumi含め、俺たち誰も分かってねーだろ? なろう歴の長い人からの感想が参考になったりすんだよ」
『確かにな。あれだけ最大瞬間風速とか言っておきながら、すでに四半期──』
「──もう止めとこーぜ。また後書きが長くなる。いっそ本編が前書きとか言われかねねーよ」
『しかし、後書きを完全に無くしたら、izumiが感想に返信することになるが……』
「……需要ねーよなあ」
 




