ここからが、物語の始まり。
「……後者でお願いします」という勇気ある決断によって、二宮は現在、処分に追われている。
といっても、あくまで妹グッズの中から18禁のみ処分するだけなので、あまり時間はかからないだろう。
「陸が色々迷惑をかけてすまないな」
「いやーほんとっすよ」
二宮が処分のために放送室を離れている間、互いに椅子に掛けながら二人で優雅なティータイムとしゃれ込むことにした。
「私は私で、顧問としてお前たちの活動で迷惑を被っているんだが」
あんな不適切な放送を看過する教職員は、この世界のどこにもいないだろう。
きっと旧部顧問の二宮先生は、お偉いさんからお叱りの言葉の一つや二つ、もらっているに違いない。
「先生方の、あの放送に対する反応は目に浮かびますね……」
そう考えると、とても申し訳ない気分になってくる。
「ああ──今日の旧校舎職員室は大いに盛り上がっていた」
「なんでだよ」
「女性陣からはあまり評判は良くないが、男性陣はけしからんと言いつつ、放送にしっかりと耳を傾け、私に止めさせろと言う人は誰もいなかった」
「大丈夫かこの学校」
「旧部OBの武勇伝を聞いている時は、しきりに頷いていたな」
「同類かよ」
「ただ、お前がOBを土下座させた時は、「人としての道を踏み外すな!」と言っていた」
「互いにな」
「メッセージ送ったのに読まれなかったと、悔しがっている先生もいたくらいだ」
「もう転校しようかな」
道理で授業で色んな先生に会っても、特に何も注意されないわけだ。
それどころか、課題を忘れても少し優しい対応をされることが多い気がする。
……勝手に応援されていたとは。
まあ、高校教師になる男なんて、8割方ロリコンって聞いたことあるし、特に二宮の幼女関連の話がドストライクなのかもしれない。
「ふう。やっと終わった……」
と、会話がひと段落したところで、二宮が戻ってきた。
「先生、すれ違いになってしまったみたいですね」
続いて、人外美少女こと、柊木も二宮の後に続いて入ってきた。
「それでは、これをお渡ししますね」
柊木は二宮先生に書類を渡した。
「確かに受け取った。別に直接渡してもらわなくてもよかったんだが、わざわざすまないな」
「いえ。そこに生徒会から、旧放送部に対する活動費の請求が記載されてますので、ご確認よろしくお願い致しますね」
そう言うと、柊木は丁寧な所作で放送室から去っていった。
今すぐ追いかけて、お兄様発言について色々と聞きたがったが、それどころではない物騒な内容が聞こえてきたので、そっちは一旦後回しにするしかない。
◇
「さて、私がここに来たのは理由がある」
先生が改めて切り出す。
二宮先生がテーブルの向かいに座り、俺と二宮に相対する形となる。
なんというか圧が凄い。2対1なのに戦っても負ける気しかしない。
ちなみに放送時を含めて、普段なら俺と二宮が横に座ることはないので、新鮮な気分だ。
「お前たちに確認しておくが、旧放送部を2学期以降も存続させる意思はあるんだな?」
「当たり前だろう! 妹スポットのためにもこの場所を守り抜く!」
18禁系統はなくなったとはいえ、まだまだ妹系のグッズはこの一室に祀られている。
「まあ俺もあった方がいいっすよ」
別に旧部がなくなったところでそこまで困ることはないが、思い入れもあるこの場所があるに越したことはない。
……だが、先ほど柊木が何やら不穏なことを言っていた気がする。
「活動継続の意思があるのならお前たちに説明しておくことがある」
「なんすか?」
「残念ながら──旧放送部は廃部だ」
急すぎる無情な宣告。
当然俺たちも黙っていられない。
「何で急に俺らそんな目に遭うんすか!? そんなの横暴ですよ!?」
「そうだぞ! オレたち真面目に部活してるだろう!?」
「なぜ自信満々に言える……」
なぜか頭を抱える二宮先生。
きっと、気苦労の絶えない生活を送っているんだろう。
できることなら、そのストレスを取り除いてあげたいくらいだ。
「いいか? 通常、部活動の活動にはポイントがかかるのは知っているか」
「「……え?」」
二宮と互いに顔を見合わせる。そんなのは初耳だ。
ポイントとは、学生の成績を反映したスコアに応じて毎月、学生に支給されるもので、学内通貨のことだ。勉強のモチベとしてこのスコア制度が導入されているらしい。
学生証をかざすことでポイントを使うことができ、ポイントの残高確認その他諸々は専用のアプリを介してそのサービスを受けることができる。
学内通貨というと、大層なものに聞こえるが、使い道は購買と学食ぐらいしかない。さらに、その支給額はあくまでお小遣いレベルだ。
学年トップレベルの成績なら、多少マシな金額になるらしいが、そこに至るまでに費やす時間と、日雇いの日給1万のイベントバイトの労働時間のコスパを比較してしまった時点で、俺にこのスコア制度は向いていない。
ちなみにだが、リアルマネーとポイントの交換を行うことはできない。ポイントを入手するには、あくまで勉強なり、部活なり、行事なりと、学校の中で何らかの成果を上げなければならない。
はいそこ、ポイントって死んだ設定だと思ってたとか言わないで?
ちゃんと1話目から書いてあるからな?
……書いといてよかったあ……。
「本来なら、柊木生のOBOGの寄付金や、卒業する3年生が、余った自身のポイントを部活動に寄付して還元するのが慣例なため、現役部員が部費としてポイントを納めることはない。ポイントの積み立てがあるからだ」
「待ってくださいよ。放送部なんて歴史ある部活ですよね? その積立金ってやつがたんまりあるでしょ?」
詳しくは知らないが、放送部はどこの学校にもある、由緒正しい伝統的な部活動のはずだ。
「現在、旧部の積立金は0ポイントだ」
「おい!? どうしてだ!?」
二宮が納得できないと言わんばかりに問いただす。
「こうなった原因は単純明快──この学校に放送部が二つあるからだ」
『以前にも述べた通り、”so cube何の反応もないし、新作をこれから投稿していこ!”と、izumiが意気揚々に投稿を始めたさなかに、知らない間に妹たちがこの作品を押し上げてくれたわけなんだが』
「誰も見てない本作を消去しようとページを開いて、やっと事態に気付いたのはここだけの話」
『気に入ってる言い回しや掛け合いを、そのまま新作に持っていこうとしたらしいが』
「証拠隠滅に失敗したってことだな。まあ逆に証拠隠滅してから書けよと思うけど……結果的にizumiがバカで助かったな」
『今、進学の危機らしい』
「助かってない」
『本当にありがたいことに、妹たちの応援の甲斐あって本作が続いているわけなんだが、原作ストックが冗談抜きで0のため、更新ができないという問題がある』
「ここ数日、何とか頑張ってはいたけどな」
『それはたまたま春休みだったからなんだが、現在、読まなきゃいけない論文の数が溜まりに溜まっているらしい』
「院生あるあるだな。日本語じゃないからちょっとキツイやつ」
『ああ。だから最近は毎日研究室に向かう日々』
「大学院生としては有意義な日々だな」
『朝から爽やかに研究室メンバーと談笑しつつ、手短に会話を切り上げ、今日のタスクを確認」
「おお。できる奴っぽい」
「そして、次の学会発表に向けて構成を練りながら、自分の机でパソコンを開いて論文と向き合う』
「おお。ちゃんとしてんな」
『そして周囲を確認し、なろうを開く』
「待て」
『論文を読むつもりが、いつの間にか感想という名の小論文を読んでいたと』
「バカなん? 大学院生ってこんなバカなん?」
『背後を人が通るたびに、何食わぬ顔で用意しておいた論文のウィンドウに切り替える緊迫の日々』
「無意味な日々」
『感想を読むときの胸の高鳴り』
「それただの緊張」
『こうして、充実感を得たizumiは、次回の話の構想を練るのだった……』
「論文読めや!」
『……という極めて深刻な状況に陥っている』
「こんなバカだからこんなバカ話書けるんだな。納得したわ」
『これから研究も忙しくなり、もうシャレにならないくらい本当に時間がない』
「なるほど、状況は把握した」
『というわけで、一旦更新をお休みする』
「……まじか」
『──その前に』
「!?」
『これから毎日投稿して、第三回放送までなんとか辿り着こうと思う!!』
「まじか!? というかizumiはそれで大丈夫なのか!?」
『無事に投稿を終えた後、研究に専念するから大丈夫だそうだ!』
「そっちじゃない! izumiが毎日投稿できると思ってんのか!?」
『……確かにな!』
「これで出来なかったら、非難轟轟だぞ!?」
『あえて自分を追い込んでみるスタイルだな!』
「嫌いじゃねーぜ!」
『というわけで妹たち、ついて来いよ!』
「ああ! この今しかねーからな? 乗り遅れんなよ!」
「『このビッグウェーブに!!』」
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